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コロナに翻弄され…新法施行から5年 「民泊」はいま


 戸建て住宅やマンションの部屋を活用して観光客らに宿泊サービスを提供する「民泊」のルールを定めた住宅宿泊事業法(民泊新法)が2018年に施行されて15日で5年。訪日客(インバウンド)の急増やホテル不足を背景に急拡大したが、新型コロナウイルス禍で苦境に立たされるなど翻弄(ほんろう)された。コロナ後の需要回復で息を吹き返しつつあるが、現状はどうなっているのか。

 「まるで夢みたい」。九州一の繁華街、福岡市中央区の天神エリアの一軒家を改修して民泊を営む高英起(コウヨンキ)さん(58)は、22年秋以降のコロナの水際対策緩和で外国人旅行者が増え始めたことに喜びを隠さない。

 個室や相部屋、利用者が交流できるスペースを備え、高さんの親しみやすい人柄も相まって人気を博す。宿泊費は日によって異なるが、週末でも5000円台で、一人旅で訪れた韓国人のエンジニアの男性(42)は「韓国の人がいる安心感と安さが魅力だ」と語る。

 韓国人観光客の急増などもあり、売り上げもコロナ禍前の水準に戻った。高さんは「コロナ禍前は日韓関係の冷え込みもあり、大変な時期が続いた。このまま何事もなく軌道に乗ってほしい」と祈るように話す。

 観光庁によると、全国の民泊の延べ宿泊者数は19年度は約500万人だったが、コロナ禍が本格化した20年度は約114万人に激減。コロナの収束に伴い、22年度は約262万人まで回復した。

 2、3月の外国人の利用割合は4割程度だが、コロナ前のピーク時の8割程度にほど遠い。だが、今後は中国人観光客の回復も見込まれ、需要はさらに増えることが予想される。

 一方で、コロナ禍で撤退した業者は少なくなく、届け出住宅数は19年度末の2万1981件が、22年度末は1万9074件と約13%減った。

 天神エリアでマンション2部屋を使って18年から民泊を営んだ不動産会社社長の川上美知さん(59)は、クルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス」でコロナの集団感染が起きた直後の20年2月ごろ、月決め賃貸マンションに業態を変えた。

 コロナ前の民泊の売り上げは賃貸の倍ほどだったが、川上さんは今月、民泊を再び始めるか迷った末、5年ごとの民泊管理業者の登録更新を断念した。営業日数が年間180日に制限される「180日ルール」があるためだ。

 民泊は空いている民家や部屋を旅行客らに一時的に利用してもらうことを想定するため、旅館業法に基づき営業するホテルや旅館などの宿泊施設とは一線を画す。民泊事業者にとって、180日ルールは採算確保の大きな障壁となっており、川上さんは「多く稼働できればメリットを感じるが、微妙な日数で身動きが取れない。もう少し幅を広げてほしかった」とこぼす。

識者「地域生活を体験 魅力発信を」

 今後の民泊の展望はどうなのか。米国が拠点の大手民泊仲介サイト「Airbnb(エアビーアンドビー)」日本法人の広報担当者は「コロナ禍でも密を避けて旅行を楽しみたい、友達とお酒を飲みたいという需要があった」と明かす。戸建てをグループで借りたり、旅先で仕事をする「ワーケーション」で利用したりする事例が目立ち、今後はインバウンドを含め地方への人の流れが増えると予想する。

 民泊事業者の多くは都市圏に集中しており、国土交通省は地方の受け皿を拡大するため、参入を促す方針だ。7月中にも民泊の管理を受託する業者の要件を緩和し、宅地建物取引士の資格などがなくても管理を担えるようにする。

 需要回復で心配されるのがトラブルの増加だ。民泊新法は、ルールが未整備で騒音など近隣トラブルが絶えなかったことが導入の発端になった。現在は民泊業者に苦情対応を義務付け、都道府県は必要に応じて立ち入り検査ができる。所有物件で民泊サービスを提供する不動産業者は「施行前はやりたい放題だったが、今は『きちんとやっている業者だ』と見てもらえるようになった」と自賛する。

 一方で、マンションなどの住民の不安はなおもくすぶる。NPO法人「福岡マンション管理組合連合会」の畑島義昭理事長(81)は「最近は民泊の苦情を聞かなくなったが、需要回復で再びトラブルが増えないか様子を見たい」と話す。

 質を保ちつつ、いかに受け皿を広げるか。立教大の東徹教授(観光マーケティング)によると、民泊新法の背景に、東京オリンピック前のホテル不足▽空き家の増加▽悪質な業者やトラブルの増加――があった。その上で「インバウンドバブルで需要が急増し、マンションの空き室の鍵を貸すだけのような家主不在の『不動産ビジネス』型の民泊が増え、管理業者が必要になった。今後は不動産業者だけでなく、宿泊業者が管理業者として参入してもよい。また、家主と交流したり、地域の生活を体験できたりする民泊ならではの魅力を生かす『観光ビジネス』としての民泊が増えていくことも期待される」と指摘する。【山口響】

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