
甚大な被害を生じた地震から8カ月後、豪雨という2度の災害に見舞われた能登。 ジャンルを越える演出家として国内外で幅広い作品を手がけてきた宮本亞門が、 能登でのボランティア活動で想像を超える被害と復興の遅れを目の当たりにし、生まれたショートフィルム『生きがい IKIGAI』。
ドキュメンタリー「能登の声 The Voice of NOTO」を併映にし、先月(6/20~)ユナイテッド・シネマ金沢、イオンシネマ金沢、 イオンシネマ白山、シネマサンシャインかほくにて石川先行公開を行い、いよいよ7月11日(金)よりシネスイッチ銀座ほか全国順次公開となりました。
本作の主演を務めた鹿賀丈史さんにお話を伺いました。
――素晴らしい映画をありがとうございました。本作の企画を聞いた時のお気持ちをまず教えていただけますでしょうか。
去年の元旦に能登半島地震があって。とても大きな地震でしたから、ビックリしたのと同時に、地震が起きた後の援助というか対応がすごく遅かったものですから、どうなったのだろうとずっと気にしていました。そんな中で、今度は水害が起きてどうしてこんなにも辛い出来事が続くんだろうと石川県人として辛い想いがありました。
そんな時に宮本亞門さんから連絡があって、「石川の方に少しでも元気になっていただけるような、ショートフィルムを撮りたい」ということで、台本も読まずに「やりましょう」と即答しました。
宮本さんは作品に精魂を込める方ですから、人の心というものを捉えることが上手いですよね。僕が演じた、「黒鬼」と呼ばれる信三という男を通して、災害に遭われた人間、人間がどう立ち直っていくかというお話で、非常に面白い映画になるだろうなと台本を読んで思いました。
――「宮本さんは人の心を捉えることがお上手だ」とおっしゃいましたが、どんな場面で特に感じましたか?
ほとんど全編そうですね、ショートフォルムということもあるのですが無駄なカットというものがほとんどなくて。実際には、作品に使われている何倍ものカット数を撮っているんですけどね。意外と亞門さんもしつこいなと思うほど(笑)、粘って撮られてたんです。「今のすごく良いですね!」と言ってくれるけど何度も撮る。ご自身で編集をするということもあって、どんなシーンを使いたいかが決まっている所もあったと思いますが、リアリティにとにかくこだわっていらしたのだと思います。

――短い時間の中でもぎゅっと詰まった人間ドラマとなっていますが、人嫌いで「黒鬼」と呼ばれる信三というキャラクターをどの様にとらえて演じようと思いましたか?
黒鬼も、かつては良い先生だったと思うんですよ。音楽も好きで、自分でギターを弾いたりなんかして、それで学校とぶつかって辞めさせられたんでしょうね。その後に奥さんを亡くし、どんどん孤独になっていき、人と交流が無くなった。そういう男が、2度の震災にあい、家の下敷きになって、「ああ、これでやっと死ねる」と思う。そういう気持ちっていうのは、なんだか分かるような気がするんですね。人は人との関わり合いがなくなった時に、本当に孤独になりますよね。僕も1人暮らしだったりするもんですから、こういう状況が自分の身に起こってもおかしくないとなと思いました。ひとごとではないという想いと、同年代と言ってもいいかもしれない人間を演じることはやりがいがありました。
――泥だらけの状態で救出されたり大変なシーンも多かったと思います。
やっぱり寒かったですね。その冒頭の助け出されるシーンを初日に撮ったんですね。夜中までかかって撮ったのですが、実際に倒壊した家の中から出てくるという、リアリティのあるカットから入ったもんですから、物語の順番と同じ様に撮れる喜びを感じました。
亞門監督の姿勢として、大袈裟の芝居というのではなくリアリティというものを大切にしたいという想いが強いので非常にやりやすくて。監督以外のスタッフもヘルメットをかぶって、いつ地震が来てもおかしくない様に粛々と撮影していました。
――小林虎之介さん演じる青年とのやりとりも素敵でした。
(小林虎之介さんは)芝居がね、すごくナチュラルなんですよね。僕は若い人と芝居することがすごく嬉しくて。今の若い人の感性から学んだり、影響を受けることが多いです。彼の出番は(撮影日程の中で)遅かったんですけれども、初日からずっと現場にいて撮影を見学していて、すごく熱心な方なんだなと思いました。熱心だけれどナチュラルで作り物じゃない芝居だったな。彼にはとても感謝していますし、おかげで良い2人のシーンが撮れたと思います。

