今や国内外問わず高い評価を受ける、河瀬直美監督の最新作は辻村深月の小説の映画化。
不妊の問題から特別養子縁組の制度を利用して生まれたばかりの子供を迎え入れた夫婦に井浦新と永作博美。
「朝斗」と名付けられた男の子は、すくすくと成長する。
映画は、夫婦それぞれの立場から心の移ろいや葛藤を丁寧に描いていて、子供が家族に加わる前の段階で既に心がかき乱される。
特に、不安を抱きながらも覚悟を決める永作博美の表情、仕草、存在感は、この素晴らしい映画の中心を貫く芯のようなものかもしれないと思った。
この予感は、映画を観終わった後に確信に変わった。
葛藤や苦労を経ながらも6年間にわたり愛しい子を育む夫婦のもとに、産みの親と名乗る女性から突然1本の電話がかかってくる・・・
これを機に、それまでの平穏な家族生活は曇り始めることに。
ここまでの映画の前半を観たほとんどの人は、産みの親とはいえ彼女がこの幸せな家族に介入することを受け入れないだろう。
ところがこの映画は、そこから、今度は産みの親である少女のそれまでの苦難に満ちた人生に焦点を合わせる。
そうして観る者が十分に想像できなかった、もう一つの親子の繋がりに関する問題提起をも行ってみせるのだ。
産みの親と育ての親、相容れないように見える別の次元での親子の繋がり。
劇中に「海は1つ、横浜の海も広島の海も繋がっている」と母子が何気なく話すシーンがあるが、一筋縄ではいかない現実についての1つの真理を教えられたような気がした。
それは明日も必ず朝日が昇るという事実と同じような普遍性。
大きな覚悟を決めた時点から、この普遍的な真理を理解し実践し続けてきた永作博美演じる母。
その海のように広くて深い母性に涙が止まらなかった。
『朝が来る』
■監督・脚本・撮影:河瀨直美
■原作:辻村深月 『朝が来る』(文春文庫)
■出演:永作博美 井浦新 蒔田彩珠 浅田美代子
■配給:キノフィルムズ/木下グループ
©2020「朝が来る」Film Partners
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