東京--(BUSINESS WIRE)--(ビジネスワイヤ) -- 東芝デバイス&ストレージ株式会社(以下、東芝デバイス&ストレージ)は、次世代無線LAN
(IEEE 802.11ax注1)向けに、0.8Vの低電圧動作を実現した5GHz帯の受信回路を開発しました。本技術の詳細を、ベルギーで開催される半導体回路国際会議「ESSCIRC
2017」にて、9月14日(現地時間)に発表しました。
IoTの普及により、多数の無線LAN端末が存在する環境でも高速通信を実現することが求められています。次世代無線LAN(IEEE
802.11ax)は、現行世代と比べ通信が混雑した環境においても4倍以上の高速通信を可能にしますが、高速なデジタル信号処理を低消費電力で実現するには、1V以下の低電圧で動作する最先端の微細半導体プロセスの適用が必要です。しかし、デジタル回路に比べて無線LANに用いられるRF注2受信回路などのアナログ回路を低電圧化することは困難であり、新たな回路技術の開発が求められていました。
そこで東芝デバイス&ストレージは、低電圧での動作を可能にする3つの新技術を開発しました。
第一に、歪み特性を改善した可変歪みRFアンプです。受信回路内部における信号レベルの上限は電源電圧で制限されるため、低電圧環境では受信した信号に歪みが発生しやすく、RFアンプには高い歪み耐性が要求されます。一方、可変抵抗を用いて歪み調整を行う従来の方法では、回路の内部電圧も変化してしまいアンプ特性が劣化するという問題がありました。東芝デバイス&ストレージが開発した可変歪みRFアンプ(図1(b))では、高い歪み耐性を持つ回路と内部電圧を調整する回路の出力を混ぜ合わせることで、内部電圧を変化させることなく歪み特性の改善が可能となりました。
第二に、雑音を低減した周波数変換器です。周波数変換器はスイッチによってRF信号をデジタル信号に変換可能な低周波信号に変換する役割を担っています。低電圧環境においてもスイッチを十分機能させるためには、スイッチの性能を補助する電流源回路の追加が必要となり、その雑音が信号精度を悪化させるという問題がありました。今回開発した周波数変換器(図2(b))では、この電流源回路をRF信号領域に移動させることで、雑音を信号に影響しない周波数に変化させ、出力信号の劣化を抑えることに成功しました。
第三に、電流加算型オペアンプです。オペアンプは変換された低周波信号をデジタル信号に変換可能な振幅レベルまで増幅する機能を果たしますが、低電圧環境においては、出力振幅が電源電圧で制限されるため、オペアンプ自身の動作電圧範囲が狭くなっていました。新技術である電流加算型オペアンプは、高速差動カレントミラー方式注3を採用することで、出力部分の増幅器に電流源を確保する必要がなくなり、回路動作が可能な電圧範囲を拡大することができました(図3(b))。
東芝デバイス&ストレージは、これらの技術を搭載した5GHz帯の受信回路を開発することで、最先端の微細半導体プロセスが適用可能な電源電圧0.8Vにおいて、次世代無線LANに必要な受信特性を実現しました(図4)。
東芝デバイス&ストレージは、今後も本技術を適用した送受信回路の開発を進め、次世代無線LANをはじめとする高速無線通信技術の発展に貢献していきます。
注1 | IEEE 802.11ax: IEEE(The Institute of Electrical and Electronics Engineers, Inc)により策定が進められている無線規格。対応する周波数は2.4GHz帯および5GHz帯。端末が高密度で存在する環境において平均スループット向上を目的としている。 | |
注2 | RF:Radio Frequencyの略。無線LANで用いるような高周波数帯のこと。 | |
注3 | 高速差動カレントミラー方式:電流をある倍率でコピーする回路。信号成分は二つの入力の差で表現され、高速動作のためにサイズの異なる二つのMOSFETを縦積みにして用いている。 |
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