
米価の高騰が続く中、稲を食い荒らす大型の巻き貝「ジャンボタニシ」(スクミリンゴガイ)への警戒感が高まっている。1980年代に食用として台湾から持ち込まれたジャンボタニシ。野生化し繁殖力が強いうえ、温暖化で越冬しやすくなるなどして発生地域が拡大する可能性もあるからだ。
まだ発生が確認されていない米どころ・新潟県では、ジャンボタニシの田んぼへの持ち込みを禁止するルールを新たに策定。田植えシーズンを迎え、全国の産地はコメの収量を減らしかねない害虫にピリピリしている。
違反に過料30万円も
「一度でも侵入、まん延すると根絶は難しく、本県の稲作に多大な影響をもたらす恐れがある」
新潟県は2024年11月、植物防疫法に基づく「県総合防除計画」で、ジャンボタニシを水田に持ち込まないことを農家の「順守事項」として定めた。違反した場合、30万円以下の過料が科される。
隣の群馬・長野両県では確認されており、危機が迫っている。
ジャンボタニシは南米原産の外来種で、大きさ2~7センチ程度の巻き貝。生育初期の稲や、レンコンの若葉などを食べるため、各地で食害が問題になっている。
農林水産省によると、ジャンボタニシは食用として81年に台湾から長崎県と和歌山県に持ち込まれ、その後、各地に養殖場もできた。しかし、需要は伸びずに廃れ、放置されたものが野生化した。
暖冬だと越冬しやすく、温暖化とともに個体数が増加。用水路を移動したり、農機具に付着したりして少しずつ生息域を広げ、被害を受ける地域が拡大したと考えられるという。22年時点で関東以西の35府県に分布している。
新潟県がルールを検討するきっかけとなったのは、24年春ごろ、ジャンボタニシを除草目的で水田にまく様子を収めた投稿が交流サイト(SNS)で拡散したことだった。
農水省は、除草目的でもまかないように呼びかけているが、新潟県の担当者は「SNSでの拡散に危機感を持ち、24年夏ごろからルールの議論を始めた。発生域が隣県にまで迫っており、県内に入れないよう注意深く監視していきたい」と話している。
「今年は気合を入れて」
昨年、被害が多かった千葉県も警戒を強める。24年6月の調査で、食害を受けた稲は平年の約3倍に上った。
「STOP!ジャンボタニシ被害!」
千葉県東部の山武(さんむ)市など九十九里浜に面した地域を管轄する県山武農業事務所は25年2月、対策を呼びかけるチラシを新たに作製し、農家に配布した。
田んぼの土の凸凹をなくし、食害が出やすい田植え後の約3週間はタニシが移動しにくいよう水深を4センチ以下に浅く管理するといった対策を呼びかけた。
改良普及課の風戸治子課長は「コメの需要が高まっている中、収量を落としたくない農家は少なくない。昨年は大きな被害があり、今年は気合を入れて対策に取り組んでいる農家が多い」と話す。
薬剤や捕獲器の補助も
自治体による駆除用の農薬や捕獲器への補助も広がっている。
千葉県東金市は25年度、農薬の購入費を3分の1まで助成する制度を開始した。田植え後にまく主な農薬は通販サイトなどで2キロ3000円程度で売られている。
市の担当者は「昨年はこれまで食害がなかった地区にも広がった。このままだと農薬購入などの費用がかさんで稲作をやめる農家も出かねない。今年はコメの不足感も強く、対策をして収量を確保したい」と危機感を募らせる。
静岡県森町も食害を抑えるため、25年度から捕獲器の購入補助を始めた。3万円を上限に2分の1まで助成する。
農水省の担当者は「生息域が拡大している地域では対策が十分になされず被害が出やすい。対策をしっかり取れば、コメの収量減は避けられる」と呼びかけている。【岡田英】