
<明治安田J1:東京V2-2東京>◇2日◇第8節◇味スタ◇観衆2万6865人
東京ダービーが白熱した。この一戦に特別な思いを持って臨んだのが、東京ヴェルディのMF平川怜(24)だった。
“青赤”FC東京期待の生え抜き選手だったが、紆余(うよ)曲折を経て今季からは“緑”のユニホームを身にまとう。古巣を相手にボランチで先発出場。思い入れの強い味スタのピッチで成長した姿を披露した。
1月の入団会見で意気込みを問われると「東京ダービーは絶対に負けたくない」と古巣への対抗心をあらわにしていた。その言葉通り激しいボール奪取に、持ち前のパスでFC東京に立ちはだかった。
試合はヴェルディが点を取ればFC東京が追いつくという展開。後半44分に同点とされた後、最大の見せ場が平川に訪れた。
アディショナルタイムの後半46分。ボールカットしたMF松橋がゴール前へ持ち込むのに合わせ、サポートに走った。パスを受けると中央から左足でゴールを狙った。しかしゴール前で体を投げ出した相手選手の足に当たり、ディフレクトしたボールはゴール上へと外れた。わずかのところで決勝点とはならなかった。
「勝ちきれなかったのが悔しい。シュートまでは落ち着いていけたんですけど、最後はちょっと下を狙った感じで振って、それが相手に当たった感じです」
いつものように淡々と、しかし話す言葉には充実感がまとっていた。
味スタのある調布市出身。中学1年から“青赤”のアカデミーで育った。高校2年だった17年11月、1歳下の久保建英(レアル・ソシエダード)とともにプロ契約を結び、同年11月18日の鳥栖戦で17歳215日にしてJ1デビューを果たした逸材だった。しかし6シーズン所属したもののレンタル移籍も挟み、出場機会には恵まれなかった。
22年に加わったJ2熊本で持ち味を発揮できるようになり、磐田を経て“緑”の戦士となった。「楽しみにしていた試合。本当に熱い試合になることは間違いない。そこに自分の経緯がつながってくるので盛り上がりのある試合をしたい」と誓ってのピッチだった。
国内には多くのダービーが存在するが、両者の相いれない関係性は際立っている。川崎を本拠地としていたヴェルディが01年に東京移転。同じ味スタを使用することとなり、つばぜり合いが始まった。ヴェルディが16年ぶりにJ1昇格を果たした昨年4月、リーグ戦での東京ダービーが復活した。鮮やかなコレオが映えるスタンドは美しかった。そんな中、FC東京側からは“川崎へ帰れ”と揶揄(やゆ)するように「ヴェルディ川崎」コールも上がった。今も両者の対立構図は変わらない。
双方のアカデミー選手は「絶対に負けてはいけない相手」と刷り込まれ、少年時代から強い対抗心を成長の糧とする。それゆえに平川は「アカデミー出身の選手たちにとって、自分の移籍は衝撃的だったと思います。ただサッカー選手として生き残るためにやっぱり厳しい決断もしなければいけない。そういう気持ちを見せられたらいい」と覚悟を示していた。
そんな平川を見つめる城福監督もまた、同じ系譜を持つ。Jリーグ加盟当初から東京の育成スタッフとなり、監督も長く務めた。だからこそ平川にはこう伝えた。「おまえの気持ちは誰よりも俺が一番分かっているつもりだ」。練習では厳しい言葉をかけ、泥臭く戦う姿勢をたたき込んだ。
熱狂の渦に包まれる東京ダービーはさまざまな思いが絡み、互いのプライドがぶつかり合う。2-2で終えた試合後、両チームはサポーターからブーイングを浴びた。勝利しかない東京ダービーの姿を表している。
「もう今はヴェルディの選手っていう思いが強いですし、もう単純に勝ちたかった気持ちが強い。FC東京で活躍することはできなかったですけど、ここでもう1回活躍して、この先のチャンスが広がればいいなと思っています」
平川は育ててもらったクラブ、かつての仲間に立派に成長した姿を見せた。それは思い描いていた形ではなかったかもしれない。だが夢見ていた舞台に立ち、思う存分プレーした。
「試合前から特別な一戦でしたし、いつもとは違うような気持ちで臨んで、試合中もこう高ぶる思いがありました」
平川は心の壁を乗り越えた。すっきりした表情が印象的だった。【佐藤隆志】