図1
図2
図3
図4
■研究の背景
通常、目の表面は涙で覆われ、外界の刺激から守られています。しかし、エアコンによる乾燥、スマートフォンやパソコンの過度な使用、加齢、コンタクトレンズの使用など様々な原因によって、涙の量が減少したり、涙液中のムチンの量が減って涙の質が低下したりすると、涙が目の表面に均一に広がりにくくなり、角膜上皮細胞が損傷し、目の乾きやかすみが生じます。この状態がドライアイで、現在2,000万人以上の患者がいると推定されています(京都府立医科大学雑誌,122(8),549~558,2013)。
ビタミンAは角膜上皮細胞の分化・増殖を促進させる効果があり、ドライアイに対して、損傷した角膜を修復したり、ムチンの産生を促したりすることで有効性を発揮することが知られています。しかし、ビタミンAは脂溶性のため、有効性を十分発揮させるためには、水を多く含む点眼薬中に可溶化する技術が必要です。これまで当社はビタミンAを可溶化するために、界面活性剤を用いてビタミンAを微粒子として点眼薬中に均一に分散させる技術(ナノエマルション(※1)技術)を開発してきました。この技術を活用して、ドライアイに効果のある点眼薬の開発を試みました。
(※1) 直径数十~数百nm程度の油滴が水中に分散した状態
■研究結果
<製剤開発>界面活性剤EOPOによる新ビタミンAナノエマルション製剤を開発
これまで当社は、界面活性剤HCO(※2)を用いたナノエマルション技術により、ビタミンAを配合した点眼薬を開発してきましたが、新たに界面活性剤EOPO(※3)を用いたナノエマルション製剤(新ビタミンAナノエマルション製剤)を開発しました。この新製剤を用い、モデル試験によるビタミンAの角膜上皮細胞への透過性およびドライアイ患者を対象にした臨床試験を行いました。
(※2) ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油
(※3) ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール
<試験結果>
1) モデル試験:新ビタミンAナノエマルション製剤化により、ビタミンAの角膜上皮細胞への透過性が向上する
蛍光色素を結合させたビタミンA(pVA)を用いて、新ビタミンAナノエマルション製剤を調製し、ヒト角膜上皮細胞に添加しました。比較のために、界面活性剤HCO(※2)を用いたナノエマルション製剤を調製し、同様に処理しました。
その結果、新ビタミンAナノエマルション製剤の方が角膜上皮細胞中のpVA由来の蛍光が強く、多くのpVAが角膜上皮細胞中に浸透していることがわかりました(図1)。
図1 各製剤添加後の観察画像
https://www.atpress.ne.jp/releases/142905/img_142905_1.jpg
方法:ヒト角膜上皮細胞に各製剤を添加し、精製水で1,000倍に希釈後、約5分後に共焦点レーザー顕微鏡にて観察
2) 臨床試験:新ビタミンAナノエマルション製剤は、ドライアイ患者の角膜上皮損傷治癒を促進するとともに、不足しているムチンの産生を促進する
目の表面は、角膜上皮細胞の上に3相からなる涙で覆われていますが、ドライアイ患者の目の表面は、角膜上皮細胞が損傷したり、涙をつなぎとめるムチンが減少し、ムチン層が欠損した状態になったりしています(図2)。
ドライアイ患者に対し、新ビタミンAナノエマルション製剤とビタミンAを含まないプラセボ製剤を4週間点眼する臨床試験を行い、角膜上皮細胞の損傷状態やムチン層が欠損した状態を観察しました。その結果、新ビタミンAナノエマルション製剤は、プラセボ製剤と比較し、ムチン層が欠損した部分が2,4週間で有意に改善し、角膜上皮細胞の損傷部位も減少する傾向が見られました。このことから、新ビタミンAナノエマルション製剤は角膜上皮損傷の治癒やムチンの産生を促進することがわかりました。
図2 ドライアイ患者の目の表面構造模式図
https://www.atpress.ne.jp/releases/142905/img_142905_2.jpg
