明豊ファシリ Research Memo(3):「フェアネス」「透明性」を企業理念として掲げるCM業界のパイオニア(2)
4. 事業セグメントの内容
明豊ファシリティワークス<1717>の事業セグメントはCMサービスの提供目的によって、「オフィス事業」「CM事業」「CREM事業」の3つに区分されている。
オフィス事業はオフィスの移転・新築・改修を計画している企業に対して、計画の初期段階から移転先ビルとの適合性確認や設計、オフィス家具・設備の調達、工事、引越しまでをワンストップサービスで提供する事業となる。受注契約としては多工種にまたがるため、オフィスプロジェクトでは顧客メリットを踏まえて、同社による一括請負型の「アットリスクCM方式」の利便性を顧客へ説明し、同方式が採用されるケースがある。
CM事業は、対象マーケット規模の大きさから同社の中で最も成長ポテンシャルの高い事業となる。建物の新築・改修・改築や空調・電気設備の更新などに関して、施主の要望を整理して基本計画を作成し、プロジェクトの早期立ち上げを支援する。その後、施主側に立って、設計・発注・施工等各工程における品質管理やコスト管理などを行い、工事費用やスケジュール管理が適正に行われるようマネジメントする事業となる。受注契約方式は総工費が大きくなるため、「ピュアCM方式」での契約が多い。
CREM事業では、金融機関や大企業を中心に保有資産の最適化をサポートするサービスを提供している。具体的には、顧客が保有する多拠点施設の新築・改修において、同社のCM手法を用いて工事コストの削減を図るほか、保有資産をデータベース化し資産情報の集中管理を行うことによって、複数年にわたる改修プロジェクトを効率的に進める、工期の短縮化や予算執行の平準化を実現するサービスとなる。このため、同事業は複数年契約となるケースが多く、ストック型のビジネスモデルに近い。顧客は大企業が多くを占めるため、上位顧客5社程度で売上高の70%超を占めているのも特徴と言える。また、複数年にまたがるプロジェクトが多いことから、CREM事業を通じて新規プロジェクト案件などの情報も得られるようになってきており、CM事業やオフィス事業への橋渡し的な位置付けにもなっている。
そのほか同事業では、既存施設の耐震診断や環境・省エネ問題に対応するライフサイクルマネジメント※に関するサービスなども行っている。拡大する環境・省エネニーズに対応すべく、同社ではCASBEE建築評価員資格保有者も拡充しており、2017年11月末時点で29名が在籍している。
※ライフサイクルマネジメント…建築物のライフサイクルにわたって建築物の各役割における効果が維持の向上、並びに費用の削減を総合的に行うとともに、生涯の二酸化炭素の削減も考慮し、最適な案を選択していく営み。
5. SWOT分析
同社の経営を取り巻く外部環境と経営の現状について、SWOT分析を行う。SWOT分析とは、強み「Strength」、弱み「Weakness」、機会「Opportunity」、脅威「Threat」の4つに区分して、組織のビジョンや戦略を企画立案する際に利用する、経営分析の一般的な手法である。
外部環境面での成長機会としては、対建設投資において品質、コストとスピードへの顧客側の意識が高まること、また、企業のコンプライアンス意識の高まりによって、発注プロセスやコストを明確に開示し、建設費用の削減に資するCM事業者へ発注するケースが増えていくことが想定される。また、2014年に品確法が改正され、公共分野において多様な入札方式の導入・活用が推進されていることも、CM事業拡大の追い風となる。
同業他社との差別化という点においては、一般的なCM事業者の場合、設計工程の完了した段階でプロジェクトに参画するケースがほとんどだが、同社はさらに上流工程となる建設の基本構想段階から参画するケースが全体の7割以上を占めるようになってきており、多様な人材をそろえることによってプロジェクト全体をマネジメントできる能力を持っていることが強みとなっている。
一方、外部環境面でのリスク要因としては、新規参入CM業者との競争激化や建設投資循環の影響が挙げられる。ただ、CMの認知度はまだ低く、採用率が全体の1割程度にとどまっていること、また、今後は地方自治体など公共分野での普及拡大が見込まれていることから、仮に全体の建設投資が冷え込んだとしても、同社にとってその影響は限定的と考えられる。国土交通省が2017年6月に発表した2017年度の民間建設投資額(非住宅部門)の見通しでは、前年度比6.9%増となっており、2020年の東京オリンピック・パラリンピックに向けて当面は堅調な推移が続くと予想される。
内部環境における「強み」としては、独立系であり「フェアネス」と「透明性」において既存顧客から高い信頼を獲得し、それが今では企業風土として新規顧客の開拓においてもプラスになっている点が挙げられる。また、同社は情報の可視化等を目的に開発したプロジェクト マネジメント システムを使って、受注プロジェクトごとに自社のコスト管理を従業員一人ひとりのマンアワーコストに基づいて管理しており、生産性向上に対する意識が会社全体に浸透していることも強みと言える。ワークスタイル面でも、早くからテレワークを全社で導入しており、社内のフリーアドレス化、ペーパレス化を実現している。また、対外折衝においてもすべてペーパレスで行っており、IT技術を積極的に活用することで生産性向上につなげている。今年度の総務省情報通信白書ではモデル事業者として紹介されている。
一方、内部的な「弱み」としては専門性の高い人材がプロジェクト数に比例して必要となるため、成長を持続していくためには優秀な人材の継続的な確保と組織力の強化が必要となる点が挙げられる。ここ数年で業界の中での同社のブランド力、知名度は格段に上昇し、大企業や設計事務所などから優秀な人材が採用できるようになるなど、人材の確保という点では以前よりも難しくはなくなっているが、それでも事業規模を一段と拡大していくためには人員の更なる拡大と育成が課題となっている。同社では年間で10名前後の増員ペースを続けていきたい考えで、採用に関しては専門性の高い人材だけでなく、複数の専門的業務に従事できる人材を優先的に獲得することで、1人当たりの生産性をさらに向上していくことを目指している。また、組織力についてもコミュニケーションスキルの向上を中心とした人材育成に取り組んでいる。CM業務ではプロジェクトごとに複数のメンバーが集まって業務を遂行するが、メンバーを束ねるプロジェクト・マネージャーの資質によって、プロジェクトの品質に差が生じる。プロジェクト・マネージャーとしての能力を見出すこと、あるいは育成することで組織力が強化され、全体の生産性向上につながると考えている。ここ数年で採用した若手社員も順調に育ってきており、プロジェクト・マネージャーの人員体制の拡充が進んでいることから、今後は更なる生産性の向上が期待される。
なお、2017年9月末の従業員数は前期末比で1名増の226名にとどまった。採用は順調に進んだが、退職者数が前年よりも増加したことが要因となっている。ただ、生産性については低下しておらずマイナスの影響はない。2018年3月期末に向けて採用者数を増やし、232名程度まで人員を増やしていく予定にしている。同社は新卒者の採用はまだ行っておらず、すべて中途採用となっている。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 佐藤 譲)
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