<寺尾で候>
日刊スポーツの名物編集委員、寺尾博和が幅広く語るコラム「寺尾で候」を随時お届けします。
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“世界の王”、王貞治が12球団オーナー会議の場で「オール野球界」で100年後を見据えた取り組みを訴えた。御年84歳。「実績」「品格」のすべてにおいて、今でもこの人にかなう野球人は見当たらない。
だから王の提言に異論を唱えるオーナーがいるはずはなかった。年をとったが、今も眼光は鋭い。年齢的にも、彼にとって、このプロジェクトが最後の挑戦になるかもしれない。そう思いながら聞いていた。
王は野球の競技人口が減少の一途をたどっていることに危機感を強調し、今後は「球心会」という名の団体を旗揚げするのだという。いわゆる野球振興に取り組む組織を結成することを明らかにした。
かつては「巨人の王」だが、今はソフトバンク会長の身。しかし、ここは王ではない、球団のサラリーマンオーナーがでてきたとしても話題にならなかった。“日本の至宝”が働きかければ、最高首脳たちが耳を傾けるのは当然だった。
そんな偉大な王も、巨人に別れを告げ、当時のダイエーに行くときは、激しくプライドを揺さぶられ、計り知れない葛藤、苦悩にあった。“球界の寝業師”根本陸夫がくどき、カリスマ経営者のオーナー中内功が万全を約束した。
さまざまな人が動き、ついに王は玄界灘を越えてダイエーに身を任せる。その後、日刊スポーツの特報によって「ダイエー 王招請」は明るみに出るわけだが、それでもホークスは弱小だった。しかし“世界の王”が礎となって、まさに常勝軍団が築かれていく。
しかも、パ・リーグにいっても、王の絶対的な存在感は揺るぎない。12球団オーナーを前に熱弁をふるうことができる人材はいない。提言後のある首脳も「王さんがおっしゃることだから、プロもアマも聞かざるを得ないですよね」と打ち明けた。
プロ野球出身者の王はノンプロをつかさどる日本野球連盟(JABA)の名誉会員でもある(広岡達朗、吉田義男、土井淳、土屋弘光の計5人)。小・中・高校・大学の女子を含めたアマチュアも底辺拡大にはノー文句のはずだ。
また別の幹部は「理念は理解ができます。これからなにをするかでしょう」という。実際、「球心会」の会見では「(現状は)各団体によってバラバラ」という声もでた。はい、王さん、残念ながらバラバラなんです…。
「プロ・アマ一体」といわれて久しいが、どこまでいっても1つにはならない。かつては王のコミッショナー就任もささやかれたが、浮かんでは消えた。なにが王の心を突き動かしたのかは読めないが、今回こそ期待が膨らむ。
そしてオーナーは夢を語らなくはいけない。そこは年に2、3回のトップ会議で「ノーコメント」などというオーナーはナンセンスだ。巨人オーナーの山口寿一が各団体のフラット化で新法人をスピードをもって具体化する必要性を訴えたのはさすがだった。
そういえば前に王は「プロ野球16球団構想」を披露している。第2次安倍政権が進めた「日本再興戦略」にあった政策と同調するかのようだった。今は何も先は見えない。不透明と言わざるを得ないだろう。ただ今度こそ“世界の王”の本気に賭けてみたい気はした。(敬称略)【寺尾博和】