スカラ Research Memo(10):DX事業と金融事業の損益が大幅に改善する見通し
2. 事業セグメント別見通し
(1) DX事業
DX事業の売上収益は前期比14.8%減の5,000百万円、営業利益は465百万円(前期は1,217百万円の損失)を見込む。既述のとおり、レオコネクトの清算により売上収益で1,049百万円の減収要因となり、継続事業ベースでは3.1%増収となる見通し。
スカラコミュニケーションズについては、ストック型ビジネスである「iシリーズ」が堅調に推移するほか、金融サービス企業から受注した数億円規模のシステム開発案件※が売上貢献すること、DX人材派遣サービスやxIDやその他企業との協業案件(デジタルIDと連携した施設予約システム、スマートヘルスケアプラットフォーム、畜産DX等)が伸びることにより増収、営業利益も黒字転換する見通し(前期は286百万円の損失)。前期の減収要因となった保険会社向けビジネスについてはトップセールスによる営業提案を行うことで回復を目指す方針だが、業績計画では保守的に見積もっている。
※ スマートフォンアプリによるオートローンサービス。同顧客向けにはそのほか複数件の開発案件を受注しており、2026年6月期以降も高水準の売上が見込まれている。
2022年から大塚製薬、損害保険ジャパン(株)との共創プロジェクトとして開発を進めてきた「スマートヘルスケアプラットフォーム」については、2024年秋より本格的にサービスを開始する見通しとなっている。同サービスはスマートフォンアプリを通じて健康維持・増進プログラムの提供と日常生活に関する簡単なアンケートを実施することで、利用者の現在の健康状態を可視化するとともに将来の健康リスクを提示するほか、特定保健用食品※を購入できる仕組みとなっており、生活習慣の改善や生活スタイルの見直しを支援するサービスとなる。同社はシステム開発・保守・運用、サービス運営などを担当する。販売活動は大塚製薬や損害保険ジャパンが行い、「健康経営」に取り組む法人や団体向けだけでなく、ドラッグストアや調剤薬局などで薬剤師が行っている健康アドバイスのためのツールとしての拡販も進める計画となっている。同社はシステム開発料のほか、月額利用料の一部を売上に計上する。
※ 大塚製薬の「賢者の食卓 ダブルサポート」。
畜産DXについては、デザミス(株)、三井住友海上火災保険(株)と共同で、牛の遠隔診療や電子カルテ、指示書作成などの機能を備えた総合診療サポートツールとなる「U-メディカルサポート」を開発、2023年1月より提供を開始している。デザミスが開発した牛の行動モニタリングシステム「U-motion(R)※1」を通じて牛の健康状態を把握し、異変を察知してすぐに獣医師が往診できない場合に、酪農家はスマートフォンアプリ「U-メディカルサポート」を使って獣医師とコンタクトし、遠隔診療してもらうことで診断遅れによる牛の健康状態の悪化を防ぐ効果が期待されている。また獣医師にとっても、同ツールを利用することで業務負荷が軽減するといったメリットがある。国内で飼育されている乳用牛は約137万頭、このうち約10万頭で「U-motion(R)」が利用されており、デザミスを通じて「U-メディカルサポート」についても順調に導入が進んでいる。「U-メディカルサポート」は、獣医師が支払う月額利用料※2のうち一定比率を同社の売上として計上するため提供開始直後の業績寄与は少ないが、導入施設数の増加や横展開により安定収益源としての貢献が期待される。今後は酪農家向けを対象としたサービスについてもデザミスと協業しながら開発していくことを検討している。
※1 牛の首に取り付けたセンサーが反芻・動態・横臥・起立等の主要な行動を24時間365日記録することで、牛の健康状態をリアルタイムに把握できるサービス。
※2 月額料金(税込)は獣医師で1アカウント2.2万円、1事業所で5.5万円だが、酪農家は無料で利用可能。機能の追加により価格が変更となる可能性もある。畜産に関わる動物の診療施設数は全国で約4,000施設ある。
エッグの業績については、前期途中で終了した全国旅行支援事業関連の売上がなくなるほか、ふるさと納税システムもダウントレンドにあることから売上収益については2割減収と保守的に見込んでいる。一方、IFRS基準の営業利益は減損損失がなくなることから数千万円程度の黒字に転換する見通し(前期は441百万円の損失)。地方自治体向けのフレイル予防事業については、2025年度の予算取りに向けて前年の2.5倍超の自治体に対して見積書を提出しており、採用が決まれば売上貢献することになる。既に運用が進んでいる米子市(鳥取県)では、高齢者の大半が同アプリを利用しており、健康ポイントシステムを新たに実装するなど行政と一体となって利用促進のための取り組みを推進している。同社ではフレイル予防事業に6年前から取り組んでおり、これら導入・運用ノウハウを強みに拡販を進めていく。自治体当たりの平均的な売上としては、アプリの開発料で10~15百万円、月額利用料で30~40万円程度で、これに導入支援や伴走支援などの付加サービスを追加する格好となる。
(2) 人材事業
人材事業の売上収益は前期比18.0%増の1,213百万円、営業利益は同7.1%減の247百万円を計画している。引き続き企業の新卒採用意欲が旺盛で、体育会系学生の採用支援サービスの伸張を見込む。また、中途採用支援サービスについても売上規模は数千万円とまだ小さいものの、新卒学生の会員基盤を有効活用しながら事業を拡大していく考えだ。なお、営業利益が減益計画となっているのは、本社費用の按分基準変更により同事業セグメントにおける配賦費用が増加するためで、本社費配賦前の営業利益では増益となる見通しだ。
(3) EC事業
EC事業の売上収益は前期比12.4%増の2,515百万円、営業利益は同57.1%増の377百万円となる見通し。トレーディングカードゲーム市場の成長が続くなか、特定タイトルの需要動向に左右されないバランスの取れた仕入活動を行うほか、同業界におけるシステム開発を受託することで売上成長を図る。利益面では、増収効果や粗利率の高いタイトルの販売強化に加えて、開発費の減少並びに画像認識技術の導入によるオペレーションコストの抑制などが増益要因となる。営業利益率では15.0%と2期前の水準まで回復する見通しだ。なお、AIによる買取査定システムについても開発を進めているが、具体的な導入時期は未定となっている。
(4) 金融事業
金融事業の売上収益は前期比11.4%減の1,077百万円、営業損失は減損損失がなくなるため170百万円(前期は818百万円の損失)まで縮小する見通し。売上収益は平均単価の低い新商品の売上構成比上昇が減収要因となる。利益面では、固定費負担がまだ重く、損失が続く見込みとなっている。
(5) インキュベーション事業
インキュベーション事業の売上収益は前期比17.9%増の347百万円、営業損失は減損損失がなくなることから55百万円(前期は188百万円の損失)に縮小する見通し。売上収益は引き続き自治体案件の増加と全国のアクセラレーション事務局の受託件数拡大(1件当たり平均売上高は30~40百万円)、M&A伴走支援サービスが増収要因となる。利益面では、コスト最適化に取り組むことで損失額を縮小していく。なお、ファンドによる投資事業に関しては新規の投資を凍結しており、既存の投資案件で満期まで運用する方針となっている。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 佐藤 譲)
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