EY調査、世界全体でネットゼロを達成する目標が危ぶまれる可能性
・米国は再生可能エネルギー国別魅力度指数(RECAI)のランキングで首位を維持するも、規制の変更により国際的な資本配分のバランスが崩れるおそれ
・2030年までに自国エネルギーの80%を再生可能エネルギーにする目標を掲げたドイツがランキングで中国本土を抜く
・グリーン水素の生産および輸出の主要国になるという目標を掲げたインドがランキング6位へ躍進
EYは、再生可能エネルギーに関する最新の調査「EY再生可能エネルギー国別魅力指数(RECAI)第61号」(以下、RECAI 61号)を発表しました。日本を含めた40カ国を対象にした本調査によると、エネルギー安全保障が推進され、景気が後退局面に入っている現在、再生可能エネルギー産業は成長のまたとない機会を迎えていることが明らかになりました。相互依存による旧来の市場力学はもはや持続可能とは見なされない一方で、国産かつ低価格で低炭素の(そして場合によっては運転開始までのリードタイムが短い)エネルギーが、これまで以上に魅力的なものとなっています。またRECAI61号は、多くの政府にとって、再生可能エネルギーの展開を促進する政策を策定することが、最優先課題になっていることも明らかにしています。
しかし同時に、政府による介入が国際資本の配分に不均衡を生じさせる可能性があることに加えて、各国がローカライズされたサプライチェーンを素早く整備しなければ、国際社会が合意したネットゼロの目標達成が危ぶまれることも、RECAI61号が浮き彫りにしています。
EY 再生可能エネルギー・コーポレート・ファイナンスリーダーでRECAI編集長のBen Warrenのコメント:
「2023年も中盤に入った今、私たちは景気後退の兆候を目にしています。こうした経済状況では通常、インフラ関連プロジェクトに対する支出やインセンティブが促進されます。このような時代において、再生可能エネルギー産業が、これまで補助金によって生まれていたグリーンエネルギー需要の域を超えて、さらに大きく需要を増加させる機会が出現しています。これはまた、より規模の大きな経済国にとって、エネルギー自給化を目指して持続可能エネルギーの電力容量を拡大することにより、自国の経済成長を加速させるチャンスにもなる可能性があります」
米国インフレ抑制法により形勢が一変:
米国はRECAIランキングで首位を維持しました。米国の首位維持に貢献しているのが、2022年8月に成立したインフレ抑制法で、同法により米国はエネルギー安全保障と気候変動対策に対して合計3,690億米ドルの投資予算を計上しています。
今回のRECAI 61号では、米国が投資資本をエネルギー安全保障と気候変動対策に再配分したことが、米国以外の各国における投資機会にどのような影響を与えているかについて調査しています。欧州の政治家や政策立案者の中には、米国インフレ抑制法が、デベロッパーおよびメーカーの投資を欧州から引き揚げ、米国国内に振り向けることを奨励していると懸念する声があります。また、各国政府がインフレ抑制法の影響を調査し、その対応を政策立案レベルで準備している中で、同様の懸念が世界の他の地域でも広がりつつあります。
EYグローバル・再生可能エネルギー・リーダーのArnaud de Giovanniのコメント:
「米国インフレ抑制法の成立は、自国の再生可能エネルギー産業の競争力を高めることに熱心な世界各国間の首位争いに火を付けました。グリーンテクノロジーに対する投資は、前年比19%増という見事な成長を遂げていますが、これはエネルギー大転換のスピードが加速していることの証です。こうした状況を受けて、世界各国の再生可能エネルギー産業が、需要と供給を刺激する努力を倍増させるまたとない機会が発生しています」
マーケットの概要:ドイツが前進、日本は後退、新たな挑戦者も浮上:
国別魅力度指数ランキングで、ドイツが順位を1つ上げ、中国本土を抑えて、10年ぶりに2位に輝きました。ドイツは、2030年までに総電力消費量に占める再生可能エネルギー比率を80%にするという目標の達成に力を入れており、化石燃料からの転換を目指した電力市場の改革を加速させていることが、ランク上昇につながりました。現在、ドイツの再生可能エネルギーの割合は46%となっており、2022年初頭の41%から上昇しています。*¹
日本は順位を1つ下げ、オランダと入れ替わって10位となりました。順位を1つ上げたオランダでは、2023年末までに800メガワット以上の洋上風力発電が展開される見込みです。注目に値する他の国として、エジプトが挙げられます。エジプトはCOP27の開催国で、開催期間中に打ち出した再生可能エネルギーの公約を土台に、風力発電で世界のマーケットリーダーを目指す計画を始動しました。一方、アルゼンチンは、順位を4つ下げて13位となりました。その理由は、同国が打ち出している再生可能エネルギーの成長目標を達成するためには、電力網インフラに対する投資を今より増やす必要があるからです。
EY Japanストラテジー・アンド・トランザクション エネルギーセクターリーダーの岡本 卓也の日本における再生可能エネルギーマーケットについてのコメント:
「日本の再生可能エネルギー市場は電力の固定価格買取制度を基盤とした補助金に支えられた市場から、市場価格を基礎とした市場への転換期にあり、国別魅力度ランキングの日本のポジションにも影響を与えていると考えられます。一方、日本企業だけでなく海外の投資家の日本の再生可能エネルギー市場に対する投資意欲は依然として旺盛です。単に発電事業のビジネスのみを志向するのではなく、発電したグリーン電力を小売事業や水素製造などのエネルギー転換に活用することを企図した投資が増加しています。電力の需要家側のグリーン電力購入に関する姿勢はいまだ成熟していませんが、再生可能エネルギー導入促進のためには、グリーン電力活用の基盤となるコーポレートPPA市場の発展が必要不可欠と考えられます。米国インフレ抑制法の成立は、自国の再生可能エネルギー産業の競争力を高めることに熱心な世界各国間の首位争いに火を付けました。グリーンテクノロジーに対する投資は、前年比19%増という見事な成長を遂げていますが、これはエネルギー大転換のスピードが加速していることの証しです。こうした状況を受けて、世界各国の再生可能エネルギー産業が、需要と供給を刺激する努力を倍増させるまたとない機会が発生しています」
