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【2020×東洋大学】東京五輪でさらに注目が集まる日本、従来のインバウンド観光から脱出するきっかけに


2020年7月17日



東洋大学



<NewsLetter Vol.07>

東洋大学は研究成果である「知」で2020へ貢献します



東京五輪でさらに注目が集まる日本

従来のインバウンド観光から脱出するきっかけに



 本ニュースレターでは、東洋大学が2020年から未来を見据えて、社会に貢献するべく取り組んでいる研究や活動についてお伝えします。

 今回は、国際観光学部 国際観光学科 栗原 剛 准教授に、東京五輪がもたらすインバウンド観光への影響と目指すべき方向性について聞きました。

[取材日:2020年2月21日]



【画像: https://kyodonewsprwire.jp/img/202007152066-O1-KcM2978m

国際観光学部 国際観光学科 栗原 剛 准教授



Point

1.訪日外国人旅行客が多い宿泊施設ほど労働生産性が伸びている理由

2.東京五輪は日本の観光地を世界水準に高めていくきっかけに



訪日外国人旅行客が多い宿泊施設ほど労働生産性が伸びている理由



訪日外国人旅行客が多い宿泊施設ほど、労働生産性の成長率が高いと伺ったのですが。

 これは私が内閣府の経済社会総合研究所の研究会に参加し、宿泊施設のIT活用と生産性というテーマで、アンケート調査を行った結果のことです。訪日外国人旅行客が急増した2012~2016年の5年間を対象に、全国のホテル・旅館などの労働生産性の平均成長率を算出したのですが、旅館は7.1%、ビジネスホテルは13.0%、シティホテル・リゾートホテルは8.6%という結果になりました。

 そして旅館の場合、労働生産性の成長率が平均よりも高い施設は、外国人宿泊率も12%と高め。一方、成長率が平均よりも低い施設は、外国人宿泊比率も約7%と低めであることがわかったのです。ビジネスホテルでも同様に、労働生産性の成長率が平均よりも高いホテルの外国人宿泊比率は約13.5%、成長率の低いホテルは外国人宿泊比率は6.5%弱という差が見られました。このことから、訪日外国人旅行客受け入れの多い施設ほど、施設の生産性の成長率が高いということが明らかになったのです。



なぜ外国人旅行客の受け入れが相関したのでしょうか。

 2012~2016年という期間は、訪日外国人旅行客が急増した時期でもあります。そのトレンドに迅速に反応し、外国人を積極的に受け入れようとした施設は、IT活用をはじめ、労働生産性を高める仕組みづくりに対しても意識が高いのではないかという、一つの見方が出来ます。ビジネスホテルの相関が高かったのは、施設あたりの従業員数が少なく生産性を押し上げたこと、団体の外国人旅行客を受け入れることができる施設だという理由も大きかったと思います。

  IT活用という点では、サイトコントローラーという、複数の宿泊予約サービス(ExpediaやBooking.comなど)を一元管理できるオンラインのシステムを使うと生産性の伸びが大きいという結果も出たのですが、特に旅館においてその傾向が強く見られました。旅館は接客にかかる労力が大きいため、その部分の労働力は削りにくい。IT活用に積極的な旅館は、インバウンドの集客が容易になっただけでなく、予約管理業務を省力化してできた時間を接客の質を高めるような教育や研修に振り向けられますので、大きなメリットがあると考えられるでしょう。



【画像: https://kyodonewsprwire.jp/img/202007152066-O5-sT0Y1D13



東京五輪は日本の観光地を世界水準に高めていくきっかけに



東京五輪がもたらすインバウンド観光の経済効果について、どのようにお考えでしょうか。

 インバウンド観光の経済効果というのは、来訪者数と1人当たりの消費単価に加えて、どれだけ観光サービスの資源が地域内で調達できているかの3つが評価のポイントです。来訪者だけ増えても、地元の資源にお金を使ってもらえなければ経済効果は高くないということになるのです。多くの観光地では、その地域内でどれくらい消費が行なわれているかというデータも取得できていないのが実情です。新型コロナウイルスが終息し、東京五輪が開催されれば相当の訪日外国人旅行客が訪れると予測されますが、すべての地域で大きな経済効果が見込めるといえるのかは疑問があります。



大勢の外国人旅行客が訪れ、経済効果が上がると考えるのは楽観的すぎるということでしょうか。

 今、日本では、経済効果の見込める観光地とそうでない観光地の二分化が進んでいます。少し前に、数カ所の有名観光地で訪日外国人旅行客の消費単価を比較調査したところ、非常に大きな差が出たのです。その中で、特に優れていたのは、岐阜県の高山市でした。着目すべきは、地域の観光資源の魅力や価値を伝える仕組みが整備されていること。地域の人たちが大切に育んできた伝統工芸品や食文化などを、土産品や飲食メニューとして店頭に並べるだけでなく、それらの歴史や背景を知ることのできる博物館などの施設が同じエリアにあります。そこでストーリーを理解した訪日外国人旅行客は、少々高価なものでも購入する傾向があり、消費単価も高いことがわかったのです。一方、別の観光地は、人気の温泉地にもかかわらず、せっかく訪れた人たちに地域の価値を見せる工夫や努力が足りませんでした。観光地としての価値を高めるには、その土地ならではの商品をそろえ、訪れる人たちにストーリーと一緒にきちんと伝えていくことが重要だということがわかってきたのです。



五輪を機に、日本の観光の質を高めるためにできるのは、どのようなことだと思われますか。

 かつては日本人もパリのブランド店での爆買いツアーが話題になっていた時代がありました。でも今は違いますね。同じように、経済力を高め日本に来ているアジアの人たちも、団体旅行から個人旅行へとシフトし、観光にも多様性や質の高さを求めるようになりつつあります。また、近隣の国々をライバルと捉え、日本ならでは、その土地ならではの資源を生かした質の高い観光をマーケティングすることも、ますます重要になってくるでしょう。日本の良さを知ってもらうチャンスという意味では、来日する選手と滞在先の人々との交流も長い目で見ると効果を生むかもしれません。五輪に向けて、案内や標識など外国人の移動をサポートする仕組みは整いましたので、その土地の魅力、地域の価値を伝えることに今まで以上に時間と知恵を注ぎ、日本の観光の質を世界水準に高めていくきっかけにしてほしいです。



【画像: https://kyodonewsprwire.jp/img/202007152066-O3-9URv7ohT

栗原 剛(くりはら たけし)

東洋大学 国際観光学部 国際観光学科 准教授/博士(社会工学)

専門分野:観光地域計画

研究キーワード:インバウンド観光、観光政策評価、地域計画

著書・論文等:インバウンド観光政策の定量的評価手法[交通と統計,No.27]ほか



【本News Letterのバックナンバーはこちらからご覧いただけます。】

https://www.toyo.ac.jp/s/letter2020/



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