長い長い残暑の影響か、今年の秋の花の開花の盛りは例年よりも総じて遅れ気味で、11月のこの時期になって、ススキも花盛りの様相です。
秋には、在来種に混じって多くの外来種植物が咲き乱れます。コスモス、ヒガンバナ、セイタカアワダチソウの秋の三大外来帰化種についてはそれぞれ既にコラムで取り上げましたので、それ以外の美しく、また面白い種について紹介します。
眉目秀麗な秋の麗人。シュウメイギク
シュウメイギク (秋明菊 Anemone hupehensis)は、「菊」と名がついているもののキク科ではなく、キンポウゲ科アネモネ属に属する多年草。平安期ごろに日本に大陸から渡来したと推測され、文献上では14世紀末の『文明本説用集』に「秋冥菊」として記載が見られ、さらには江戸初期の『花壇綱目』(水野元勝 1681年)には「貴布禰(きふね)菊」の名での記載が見られます。
その当時、山城国(京都府)の貴船近辺に多く野生化した同種が見られたためと思われますが、現在では全国の路傍に自生し、深まる秋の点景となっています。
キンポウゲ科と言えば、やはり秋に咲くサラシナショウマや、春に咲くイチリンソウなど花も草姿も美形ぞろいの一族ですが、シュウメイギクもその大きな五弁、もしくは八重のピンク色の花弁(萼)の中心に黄緑色の雌蕊を山吹色の雄蕊が取り囲む花、三裂した葉の落ち着いたモスグリーン、優雅に湾曲したほっそりした花茎の先につく鈴のような蕾など、どこを眺めても端正で完成度が高く、秋の風にそよそよと揺らぐさまはため息が出るほどです。
食べるな危険!下校の道の誘惑者?ヨウシュヤマゴボウ
ヨウシュヤマゴボウ(洋種山牛蒡 Phytolacca americana)は、ヤマゴボウ科ヤマゴボウ属に属する宿根草で、「ヨウシュ」とは「洋種」のこと。原産地の北アメリカ大陸から明治時代初期に移入し、野生化したためにこう呼ばれます。
高さは1.5mほど、花期は夏で、あまり目立たない薄緑の円錐花序をつけますが、秋の深まりとともに実は赤黒く、花軸は赤く染まり、よく目立つようになります。林の縁などの半日陰から、空き地などの草っぱらなどで、ずっしりとした草体は存在感があり、学校の行き帰りの道端などでもよく見かけられ、そのブドウの房のような濃い紫色の実は紫色の液汁を出すために、潰して道に落書きしたりして遊んだものです。実際この実は簡易的なインクの材料にされたり、かつては生地の染料にも使われていた歴史があります。
ちなみに「洋種」ではない在来種のヤマゴボウも存在します。
ヨウシュヤマゴボウの花序・果序が下向きに垂れ下がるのに対して、在来のヤマゴボウは花序も果序もピンと上に立ち上がります。
またブドウの粒のようなヨウシュヤマゴボウの果実と異なり、在来ヤマゴボウは小さな実が八つ集まった分果で、ちょうどクワの実のように見えます。
ちなみに見ようによってはどちらも食べられそうな気がしますし、ゴボウと名がつくので根も食用になりそうですが、じつは全草毒草で、生のまま口にすると強い中毒症状を引き起こします。
ただし、葉と茎はよく茹でると食べることはでき、熱を通すと毒性が減衰するため、ヨウシュヤマゴボウの茹でた葉はpoke salad(pokeはヨウシュヤマゴボウの英名)に、実はパイに入れるなどして食用にもされてきたのは、やはり原産地でも「美味しそう」とは思われていたからなのかもしれませんね。
秋の青空にすかっと映えるタデの巨人。オオケタデ
