相談現場で見受けられる所得税の申告漏れについて、よくある事例や「もったいない」と感じた事例を織り交ぜ、独断と偏見でランキングしました。
あなたにも「もったいない申告漏れ」がないか確認しながらご覧ください。
第1位 期限を過ぎたら申告できない
と思っていませんか?
「もう間に合いそうにないので、医療費控除は諦めます」と時々こんな声をお聞きしますが、3月15日を過ぎても確定申告はできます。
会社員の医療費控除のように税金の還付を受ける申告であれば、期限後に申告をしても全く問題はありません。
中には「15日過ぎてから空いている税務署でゆっくり相談しながら申告する」という方もいらっしゃいます。
ただし、青色申告をされる方は、申告期限を過ぎてしまいますと、青色申告特別控除(65万円)が受けられなくなるなどの不都合が発生しますので、ご注意ください。
また、確定申告の結果、所得税の納付が必要な方は、期限を過ぎると延滞税がかかりますので、期限を過ぎてしまった場合には速やかに申告を行ってください。
医療費控除について「保険のきかない治療費も対象です」とお話すると、「一昨年、インプラントしたのに残念です。もっと早く知りたかった」と悔しそうにされる方もいますが、確定申告は5年前まで遡って行うことができます。
国税庁の確定申告書作成コーナーにも「過去の年分の申告書等の作成」が用意されています。
読み進めながら、過去分の申告漏れに気づかれたら、諦めずに確定申告にトライしてください。
第2位 学生なので確定申告はしていない
学生であっても、一定額以上のアルバイト料が支払われる場合、所得税が徴収されています。
アルバイト先で年末調整が済んでいない場合は、確定申告を行うことで所得税が還付される可能性があります。
飲食店やテーマパークでアルバイトをして年間50万円ほど収入があった大学生のAさん。
源泉徴収票を拝見すると、約2万円が所得税として徴収されていました。
学生の場合、給与所得控除(最低65万円)、基礎控除(38万円)の他に、勤労学生控除(27万円)がありますので、給与収入130万円までは課税されません。
Aさんは、源泉徴収票を添付して申告書を提出すれば約3万円の金額が還付されます。
時給950円のAさんにとって、2万円は20時間分の報酬です。喜んで申告書を提出されました。
尚、学生本人の所得税については給与収入130万円まで課税されませんが、103万円を超えると税制上、親の扶養から外れます。
また、130万円以上になると社会保険上の扶養から外れ、国民健康保険の保険料の負担も発生しますので、ご留意ください。
住民税は自治体により計算方法が異なりますので、お住いの自治体にご確認ください。
例えば大阪市の場合給与収入が100万円を超えると、学生であっても均等割りが課税されます。
「日本の所得税は原則、申告納税主義です」と伝えると驚かれます。
納税者の大多数は給与所得者で、源泉徴収と年末調整により課税手続きが終了してしまうため、自分で税金を計算して申告するという意識が持ちにくいためですね。
親自身が税金の基本的な仕組みを理解し、子どもにも伝えられると良いと思います。
第3位 年金は確定申告しなくていい
「税務署に行かなくて良くなったので楽になりましたわ」とおっしゃる70歳のBさん。
平成23年分より公的年金等の収入が400万円以下で、それ以外の所得が20万円以下の場合、確定申告を行う必要はなくなりました。
面倒な申告作業から解放され幸いに思っている方も少なくないようですが、年金から所得税が源泉徴収されている方は確定申告をした方が良いかもしれません。
Bさんの「公的年金の源泉徴収票」を拝見すると、所得税が徴収されていました。
年金から天引きされている保険料について確認すると、介護保険料のみとのこと。国民健康保険の保険料は区役所から届く納付書で支払っているとのことでした。
また、Bさんは民間の医療保険に加入し保険料を支払っていました。
Bさんは、確定申告を行うことで、国民健康保険料と生命保険料控除を受けることができます。
とは言っても、年金から引かれている所得税の額は少額でしたので「大して戻ってこない」と申告作業をするか迷われました。
しかし、確定申告の結果は所得税だけでなく、住民税、健康保険料、健康保険の区分にも影響します。
高額療養費の自己負担限度額など負担する医療費にも影響を与えるかもしれません。そうお話しすると俄然やる気になっていただきました。
是非、親御さんの年金の源泉徴収票を確認して差し上げてください。
第4位 起業妻の配偶者控除の申告漏れ
専業主婦だったCさんは、フリーカメラマンとして仕事を始めました。
初めの年は大した収入はなかったのですが、3年目には160万円ほどの売上げとなり、さすがに扶養には入れてもらえないだろうと自ら扶養を外れ、社会保険料もご自身で負担しておられました。
Cさんの確定申告書を拝見すると、売上から必要経費を引いた所得は50万円ほどでした。
夫は会社員で所得は1,000万円以下、健康保険は協会けんぽに加入しておられました。
