CACHD Research Memo(8):未来を見据えた長期ビジョンで企業変革を実現する
1. 長期ビジョンを策定し、社員全員で共有すべき価値観を明確化
2022年2月、同社は長期ビジョン「CAC Vision 2030」と「中期経営計画」を公表した。「CAC Vision 2030」は、「世界をフィールドに先進のICTをもって新しい価値を創造する」という企業理念をベースに、2030年の「ありたい姿」「向かうべき方向性」を定め、共有することでグループのベクトルを統一させることを目的に策定された。
「CAC Vision 2030」で特に注目したい点は、中長期的に目指す企業像である「Vision」と、社員全員で共有すべき価値観である「Value」を明確にしていることである。同社は、「Vision」として「テクノロジーとアイデアで、社会にポジティブなインパクトを与え続ける企業グループへ」を掲げている。そして「Value」については、1) Creativity:既成概念に囚われないアイデアや発想を大切にする、2) Humanity:人間性を重視し、人間らしく生きる、3) Challenge:失敗を恐れずに、挑み続ける、4) Respect:相手を尊重し、常に感謝の気持ちを忘れない、5) Pride:仲間と自らの努力を信じ、社会に誇れる仕事をする、という「Five Values」を定めている。いずれも、ICTによる価値創造と変革に挑戦し、顧客指向でCSV重視の企業グループへと発展してきた同社の歴史を踏まえれば、一貫性があり納得度の高いものである。
また、「CAC Vision 2030」は2021年末に、対外公表に先んじて社内的に共有されている。西森良太(にしもり りょうた)代表取締役社長がWeb会議形式で全社員に向けて直接説明したほか、幹部社員に対しては対面での説明を数回開催し、質疑応答の時間も設けられたと言う。「社長自らが中長期経営計画に込めた思いを全社員に語りかける」、当たり前のことながら実際には行われていないケースも多いだけに、同社が「CAC Vision 2030」をいかに重要視しているかが読み取れる。社内向けの説明を受け実施したアンケートでは、2030年の「ありたい姿」と「向かうべき方向性」が定められたことに対し、社員は総じて好印象を持っている模様であり、「CAC Vision 2030」は「ベクトル統一」だけでなく「従業員エンゲージメント向上」にも資する可能性がある。
2. 2022年12月期~2025年12月期で新たなビジネスモデル構築を目指す
「CAC Vision 2030」では、2022年12月期~2025年12月期(中期経営計画期間)をプロダクト&サービス基盤(新規事業を継続的に立ち上げる仕組みとビジネス基盤)の構築に充てる「フェーズ1」と位置付け、その後の2026年12月期~2030年12月期を高成長を実現する「フェーズ2」とし、最終的に高収益・高成長の「デジタルソリューション提供企業」への生まれ変わりを達成するとしている。同社は「デジタルソリューション」を「顧客や社会が抱える課題を先導解決するデジタルプロダクトとサービス(コンサルティング、サポート)のコンビネーション」と定義している。これまでの受託事業が顧客の要求に応える受け身的で人月単価に規定された変動費型・労働集約型のビジネスモデルであるのに対し、「デジタルソリューション」事業は自社で価格設定が可能な固定費型・収穫逓増型のビジネスモデルである。現中期経営計画(2022年12月期〜2025年12月期)は、「CAC Vision 2030」における「フェーズ1」として、新規事業を継続的に立ち上げる仕組みの構築を目指している。その一環として新規事業部門(事業開発本部)を新設し、2024年までに社内アサインと経験人材の採用を積極的に実施、30名以上の体制を整備し、新たなサービスを18件ローンチした。また、30社以上の他業種企業や団体等との共創を推進している。
また、同社は中期経営計画骨子のなかで、新たなビジネス基盤を構築するために、事業投資及び人材投資の推進に約150億円を投入するとしており、フェーズ1期間中に実行を完了する方針である。2023年1月の組織改編では「経営統括本部」「海外事業総括本部」「財務戦略本部(2024年3月より「経営統括本部」傘下となり「財務戦略部」に名称変更)」「戦略インテグレーション本部」が新設され、具体的な投資案件やプロダクト戦略が練られている。現中期経営期間にM&Aを5件実行しており、2024年からは体制を強化し約500件とソーシング件数が大幅に増加した。2025年以降の大型M&A案件が期待される。
3. 中期経営計画の3期目を終えて
同社は中期経営計画の定量目標として、2025年12月期に売上高580億円、調整後EBITDA55億円、ROE10.0%以上、エクイティスプレッド(ROEと株主資本コストの差分)3.0%以上、DOE(自己資本配当率)5.0%水準、の5点を揚げている。なお、中期経営計画の策定当初は利益目標を営業利益50億円としていたが、中長期的な成長に向けた先行投資を進めるなかで、営業利益では事業から創出するキャッシュの実力値を十分に表すことができないことから、2024年2月に利益目標を営業利益から調整後EBITDAに変更した。
2025年12月期の売上高及び調整後EBITDAの見通しは中期経営計画どおりの数値としている。現時点では新規事業の成長スピードや事業投資の推進などにおいて課題があるものの、既存事業においては不採算事業の整理及び経営効率化による収益性改善、コーポレートの面ではガバナンス体制の見直しや社内エンゲージメントの向上などにより、全体としては概ね「CAC Vision 2030」フェーズ1のロードマップに沿った順調な進捗であると評価される。
既存事業においては、フェーズ2に向けた足掛かりとして、「AI Transformation」の展開に注力する。主な実施項目は、1) 自社AIソリューションの展開、2) AIエージェントなどによる受託事業の効率化・付加価値最大化、3) 専門部署の新設である。1) は、同社が強みとする画像認識領域を含む自社保有のAIを活用し、製造・建設・物流の現場など特定業界向けの業務システム(サービス)を開発し、類似した課題を持つ企業に対しても横展開を進める。
2) は、これまでシステム構築から保守運用に至るまで全て労働集約型かつ分業制で行っていた業務について、AIエージェントの導入により人員をより付加価値の高い業務に配置し、業務効率化を図る。3) は、2025年1月に「AI Transformation」の専門部署として「Asset-based Business推進部」を新設した。今後、グループ全体の旗振り役として企画、推進の役割を担っていく。
成長投資に関しては、人材投資も含めた事業投資として約150億円を見込んでいる。2024年12月期末時点では81億円の消化にとどまっているものの、同社は2025年12月期末に残りの枠の投資を実行し、2026年12月期以降のフェーズ2へつなげていく。
「資本コストや株価を意識した経営」の点では、株式資本コストを7%と想定しており、2025年12月期にはROE10.0%、エクイティスプレッドで3.0%の水準を目標としている。ROEを向上させるために本業の収益性を改善するとともに資本効率の改善を図っていくとしており、後者においては政策保有株式の縮減、創出した利益の株主還元の充実、財務レバレッジ効果(2024年12月期末は1.5倍、上限は約2倍と設定)を活かした戦略的なM&A実行などの施策を推進する。なお、同社は株主還元についてDOE5%水準を基本方針としており、2025年12月期の1株あたりの年間配当は100.0円と前期比10.0円の増配を計画している。DOEは4.7%と前期末比0.2ポイント改善する見通しであり、事業投資を前進するとともに利益の還元を強化する。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 吉林拓馬)
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