インドはグリーン水素の主要生産国および輸出国となることを目指す:
インドはRECAIランキングで順位を1つ上げ、オーストラリアを抜いて6位となりました。主要経済国の中で、インドは再生可能エネルギーの総発電量が最も急速に成長した国となりました。
インドでは、太陽光発電がエネルギー転換を主導しながら、再生可能エネルギー産業が急速な発展を遂げています。同国の2022年の再生可能エネルギーによる総発電量163ギガワットのうち、太陽光発電は63ギガワットを占めていました。それに続くのが、再生可能エネルギーを使った水力発電(グリーン水素)の47ギガワット、風力発電の42ギガワットでした。*² しかし、インドの再生可能エネルギーの中で引き続き主要な位置を占めることが予想される太陽光発電、そして風力発電は共に、出力不安定という課題と密接に結びついています。出力の適切な管理が行われない場合、電力供給に支障をきたす可能性があります。従って、電力を確実に24時間体制で供給できるようになることが、より大きな優先事項となっています。特に、インドは、低コストの再生可能エネルギーの主要生産国となり、国内消費だけでなく、各国への輸出を目指しているため、この問題の解決をますます優先する必要があります。
RECAI 61号はまた、インド国内の再生可能エネルギー構成の中で、グリーン水素が台頭してきている状況についても述べています。グリーン水素産業はまだ初期段階にあり、今後の見通しもかなり不確実ではありますが、ますます多くの国が長期的な視野でグリーン水素を輸入することを検討しており、大きな機会が生まれています。
再生可能エネルギー国別魅力度指数のトップ40ランキング、正規化ランキング、コーポレートPPAランキング、および世界各国の再生可能エネルギーの最新状況の分析結果は、ey.com/recai.でご覧いただけます。
*¹ Alkousaa, Riham, 「Germany’s 2022 renewable power production rises but still behind 2030 target(ドイツにおける2022年の再生可能エネルギー発電は上昇するも、2030年の目標達成 には現時点で遅れが生じている)」、 ロイター、2022年12月11日www.reuters.com/business/energy/germanys-2022-renewable-power-production-rises-still-behind-2030-target-2022-12-11.
*² 国際再生可能エネルギー機関(IRENA) (2023), 「Renewable Capacity Statistics 2023(再生可能エネルギー発電量に関する統計 2023年版)」
※本ニュースリリースは、2023年6月13日(現地時間)にEYが発表したニュースリリースを翻訳したものです。英語の原文と翻訳内容に相違がある場合には原文が優先します。
英語版ニュースリリース: Government shift toward domestic, low-carbon energy could risk global net-zero ambitions – EY research | EY - Global
本ニュースリリースの詳細は、以下のEY Japanのウェブサイトからご覧ください。
EY調査、世界全体でネットゼロを達成する目標が危ぶまれる可能性 | EY Japan
<EYについて>
EYは、「Building a better working world~より良い社会の構築を目指して」をパーパス(存在意義)としています。クライアント、人々、そして社会のために長期的価値を創出し、資本市場における信頼の構築に貢献します。
150カ国以上に展開するEYのチームは、データとテクノロジーの実現により信頼を提供し、クライアントの成長、変革および事業を支援します。
アシュアランス、コンサルティング、法務、ストラテジー、税務およびトランザクションの全サービスを通して、世界が直面する複雑な問題に対し優れた課題提起(better question)をすることで、新たな解決策を導きます。
EYとは、アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドのグローバルネットワークであり、単体、もしくは複数のメンバーファームを指し、各メンバーファームは法的に独立した組織です。アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドは、英国の保証有限責任会社であり、顧客サービスは提供していません。EYによる個人情報の取得・利用の方法や、データ保護に関する法令により個人情報の主体が有する権利については、ey.com/privacyをご確認ください。EYのメンバーファームは、現地の法令により禁止されている場合、法務サービスを提供することはありません。EYについて詳しくは、ey.comをご覧ください。
本ニュースリリースは、EYのグローバルネットワークのメンバーファームであるEYGM Limitedが発行したものです。同社は、英国の保証有限責任会社であり、顧客サービスは提供していません。
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