<多施設共同プラセボ対照無作為二重盲検並行群間比較試験>
対象者:ドライアイ患者66名
(プラセボ製剤点眼群33名、
ビタミンAナノエマルション製剤点眼群33名)
*ビタミンA濃度:5万IU/100mL
期間 :4週間
方法 :染色法にて確認、
フルオレセイン:角膜上皮細胞の損傷部、
ローズベンガル:ムチン層欠損部
図3 角膜上皮損傷治癒およびムチン層の回復
https://www.atpress.ne.jp/releases/142905/img_142905_3.jpg
3) 臨床試験:新ビタミンAナノエマルション製剤は、ドライアイ患者の目の乾きやかすみ等の自覚症状を改善する
2) の臨床試験において、目の乾きやかすみの自覚症状を確認したところ、EOPOを用いた新ビタミンAナノエマルション製剤は、ビタミンAを含まないプラセボ製剤と比較し、目のかすみは1,2週間で有意に減少し、目の乾きも改善する傾向が見られました(図4)。
図4 自覚症状の回復
https://www.atpress.ne.jp/releases/142905/img_142905_4.jpg
■今後の展開
界面活性剤EOPOを用いた新ビタミンAナノエマルション製剤がドライアイに対して有効であることが明らかになりました。本技術を応用し、今後、涙液減少に伴う角膜上皮障害や涙液中のムチンの減少をしっかりと改善し、目の乾きに伴うトラブルを解消する新たな点眼薬を開発してまいります。
<学会発表概要>
【第121回日本眼科学会総会】
◎発表日:2017年4月6日(木)
◎会場 :東京国際フォーラム
◎演題 :レチノールパルミチン酸エステル点眼液の
ドライアイ患者に対する治療効果
土至田宏(1)、舟木俊成(2)、小野浩一(3)、關保(4)、
大竹博司(5)、加藤卓次(6)、渡部草太(7)、田淵照人(7)、
海老原伸行(8)、村上晶(2)
【第33回日本DDS学会学術集会】
◎発表日:2017年7月6日(木)
◎会場 :京都市勧業館みやこめっせ
◎演題 :ビタミンAと界面活性剤の角膜上皮障害に対する
有効性と細胞透過性
栗岡昌利(7)、三宅深雪(9)、田淵照人(7)、下川直史(10)、
辻野義雄(10)、高木昌宏(10)、戸堀悦雄(9)、近亮(7)
【第56回日本油化学会年会】
◎発表日:2017年9月11日(月)
◎会場 :東京理科大学神楽坂キャンパス
◎演題 :ビタミンナノエマルションのGUVに対する相互作用
三宅深雪(9)、柿澤恭史(9)、戸堀悦雄(9)、
下川直史(10)、辻野義雄(10)、高木昌宏(10)
ビタミンナノエマルションの細胞透過性
奥田卓馬(9)、三宅深雪(9)、戸堀悦雄(9)、
栗岡昌利(7)、田淵照人(7)、近亮(7)、下川直史(10)、
辻野義雄(10)、高木昌宏(10)
<論文発表概要>
Toshida H(1), Funaki T(2), Ono K(3), Tabuchi N(7), Watanabe S(7), Seki T(4), Otake H(5), Kato T(6), Ebihara N(8), Murakami A(2). Efficacy and safety of retinol palmitate ophthalmic solution in the treatment of dry eye: a Japanese Phase II clinical trial. Drug Design, Development and Therapy.11 1871-1879, 2017.
1 順天堂大学医学部附属静岡病院・眼科
2 順天堂大学医学部附属順天堂医院・眼科
3 順天堂大学医学部附属順天堂東京江東高齢者医療センター・眼科
4 たまがわ眼科クリニック
5 医療法人社団博陽会おおたけ眼科つきみ野医院
6 道玄坂 加藤眼科
7 ライオン株式会社薬品研究所
8 順天堂大学医学部附属浦安病院・眼科
9 ライオン株式会社機能科学研究所
10 北陸先端科学技術大学院大学
<消費者の方> お客様センター 0120-813-752