もうすぐ平成が終わろうとしています。そこで新語・流行語で当時を振り返っていきます。今回は「1990年(平成2年)」編です。
この年、世界では東西ドイツが統一。国内では89年の女性が一生に産む子どもの数が、それまで過去最低だった66年の数値を下回り、1.57ショックといわれる事態が起こりました。これが日本を悩ませる少子化問題の発端といえます。
■【バブル経済】弾ける寸前に名付けられた「バブル」という新語
日本のバブル景気はおおよそ1986年から90年にかけての出来事。つまり、株価の大暴落が起こるなどバブル経済の崩壊が始まる年でした。
しかし当時はまだ、経済の崩壊を実感する人は少なかったのです。そもそも「バブル経済」(流行語部門・銀賞)という言葉自体が、同年に注目されたばかりの新しい言葉でした。
当時、世間はまだ浮かれた雰囲気の中にいました。捕まらないタクシーを止めるために、道端で一万円札を振る人々がいたのもこの頃。青年実業家が「ヤンエグ」(ヤングエグゼクティブの略)などと持てはやされていました。以下で紹介する言葉にも、そんな浮ついた雰囲気を反映したものが少なくありません。
■【アッシー君】“自由恋愛至上主義”のサバイバル時代が幕を開ける
当時の若い女性の間で、男性を目的ごとに呼び分ける習慣が広がりました。例えば恋人の男性を「本命くん」、恋人ができるまでのつなぎで付き合う男性を「キープくん」、プレゼントをもらうだけの関係である男性を「みつぐ(貢ぐ)くん」、夜遊びの後にタクシー代わりに(つまり「足」として)呼び出す男性を「アッシーくん」(新語部門・表現賞)、便利屋として使う男性を「ベンリー君」と呼んだのです。そして、理想の男性像を「三高」(高身長・高学歴・高収入)と称したのもこの時代でした。
ちなみに人気番組「ねるとん紅鯨団」(87年~94年)からは「彼氏(彼女)いない歴」などの言葉も登場。90年代中ごろには「元彼・元カノ」などの言葉も普及します。異性の値踏みや恋人の存在も当然、豊富な恋愛遍歴ほどもてはやされる――といった恋愛観が広まっていき、まさに恋愛において弱肉強食の時代が始まりました。
■【おやじギャル】徐々に曖昧になる男女の境界
女性の社会進出が急速に進み、男性が好んでいた趣味の領域――ギャンブルやゴルフなど――を、若い女性も楽しむようになっていきました。そのような女性を漫画家・中尊寺ゆつこ(05年没)の作品「スイートスポット」で描かれた女性キャラから「おやじギャル」と呼ばれました(新語部門・銅賞)。このころから次第に男性がやること、女性がやることの境界がなくなっていきます。
■【イタ飯】雑誌からブームが生まれる時代
現在でもメジャーなスイーツである「ティラミス」。これが最初に話題になったのは90年のことでした。流行のきっかけは雑誌「Hanako」が特集を組んだこと。「いま都会的な女性はおいしいティラミスを食べさせる店すべてを知らなければならない」との刺激的な文言が並び、話題になったものです。
ちなみにこのあとも「クレームブリュレ」「ナタデココ」などの流行を次々と仕掛けていくことになります。そして、そのティラミスを提供する店としても注目されたのが「イタ飯」――つまりイタリア料理店でした。エスニック料理店(80年代末期に流行)に飽きた若者が、このような店にハマったとされています。
ちなみに○○飯という語形は、2000年代のカフェブームでも「カフェめし」という言葉を残しています。
※ほかにもこんな新語が……
PKO、グローバリズム、第二新卒、成田離婚、あげまん、チャネリング、ミステリーサークル、自己啓発、ファジー(家電)、ランバダ、バラドル、スッチー、人面魚、ヤワラちゃん、芳賀ゆい、だいじょーブイ
■【まとめ】1990年の流行語に感じる「バブル崩壊の足音」
同年からバブル崩壊の足音が聞こえはじめました。しかし、世間では「バブル経済」がやっと流行語になったばかり。若者は「アッシー君」「イタ飯」のような浮ついた流行の渦中にいました。今にして思えば、90年はバブル経済の「崩壊」と「栄華」の両方が同時に存在していた年だったのかもしれません。