大泉洋のバラエティー番組「水曜どうでしょう」のテーマ曲で知られ、パーキンソン病と戦いながら音楽活動する樋口了一さんが、59歳にして全身全霊で俳優初挑戦した映画『いまダンスするのは誰だ?』が公開中です。原案も当事者、実話から生まれた希望と再生の物語となります。
樋口さん自身も2007年頃よりパーキンソン病と戦いながら、歌手活動、パーキンソン病啓発活動に日々取り組まれており、今回パーキンソン病当事者の仕事、人生、家族をリアルに描く古新舜監督の最新作に主演することに。
そこに至った経緯や演技初挑戦のことなど、ご本人に話を聞きました。
■公式サイト:https://imadance.com/about/ [リンク]
●パーキンソン病という病名こそ知ってはいましたが、当事者の方の実情について深くは知らなかったと映画を観て思いました。
おそらくみなさんそうだと思います。名前は知っているが、ここまでクローズアップされたことはなく、難病とはいえ直接的に命に関わるものでもなく、進行度合いも人によって違うものですから。
僕の場合も声が出なくなったことで、それはもう困ったどころの話ではなく、ギターも弾きにくくなってしまったのですが、それを重いと捉えていいのか、位置づけが難しいんです。そこで今回のこの映画が、少しでもパーキンソン病について明らかにしてくれるものがあると思うので、世の中に知ってもらえるという意味合いはあったと思います。
●最初は主題歌だけのご予定が、主演を務めることになったそうですね。
わたし自身もパーキンソン病なので二つ返事で主題歌を担当するOKを出したところ、監督が「お話をしたいことがあります」と、ふたりで飲みに行ったんです。そこで「演じる俳優さんは大変でしょう」などと他人事のように話をしていた。4~5時間かな。それだけの時間で僕にオファーを決められたそうなんです。自分がこれから没頭する作品に4~5時間会っただけの男に託すのかと、まずそのことに驚いたことが始まりでした。
●しかも主演ですからね。
なので最初は断ろうと思ったんですよ(笑)。2~3行のセリフならともかく、主役となると話は違いますよね。そう思ったのですが、日が経つにつれて「お断り申し上げます」と言っている自分の姿を想像して、後悔しそうな気がだんだんとして来た。それはおそらく今僕が59歳で、病気のこともあり、創作活動が出来る期間はそう長くはない。となると映画の主演の企画は、この先もうゼロに近いだろうと。そういう考え方になりました。
●劇中ではお芝居だけでなく、ダンスを披露するシーンもありました。
最初は先生もおらず見よう見まねで踊ってはみたものの、これはハードルが高いなと(笑)。最後に「いまダンスをするのは誰だ?」と言っておきながら、まったくイケてないダンスをしていたのではあり得ないじゃないですか。僕は最初、イケてないサラリーマンが最後にキレキレのダンスをして終わるシーンを思い浮かべていたので、それとはほど遠い自分の姿に愕然としたところもあり、やっぱり辞めようかなと思いましたよ(笑)。
●病と戦う主人公を演じることは難しかったですか?
セリフもただ言うだけじゃないんですよね。家庭にいるシーンもあるわけで、いろいろな動作をしながら言わないといけない。そうすることで覚えたセリフが、初めて活きてくるじゃないですか。最初はまったく想定していなかったので、棒覚えしていただけだったんです。まるで何の役にも立たないものをインストールしただけのコンピューターみたいな感じですね(笑)。それに初日に気付くのですが、これがけっこう大変でした。
あと、自分に起きていない症状を演じることも大変でした。主人公は手が震えるタイプのパーキンソン病なのですが、わたしにはその症状がない。でもパーキンソン病の典型的な症状ですので、映画ではやらないといけないんです。ペーパーロール現象と言うのですが、それを常に表現しながらセリフを言い、お芝居をする。きちんとやらなければという想いでした。
●そして完成した映画が公開になります。
豪華客船がようやく港に着くような感じですね。僕にとっては映画製作の現場は、豪華客船の建造のようなイメージでした。大勢の人間が関わった巨大な船が港に着く。僕はその乗組員のひとりのような気分です。
ストーリーはシンプルです。中年サラリーマンが病気をきっかけにどん底に落ちて、それがきっかけでいろいろな人と出会い、再生していくというお話です。今無関係で健常の方々にもぜひ観ていただきたいです。
■ストーリー
功一は仕事一筋人間で生きてきたが、家庭を顧みず、妻とはすれ違いが続き、娘とも仲が悪かった。ある日、若年性パーキンソン病だと診断されるも、それを受け入れられず、一人孤独を抱えてしまう。職場でも仲間が離れていく。そんな中、パーキンソン病のコミュニティ「PD SMILE」に通い始める。友人が出来、本音を話せるようになり、人とのふれあいの大切さと痛感する。料理にもチャレンジし食生活も改め、不仲だった娘ともダンスを通じて、お互いの関係が改善されていく。
公開中
(執筆者: ときたたかし)