桜の開花が始まり、いよいよ本格的な春がやってきましたね。春は、あたたかい日が続いたと思ったら急に寒い雨の日が続いたりと、なかなか天候が安定しない季節です。春の訪れに嬉しさを感じる反面、寒暖差に気が滅入っちゃう、なんて方も多いのではないでしょうか。
しかし私たちが暮らす日本では、そんな天候も風流のひとつ。今回は、春の風景を表す日本の言葉をご紹介します。
桜の長生きの秘訣は曇り空?
天気予報や時候の挨拶で耳にしたり目にする機会が多い「花曇り」は、桜の咲く頃の曇り空のことです。また、この季節は空気中に塵や埃がよく舞うため、景色がぼんやりと霞んだように見えます。花曇りという言葉は、そんな春の風景を表しています。春の日差しに薄っすらとかかる雲と、滲んだ景色。こんな天気の日はなんだかぼーっとしてしまいますよね。
みなさんは「養花天(ようかてん)」という言葉を聞いたことはありますか?養花天とは、花曇りと同じ意味を持つ言葉です。それでは、なぜ「花を養う天(そら)」というのでしょうか。
開花した桜は、強い日差しにあたり続けるとすぐに散ってしまいます。そのため、空に少し雲がかかった涼しい天候が桜を長持ちさせてくれます。このように、「曇り空が桜の寿命を長くする」ということから、桜の季節の曇りを「養花天」と呼ぶのだそうです。
せっかく桜が咲いたのに曇りの日が続くと気が滅入りそうになりますが、曇り空が花を養うなんて素敵な発想ですよね。
開花をうながす春の雨
「梅雨」と聞いて多くの人は6月から7月の雨期を思い浮かべるかと思いますが、日本にはみなさんが思い浮かべる梅雨の他にも、「菜種梅雨」「すすき梅雨」「山茶花梅雨」があります。その中でも菜種梅雨は、その名の通り菜の花が咲く時季の長雨のことを言います。
菜の花は3月から4月に盛りを迎えますが、この時季になると菜の花だけではなく、冬の寒さを乗り越えたたくさんの植物が花を咲かせます。そのため、花の開花を催す雨という意味から「催花雨(さいかう)」とも呼ばれています。雨の日は家に引きこもりがちになってしまいますが、開花を迎えた花々を見に散歩へ出かけてみるのもいいかもしれませんね。
春の終わりを告げる水たまり
熱せられたアスファルトの上に、そには無いはずの水たまりが見えるようなことってありませんか?この現象を「逃げ水」と言います。逃げ水は、水を汲みに行こうと近づくとどんどん水たまりが遠退いていくように見えることから名付けられたそうです。
逃げ水は晩春の季語で、有名な歌に以下のようなものがあります。
東路に有といふなる逃げ水の逃げのがれても世を過ぐすかな / 源俊頼
これは、平安時代の歌人、源俊頼が書いた歌です。現代ではあまり聞き慣れない言葉かもしれませんが、逃げ水は遥か昔から日本の四季を表す季語として使われていたようです。
逃げ水は春の終わりから夏にかけての暑い日になると、よく見かけるようになります。まっすぐな道にぼんやりと水たまりのような影を見かけるようになったら、すぐそこまで夏が近づいているのかもしれませんね。