
<高校野球神奈川大会:横浜清陵8-7藤沢清流>◇17日◇3回戦◇藤沢市八部野球場
センバツ出場の横浜清陵(神奈川)が予期せぬ火災被害にも負けず、劇的勝利で4回戦進出を決めた。藤沢清流に延長10回タイブレークの末、8-7でサヨナラ勝ち。16日に学校内の野球部倉庫で火災が発生し、保管していた思い出の品々が燃えた。火災原因はいまだ分からず、選手や保護者たちの間でも動揺が広がった。それでも一丸で劣勢をはねのけて逆転勝ちし、春夏連続甲子園出場へ1歩前進した。
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逆境を力に変えるほかなかった。試合前日の16日未明、横浜青陵は校内の野球部倉庫で火災が発生し、同部のボール、スコアブック、センバツ出場時の記念写真などが燃えた。焼け跡を見た選手、保護者は言葉を失った。その後に行われたミーティング。重苦しい雰囲気の中、野原慎太郎監督(42)が口を開いた。
「人生には負けてはならない日がある。この試合がその日だ。高校最後の思い出が焼けたこととセットになってしまうのは絶対嫌だ」
一時最大5点のビハインドから追い上げた。7-7の8回からは、背番号1の小原悠人投手(3年)が今大会初登板。右肘の靱帯(じんたい)損傷でいまだ8割程度の状態だが、志願のマウンドを3回無失点に抑えた。延長10回タイブレークの2死二、三塁では三塁走者を務め、暴投の間にサヨナラ勝ちのホームを踏んだ。「同点に追いついてくれた仲間に感謝しながら生還しました」とガッツポーズを作った。
昨秋県大会は公立校唯一の8強入りを果たし、学校を挙げて取り組む「自治」の姿勢が評価され21世紀枠で選抜に出場した。広島商に敗れた後は誰1人甲子園の土を持ち帰らず、夏に再び戻ってくると誓った。練習メニューの組み立てや打順の入れ替えなど選手中心に活発な議論を行うやり方は今も変わらない。この日も打順の入れ替えや戦況に応じた細かな作戦は山本康太主将(3年)らを中心に練った持ち味の選手の自主性が3時間5分に及ぶ激闘を制する原動力になった。
春夏通じての甲子園出場には、さらに5試合に勝つ必要がある。激戦区・神奈川の頂点は果てしないが、野原監督は「夏は逆算するんじゃなくて目の前の1試合に勝つことだけ。4回戦の相手だけを考えたい」と力を込めた。火災の記憶を振り払うように、泥くさく愚直に、最高の思い出を重ねていく。【平山連】