
<深掘り>
<阪神-ヤクルト>◇10日◇甲子園
雨の甲子園で、年に1度あるかないかのビッグプレーが生まれた。阪神近本光司外野手(30)が、2回表の中堅守備でに相手走者の“裏の裏”をかくフェイクを決めて珍しい中飛併殺を完成。「うまく決まった」というトリックプレーには、近本流の極意があった。
◇ ◇ ◇
0-0で進んだ2回無死一塁の阪神の守備。ヤクルト山田の飛球は中堅の前方に上がった。落ちるか、近本の足なら間に合うか。判断が難しい当たりだった。
近本は全力でボールを追いながら、瞬時にアイデアを頭に浮かべた。一瞬、グラブを持つ右手を上げた。「オーライ」ではない。外野手が走者を惑わすためによく見せる「本当は捕れないのに、捕れると思わせる」という動きだ。一塁走者の茂木はその動作で、動きを止めた。「フェイク」だろうと疑ったようで、すぐに一塁に戻ろうとはしなかった。仮に打球が中前に落ちても、二塁到達に間に合う位置にとどまっていた。
この時点で、近本の作戦はほとんど成功といえた。グラブを一瞬上げたあと、本当にダイレクトで捕球。矢の送球を一塁に送った。慌てて戻った茂木を余裕をもって刺し、球界でも珍しい中飛併殺を完成させた。
近本はこれまで、取れないのに取れると見せかけて走者を惑わせる通常のフェイクを何度も使ってきた。もともと球界屈指の守備範囲を誇るが、フェイクがうまい外野手としても認識されている。それを逆手に取り、今回は“裏の裏”をかいたアイデアだった。
近本自身、茂木の細かい動きは当然見えていなかった。それでも走者を見ながらのプレーか、との質問に「そうですね」とうなずいた。実は、万が一に備えて用意していたプレーだというから驚きだ。
「あそこが一番、走者はとして難しいところ。ああいうことは練習でやっていた。試合で使うことはないと思っていましたけど。うまく決まってよかったです」。走者心理を熟知したプレーに、笑みを浮かべた。
試合は3回途中、雨でノーゲームになった。初回に続き先頭を四球で出した不安定なデュプランティエを救う好守。試合が成立していれば重要なポイントになっていただろう。4年連続ゴールデングラブ賞の名手が年に1回あるかないかのビッグプレーを披露し、虎党に見せ場をつくった。
今日11日は中日を甲子園に迎える。相手の高橋宏には通算19打数8安打、打率4割2分1厘とめっぽう強い。6戦目でホーム初白星へ、近本には攻守とも大きな期待がかかっている。【柏原誠】