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『木の上の軍隊』平一紘監督インタビュー「体験を聞いたら、映画や本にしてたくさんの人に届けることがエンターテイメントの役割」


太平洋戦争末期、熾烈な地上戦が繰り広げられた沖縄の伊江島で、終戦を知らずに2年間、ガジュマルの木の上で生き抜いた日本兵2人の実話を基にした物語『木の上の軍隊』が公開中です。

沖縄先行公開に続いて全国公開となり、 子供からお年寄りまで世代を超えて映画館に押し寄せ、感動・絶賛の声があふれる本作。監督・脚本を手がけた平一紘さんにお話を伺いました。

※文中に、映画の内容について触れている部分があります。ネタバレを気にされる方はご注意ください。

——本作素晴らしかったです。ありがとうございました。改稿を重ねたそうですが、どんな部分に苦労されましたか?

ラストをどうしようかなということを一番考えました。原作がある作品を扱うことが初めてだったので、基本的にはあまり変えない方が良いのかな?と思っていたのですが、こまつ座の井上麻矢さんが「監督のお好きな様にやってください。この作品に沖縄の血が入って欲しいのです」と言ってくださって。その言葉はすごく嬉しい反面、重たくて。僕は沖縄に生まれた、ただそれだけなので。今35歳で、33歳でこの映画のお話をお受けするまで、沖縄戦に対してちゃんと向き合ったことが1度も無かったので。県外に生まれた人でも沖縄戦のことをたくさん研究してる方もいますから、すごく不安でした。

舞台版のラストは、2人の兵士が木から降りて、そこから2度と会うことはなかったというものなんですね。映画と違って観客席を向いて、2人が向き合うことは無いまま終わります。それがすごく現実を表していて、蓬莱竜太さんの葛藤と苦悩が見える素晴らしい台本だなと思いました。ただ、舞台と映画は違うので、同じことをしても超えることは出来ないだろうと。違う表現は無いかな、と思った時に僕は沖縄県民としてこの2人にどうなって欲しいかを考えたんですね。そうした時にやっぱり向き合ってほしかった。世界がひどい状況だから、映画の中では幸せになって欲しいなと思いました。
それは嘘みたいな幸せなことじゃなくて、1人の人間が1人の人間を理解しようとする結末にしたかったんです。この映画ではラストを海のシーンにしていますが、あのシーンにたどり着くまでにとっても悩みました。

——ラストシーン、すごく好きで救われました。なので観ることが出来て嬉しいです。木の上で暮らす様子も、実写の映像で表現するというのは見せ方の難しさがあったかと思います。

ありがとうございます。そう言っていただけて嬉しいです。
木から降りたいけれど降りられないという葛藤を描くために、「なぜこの状況になっているのか」を描くために木に登る前の段階を入れる必要がありました。2人がだんだん昔のことを忘れてしまうような姿を見せたかったので、前半では沖縄戦の悲惨さを描きつつ、山下(演:堤真一)がどんな想いでこの島に来て、どんな想いで島民と接していたのか。安慶名(演:山田裕貴)がどんな想いで家族を残していったのかということを描こうと。そしてもう1個大事な要素としては、米兵の恐怖をちゃんと描かないと、木から降りられない状況が成り立たないと思いました。恐怖が分からないと、今この隙に逃げればいいじゃん、2年間も木の上にいる必要ないじゃんと思えてしまう。
なので、舞台版に無かった前半を描きつつ、舞台版にリスペクトをこめて、木に登ってからタイトルを入れています。あの瞬間から始まるのが『木の上の軍隊』ですという気持ちを込めています。

——堤真一さん、山田裕貴さんが、観客として心配になるほど役作りをされていたと思うのですが、お2人に助けられた部分はどんな所ですか?

お2人ともかなり節制して役作りをしてくださって、全部のシーンで助けられていましたけれど、思った以上に面白くしてくださるんです。山下が木から滑り落ちるシーンも、「いや、もっとみっともなく落ちていくはずだから」と言って、身体を動かしながら実演してくださったり。お芝居で目が落ちくぼんでいるように見えるってすごいなと。人は芝居でメイクも超えて顔を作れるんだって驚きました。
山田さんは、(親友の)与那嶺と語りあっていたけれど朝起きたら幻想だったというシーンがあって、映画の中ではエモーショナルなシーンとして描かれているんですけど、台本上の元々の設計図ではそういったシーンでは無かったんです。その後の展開が衝撃の連続なので、そこはシンプルに描こうと思っていたのですが、山田さんは安慶名を生きているから(台本とは)全然違うお芝居をして、それが素晴らしくて。普段だったら少しトゥーマッチかな?と修正をするかもしれないですが、「安慶名だったらこうなるのだろうな」という話を山田さんともして、そのまま使わせていただきました。サラッと吐く予定だったセリフも、感情が高ぶって山田さんが言葉に詰まってしまって。山田さんのおかげで作れたシーンです。

——私が言うのがおこがましいですが、泣かせようとしている演出では無いのに本当に泣けてしまいました。

そのバランス感覚みたいのものが山田さん素晴らしかったです。ここは泣きすぎなんじゃないか?ここではこのぐらいのテンションが良いですかね?という感じで、一緒になって台本を見てくださいました。

——台本についてお聞きしたいのが、山下がスパゲティを食べるシーンの表情はどう書かれているのですか?