――若い方との芝居に影響を受けるというのは素敵ですね。
年を重ねて芝居が良くなるかというと、そうでもないっていう気がするんですよね。年を重ねた味というものは出るかもしれないですけれど、決して芝居が上手くなるとか、そういうことではないような気がするもんですから。僕はこの仕事をして57年になりますけれど、続けられることがありがたいことだなと思いますし、この映画のタイトルもそうですが、芝居している時に一番生きがいを感じます。良い台本に巡り合い、良い監督に会い、良い演出家に会い、良い芝居仲間に出会えることが一番嬉しいし、幸せなことだなと思います。
今74歳なのですが、自分はまだまだだという気持ちがありますから、そんなに年齢っていうものは意識しないですよね。なので、病院や市役所に行った時なんかに、自分の年齢を書いて自分で驚いています(笑)。
――併映となるドキュメンタリー「能登の声 The Voice of NOTO」をご覧になっていかがでしたか?
舞台との一つとなっている輪島はとても良いところで、朝市なんかも全部燃えてしまって残念ですよね。水害にあって、出てきた輪島塗の漆器をまた作り直す、塗り直すシーンが出てきますが、そうやって伝統を守る職人さんたちの心が素晴らしいなと思いました。悲しいことから立ち上がって、未来へ繋げていこうとする気持ちというか。先日金沢で行った、本作の先行上映でも、観客の方の表情から、ずしっと心に残るものを観たという気持ちが伝わってきました。『生きがい』とドキュメンタリーをご覧になって、そうやって自分なりの感想を受け止めてくださったらありがたいです。
――今日は素敵なお話をどうもありがとうございました。

撮影:オサダコウジ
【あらすじ】
石川県能登の山奥。
土砂災害の被災現場で、崩壊した家の下から一人の男が救出された。
見守っていた人々から声をかけられるも、元教師で「黒鬼」と近所の人に呼ばれる山本信三は鋭い眼光を残し、去っていく。
避難所になじむことができない信三は、崩壊した自宅の一角で暮らし始める。ある日、被災地ボランティアたちが信三の自宅の片づけの手伝いに訪れた。壊れていたり汚れて使えなくなったものを処分していくボランティアたちだったが、あるものを捨てようとして激怒した信三に追い出されてしまう。ボランティアが捨てようとしたのは、信三にとって、唯一の理解者であり、今は亡き妻・美智子の形見の茶碗だった。
後日、美智子のことを知ったボランティアの青年が再び信三の元を訪れる。彼もまた、大切な人を亡くしており「自分と同じだ」と、信三に心のうちを語りかける。青年の話を聞いた信三は、被災にあい倒壊した家に閉じ込められていた間のことを話し始めたー
【作品概要】
脚本・監督・企画:宮本亞門
出演:鹿賀丈史 根岸季衣 小林虎之介 津田寛治 / 常盤貴子
同時上映:ドキュメンタリー「能登の声 The Voice of NOTO」(監督・編集:⼿塚旬⼦)(上映時間:38分)
公開表記:6月20日(金)石川県先行公開/7月11日(金)シネスイッチ銀座 他順次公開
制作プロダクション:ザフール
企画協力・配給:スールキートス 配給協力:フリック
映画公式サイト:https://ikigai-movie.com
映画SNS:[X] :https://x.com/ikigai_movie
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