オオケタデ(大毛蓼 葒草 Persicaria orientalis)は、熱帯アジアが原産のタデ科イヌタデ属の一年草。タデ科はホンタデやイヌタデ、アイやソバなど、「赤まんま」とも呼ばれる粒々の小さな赤紫の小花をつける小ぶりの植物という印象が強いかと思いますが、オオケタデは草丈が優に2mを超し、分岐した茎を雄大に四方に広げるタデ界の巨人です。7mm内外の花が集合した濃いピンクの花穂は15cmにもなって無数の花穂を垂らした最盛期には、非常によく目立ちます。
『訓蒙図彙』(1666年)に「葒」として記載が見られ、少なくとも江戸初期には中国から園芸種として移入していたことがわかります。強壮な性質から逸出して野生化、日当たりがよく湿潤な河原などの広い場所に自生する姿を見ることができます。
葉や茎、黒い種子が虫刺されや炎症、傷の手当などに薬効があるとされる薬草で、「ハブテコブラ」という奇妙な別名は、ヨーロッパでは毒蛇の解毒に使われ、ポルトガル語のpão de cobraが語源だとされるのですが、これは「コブラのパン」の意味ですし、 pão=パオがなぜ「ハブ」になるのかもよくわからず、何かしら関連はあるだろうもののちょっと怪しい語源説です。
異星から来た?奇抜な帰化植物の新顔・フウセントウワタ
以前筆者は郊外の草原を散策中、奇妙なかたちの花と全体が長いトゲで覆われたホオズキの実のお化けのような実を同時につけた不可解な植物を初めて目にし、「一体こりゃ何だ」としばし衝撃を受けたことが記憶に残っています。調べて見るとそれがフウセントウワタ(風船唐綿 Gomphocarpus physocarpus)なる帰化植物だと判明しました。
フウセントウワタは、キョウチクトウ科ガガイモ亜科に属する低亜木。
葉は柳葉のような細い線状披針形で、地上付近の木質化した主幹から茎を数多く萌出し、密生するように繁茂します。
花は、白い外花弁は花軸側に強く反り返り、花の中心部にはうっすらと紫がかった5弁の副花冠が、クッキーの花型の型抜きのように立体的に立ち上がります。
この副花冠の内側に、雄蕊と雌蕊、子房が複雑に融合した生殖構造体があり、受粉して種子が形成されると、花弁が散り落ちて丸い果皮が裸出、最終的に直径5cmにもなる大きな風船状の果実に成長をはじめます。果実は二重構造で、中心部に銀色の長い綿毛をつけた種子がギュウギュウに整列して内果皮に守られ、その外側には糸状のクッション(果物では果肉に当たる部分)を詰めこんだ外果皮が取り囲んでいます。つまり「風船」とたとえられてはいますが、中はすかすかではなく、構造物がびっしり詰め込まれた梱包物のようになっているのです。
外果皮の外側には見るからに刺さると痛そうな長くて鋭いトゲがびっしりと生えそろい、禍々しいばかりです。アフリカの過酷な自然環境で、捕食生物たちから身を守るために発達した鉄壁のガードなのでしょう。
果実が成熟して割れると、中から銀色の綿毛をつけた種子が現れて、風に乗って飛散します。近縁種の日本在来種のガガイモとよく似ていて、ガガイモの綿毛がケサランパサランとして認識されているように、やはり綿毛となってふわふわと飛んでいきます。
トウワタ属の分布中心域はアフリカ大陸で、フウセントウワタも南アフリカ原産。その面白い姿かたちから園芸品種として、日本にもわたって来て、逸出帰化しました。
しかし、トウワタ属はガガイモ亜科の中で中心的な属でありながら、その研究はあまり進んでいるとは言い難く、フウセントウワタについても、国内の図鑑や文献には、学名と和名の紐づけに混乱が見られます。同種を含むトウワタ属の今後の研究が待たれます。
今年は秋花の季節も長そうです。ですがこれらの花が終わり、虫の声も途絶え、熟柿も落ちる頃になると、やがて冬がやってきますね。
参考
植物の世界 朝日新聞社
秋の花 山と渓谷社 富成忠夫