現制度では、妻のパート収入が103万円を超えると、税制上夫の扶養から外れ配偶者控除が受けられなくなります。
所得が1,000万円以下の夫の場合は妻のパート収入が103万円を超え141万円未満まで配偶者特別控除が受けられます。
Cさんは、パート収入に照らしてご自身の売上が高額であるため、扶養から外れると判断されたようですが、妻が個人事業者の場合の税制上の扶養の判定は、所得で行います。
売上から必要経費をひいた所得が38万円を超える場合、配偶者控除は受けられなくなりますが、所得76万円未満までは配偶者特別控除を受けることができます。
また、社会保険上の扶養についても協会けんぽの場合は、所得基準となりますので、Cさんは社会保険料を負担する必要はなく、夫は配偶者特別控除を受けることができました。
Cさんご夫婦は税金と社会保険料を合わせて約30万円を余分に負担しておられました。
夫の会社に申し出て健康保険の被扶養者とする手続きをお願いし、所得税については確定申告により還付を受けていただくようアドバイスしました。
昨年来、配偶者控除の見直しについての報道を拝見していると、「年収150万円へ引き上げ」とパート収入を想定した基準のみが示されているようです。
多様な働き方に配慮した情報提供がなされるとありがたいと思います。
第5位 寡夫控除の申告漏れ
教育資金計画のご相談にいらしたシングルファザーのDさん。
数年前に離婚され小学生のお子さんを育てながら正社員として働いておられました。年収は500万円を少し超えるくらい。
手取額を把握するため源泉徴収票を拝見したところ、寡夫控除の欄に〇がついていません。
寡夫とは妻と死別や離婚等の後、再婚をしていない人で次の要件を満たす方です。
・ 合計所得が500万円以下
この条件を満たす方は、27万円(住民税は26万円)の寡夫控除が受けられます。
Dさんは条件を満たしているにも関わらず、寡夫控除を受けておられなかったのです。
理由を尋ねたところ、年収が500万円を超えているので対象にならないと思っていたとのことでした。
寡夫控除の要件は収入ではなく所得です。所得500万円とは年収でいうと約689万円となります。
Dさんの場合、寡夫控除を受けていれば、所得税・住民税合わせて5万3千円税金が少なくなります。つまりそれだけ手取りが増える、貯金に回せたかもしれないわけです。
会社に「扶養異動申告書」を再度提出していただき、昨年分までの控除については遡って確定申告をされるようアドバイスしました。
離婚や死別等によりシングルとなった女性の場合は寡婦控除があり、子どもがいなくても対象となるなど対象要件が寡夫控除とは異なります。
詳細は最寄りの税務署にお尋ねください。
申告漏れ予防は源泉徴収票のチェックから!
事例でご紹介した「勤労学生控除」、「配偶者控除」、「寡婦・寡夫控除」は「人的控除」と呼ばれる人に関する控除です。
これらの控除は会社員の場合「扶養異動申告書」の申告に基づき年末調整で所得控除を行います。
従って、「扶養異動申告書」に申告漏れがないか確認する必要があります。
「年末に2枚紙を渡されて、なんとなく書いて提出しています」という方が多いですが、わが家に控除対象者がいないか、控除の種類と対象要件を確認しておきましょう。
障害者手帳4級の交付を受けながら、元気に働いておられるため「障害者控除」が受けられるとは思わず申請していなかったという方もいらっしゃいました。
このように人的控除に気がつかない場合、毎年申告漏れが継続することになります。
寡夫控除の申告が漏れていたDさんの場合、1年では5.3万円の違いですが、離婚されてお子さんが自立されるまで15年あるとすれば約80万円となります。
80万円あれば国立大学の入学金と1年目の授業料が賄えます。うっかりやり過ごすのはもったいないですね。
源泉徴収票は「見ても意味が分からない」、「間違っているはずがない」と記載内容を確認しないという方が多いようですが、中には届けているはずの扶養が源泉徴収票に反映されていないというケースもありました。
人が行うことですから源泉徴収票にも間違いはあります。
「あなたの1年間の収入から所得税をこのように計算して、所得税はいくらになったよ」と計算過程と結果を説明したものが源泉徴収票です。
今一度、源泉徴収票に誤りがないか、申告漏れがないか確認してみましょう。
まとめ
定期預金に100万円預けて1年で100円増える低金利の時代に、ノンリスクで何万円も家計の手取りを増やす金融商品はありません。
ご自身の所得にかかる税金について理解し、申告漏れを防ぐことは家計管理において大切なことです。
「あなた、この控除使えますよ」と親切に誰かが教えてくれるわけではありません。
投資教育も大切ですが、税制、社会保険、家計を把握し管理する力を養うことも大切です。
すべての人が新入社員のうちに「給与明細書と源泉徴収票の読み方」だけでもしっかり学ぶ機会があればと思います。
暮らしのお金について自分で考え判断できるよう「社会人として知っておきたいお金の知識」をお届けしたいと思います。(執筆者:小谷 晴美)