給与(月給、賞与)からは原則として、所得税が源泉徴収されますが、この金額は仮の金額になります。
なぜ仮の金額なのかというと、会社員(正社員、契約社員、パートやアルバイトなど)に対して課税される所得税は、1~12月に支払われた給与の合計を元にして算出します。
そのため12月に年内最後の給与が支払われるまで、本来の金額はわからないからです。
また12月に年内最後の給与を支払う時になると、1~12月の給与の合計が確定するため、勤務先は本来の所得税を算出します。
この本来の所得税の金額と、1月以降の給与から源泉徴収された仮の所得税の合計を比較し、「本来の所得税<仮の所得税の合計」になったら、勤務先は取り過ぎた所得税を還付します。
一方で「本来の所得税>仮の所得税の合計」になったら、勤務先は追加で所得税を徴収します。
こういった所得税の過不足を、勤務先が年末に精算する手続きが、いわゆる年末調整になるのです。
会社員の方は年末調整を受けると、所得税の過不足が精算されるため、原則として所得税の確定申告をする必要はありません。
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算出するのが難しい「収入金額」と「所得金額」の見積額
2020年は年末調整の書類のフォーマットが大幅に改正され、かなり複雑になったので、書類の記入に戸惑った方は多いはずです。
それに対して2021年は、書類への押印が不要になったくらいしか、目立った改正点はないようなので、2020年よりはスムーズに記入できると思います。
ただ「給与所得者の基礎控除申告書 兼 給与所得者の配偶者控除等申告書 兼 所得金額調整控除申告書」の中にある、給与所得に関する「収入金額」や「所得金額」の見積額の欄は、次のような3つの理由により、スムーズに記入するのが難しいかもしれません。
(1) 11月や12月の給与の金額を推測する必要がある
勤務先によって違いがあるかと思いますが、11月の中旬から12月の前半くらいには、年末調整で必要になる書類の提出を求められると思います。
そうなると11月や12月に支払われる給与は、その金額を推測する必要があるため、スムーズに記入するのが難しいのです。
(2) 収入金額に含める手当と含めない手当がある
給与所得に関する「収入金額」の欄には、今年の1月から現在までに支払われた給与と、11月や12月に支払われる予定の給与を、合計した金額を記入します。
ただ合計するのは手取りではなく、社会保険料や所得税などを源泉徴収する前の額面(残業手当を含む)になる点や、額面の金額から非課税になる通勤手当を控除する点に、注意する必要があるのです。
なお電車やバスなどの公共交通機関で通勤している場合、通勤手当が月15万円以内なら非課税になります。
また車やバイクなどで通勤している場合、その距離に応じて非課税になる金額が決まり、例えば片道の通勤距離が2キロメートル以上10キロメートル未満の時は、通勤手当が月4,200円以内なら非課税になります。
「給与所得者の基礎控除申告書 兼 給与所得者の配偶者控除等申告書 兼 所得金額調整控除申告書」の裏面を読んでみると、給与所得に関する「収入金額」に含めるものが書いてあります。
しかしここまで詳しくは書いていないため、スムーズに記入するのが難しいのです。
(3) 給与所得を算出する機会が少ない
自営業者やフリーランスなどの場合、1年間の事業収入から必要経費を控除して、事業所得を算出します。
一方で会社員は1年間の給与収入から、「給与所得控除額(概算の必要経費)」を控除して、給与所得を算出します。
このようにして算出した金額を、給与所得に関する「所得金額」の欄に記入するのです。
「給与所得者の基礎控除申告書 兼 給与所得者の配偶者控除等申告書 兼 所得金額調整控除申告書」の裏面を読んでみると、給与所得に関する「所得金額」の算出方法が書いてあります。
記載された内容をきちんと読めば、決して難しくはないのですが、自分と配偶者の「所得金額」を算出する機会は少ないため、計算結果が正しいのかについて、自信を持てない場合があると思います。
これに加えて収入と所得の違いが、よくわからない方もいるので、スムーズに記入するのが難しいのです。
昨年の「給与所得者の源泉徴収票」を参考にする
年末調整の際に勤務先に対して、自分と配偶者の「収入金額」や「所得金額」を申告する必要があるのは、これらの金額によって、受けられる配偶者(特別)控除の金額が変わるからです。
例えば夫が別の会社で働いている妻を対象にして、配偶者(特別)控除を受ける場合、夫の勤務先は書類に記入された、給与所得に関する夫の「収入金額」や「所得金額」が正しいのかを、賃金台帳などで調べることができます。
一方で書類に記入された、給与所得に関する妻の「収入金額」や「所得金額」が正しいのかを、夫の勤務先が調べるのは、かなり難しいと思います。
こういった事情があるため、妻の「収入金額」や「所得金額」は、特に間違えないようにしたいところです。
ただ妻の仕事の時給や労働時間などに、大きな変動がなければ、給与所得に関する今年の「収入金額」や「所得金額」は、昨年と同じくらいになると推測されるのです。
そのため昨年の年末調整が終わった時に、妻の勤務先から配布された「給与所得者の源泉徴収票」という書類を参考にすれば、間違いが少なくなると思うのです。
例えば2020年の年末調整の後に配布された、「給与所得者の源泉徴収票」の中の、「支払金額」という欄を見てみると、給与所得に関する2020年の「収入金額」がわかります。
また「給与所得控除後の金額」という欄を見てみると、給与所得に関する2020年の「所得金額」がわかります。
通勤手当は上記のように、非課税になる分を額面から控除するのですが、「給与所得者の源泉徴収票」の「支払金額」の欄に記載されているのは、控除が済んだ後の金額になるので、この点を心配する必要はありません。
給与所得者の源泉徴収票は5年くらい保管しておく
11月や12月に支払われた妻の給与が、予想していた金額とは大幅に違ったため、配偶者(特別)控除を受けられなくなった場合、または受けられる金額が変わった場合、再年調(年末調整のやり直し)か、所得税の確定申告で修正します。
また医療費控除や雑損控除などの、年末調整では受けられない所得控除を受け、納めすぎた所得税を還付してもらう場合、所得税の確定申告を行います。
いずれのケースでも所得税の確定申告をする際には、「給与所得者の源泉徴収票」が必要になるため、これを勤務先から受け取ったら、すぐに捨てない方が良いのです。
納めすぎた所得税を還付してもらえるのは、翌年の1月1日から5年になるため、このくらいの期間に渡って「給与所得者の源泉徴収票」を保管しておくと、後で困らないと思います。
所得税の確定申告をする予定がない方でも保管しておけば、交通事故に遭って保険会社に休業損害証明書を提出する時、賃貸物件を借りる時、金融機関から融資を受ける時などに、役に立つ可能性があります。
また勤務先は「給与所得者の源泉徴収票」を、7年間保管しておく義務があるため、すでに破棄した方は勤務先に対して、再発行をお願いしてみるのが良いと思います。(執筆者:社会保険労務士 木村 公司)
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