そこの表情は、僕もどんな顔してもらえば良いか分からなかったので、堤さんにおまかせしました。

——台本では「スパゲティを食べる」だけだったのですね!

そうなんです。そうしたら堤さんは笑ったんです。沖縄で先行上映をしているのですが(※取材時。現在は全国上映中)、劇場での反応が様々で。笑いが起こることもありますし、人によっては、ちょっとひいている反応だったり。僕はやっぱり人間って滑稽だなって思うんです。その中にいるとすごく切実ですけれど、引いてみた時に滑稽であるように描きたいなと思っていたので、堤さんのおかげで良いシーンが撮れたと思っています。

——山下が「米兵の食べ物なんて食べられるか」と拒否するシーンでは、観客としては「もう食べちゃえばいいじゃん!」って思うのですが、そう思えること自体が平和なのだなとも感じました。

実際に取材で色々なお話を聞く中で、アメリカ軍の食べ物を食べなくて餓死した兵士の話を知りました。なので、本当にあったことなんですよね。人間ってなんでしょうね。プライドのために死ぬ人間が本当にいるのだなと思いましたし、こちらの価値観だけでは測れないんですよね。

——その他取材で印象的だったことはありますか?

ミンダナオ島という場所で潜伏していた元兵士の方にお話を聞いたのですが、1番辛かったのは仲間が死んだこと。そして「時間が分からない」ということがストレスだったそうです。劇中でも、山下が曜日を知るための計算をしますが、これは実際にやっていたそうで、日曜日になると米軍が大人しくなるので、食料探しに出ていたことも本当だそうです。

——監督がご自身の祖父母にお話を聞いた経験もあったのでしょうか?

僕の祖父母はもう亡くなってしまっているのですが、戦争体験の話は1回も聞いたことなかったです。戦争の語り部がどんどん減ってしてしまっているという現状がありますが、そりゃそうだなと思う部分もあります。僕は映画を監督しただけなので、いくらでもインタビューで話せますし、言ってしまえば撮影のことなので思い出として話せるのですが、これが「自分の身に起きたことを話せ」という状況だったら厳しいだろうなと。戦争下とはいえ、自分が人を殺した経験を話すのは想像を絶するしんどさだろうなと思います。それを責務だと思って語ってくれている方には頭が下がります。
その中で、僕らエンターテイメントを作る人の役割は、体験を聞いたら、それを映画や本にしてたくさんの人に届けることだと思っています。

——与那嶺役の津波竜斗さんは沖縄出身の俳優さんですが、印象を強く残してくれましたね。

与那嶺役は沖縄の俳優にお願いしたいなと思っていたので、色々な方をオーディションさせていただいたのですが、みんな「与那嶺役が良かった」と言ってくださるので良かったなと思います。ポスターにも写っていないし、予告編にもしっかり映っていないんですけれど、三番手として重要なキャラクターです。映画としてある意味サプライズ的な印象もあると思います。僕の監督作品『ミラクルシティコザ』(2022)にも出てくれている俳優で、これをきっかけにたくさん活躍の場が増えたら何より嬉しいなと思います。

——監督の今後の作品もとても楽しみなのですが、言える範囲でご予定を教えてください。

決まっているのはドラマと短編映画で、長編映画はホラー映画を作りたいなと思っています。
将来的な話でいうと、『オールド・ボーイ』(2003)が大好きで。ああいう作品を撮ってみたいですね。日本の映画だと野村芳太郎監督の『砂の器』(1974)がめちゃくちゃ大好きで。大学生の時に松本清張研究を卒論で書いたのですが、「『砂の器』は原作を超えた唯一の松本清張作品」と言われていて、実際そうだなと思っています。音楽が素晴らしいんですよね。『オールド・ボーイ』も『砂の器』も音楽と色々なシークエンスが奇跡的に混ざって、観客にあらゆる表現を見せてくれる。僕が『ミラクルシティコザ』のラストシーンで目指したのは『砂の器』なんです。
『木の上の軍隊』も沖縄でたくさんの方に観ていただいて、これから全国でどの様な広がり方をするのか楽しみですし、この経験を活かして今後も作品作りをしていきたいです。

——今日は素敵なお話をどうもありがとうございました!

『木の上の軍隊』
出演:堤 真一  山田裕貴
津波竜斗 玉代㔟圭司 尚玄 岸本尚泰 城間やよい 川田広樹(ガレッジセール)/山西 惇
監督・脚本:平 一紘
原作:「木の上の軍隊」(株式会社こまつ座・原案井上ひさし)
主題歌:Anly
企画:横澤匡広  プロデューサー:横澤匡広 小西啓介 井上麻矢 大城賢吾
企画製作プロダクション:エコーズ  企画協力:こまつ座 
制作プロダクション:キリシマ一九四五 PROJECT9
後援:沖縄県  特別協力:伊江村  
製作幹事・配給:ハピネットファントム・スタジオ  ©️2025「木の上の軍隊」製作委員会
公式サイト:https://happinet-phantom.com/kinoueno… 
公式X(旧Twitter):@@kinoue_guntai

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