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『Trek to Yomi(黄泉への旅路)』レビュー:時代劇×日本神話の世界を圧倒的な映像美で描いたチャンバラアクション


時代劇×日本神話の世界を圧倒的な映像美で描いたチャンバラアクション『Trek to Yomi(黄泉への旅路)』。筆者はビジュアルを見た時点で「これは!」と引き付けられたため自腹で購入。その魅力をぜひ紹介したい。ちなみに今回購入・プレイしたのはSteamから配信しているPC版だ。

黒澤明監督作品に影響を受けたモノトーンのチャンバラアクション

『Trek to Yomi(黄泉への旅路)』は、時代劇の世界を表現したチャンバラアクションゲームだ。特徴は画像をご覧いただければお分かりの通り、黒澤明監督作品に影響を受けていること。

黒澤作品に影響を受けたチャンバラアクションといえば、PlayStation4やPlayStation5向けにリリースされている『Ghost of Tsushima(ゴースト オブ ツシマ)』が存在するが、和の雰囲気を現実的に再現しようとした『Ghost of Tsushima』に対し、本作は「チャンバラ映画」を再現したように思われる。そういう意味で目指した表現の方向性は違うのだろうが、いずれも表現度は高い。

どちらの作品も海外デベロッパーによる作品なのだから、取材や考証といった点で並々ならぬ努力が必要だったろう。クリエイターだからそれも仕事のうちといってしまえばそれまでかもしれないし、プレイヤー側が思いをはせるべきことではないのかもしれない。ただ筆者もインディゲームクリエイターなので、どうしてもこうした点を想像してしまい、その努力には頭の下がる思いだ。

ちなみに『Ghost of Tsushima』と本作では、表現の方向性だけでなくゲームシステムも大きく異なる。オープンワールドゲームだった『Ghost of Tsushima』に対し、本作はベルトスクロールアクションゲーム。基本的に進むべき方向は決まっており、ガンガン敵を倒してステージクリアを目指す……という内容だ。

敵との戦闘は、もちろんチャンバラ。通常攻撃、強攻撃、回避、振り返り、ガードというアクションと移動方向を組み合わせることで、刀を用いた様々な攻撃を繰り出せる。ボタンの組み合わせによって連続攻撃が成立するという点は、いかにもベルトスクロールアクションゲームらしい。

ただ、格闘が主体となる多くのベルトスクロールアクションゲームと異なり、本作のメインアクションはチャンバラ。一撃で命を奪うことも可能な「刀」による攻撃が主体なので、一般的なベルトスクロールアクションゲームよりも回避が重視されている。

敵の攻撃が当たる瞬間にガードできれば即座に反撃できるため、敵の攻撃タイミングを見計らうことが重要。敵の一挙手一投足に注目し「今か今か」とタイミングを見計らう感覚は、まさしくチャンバラだ。

とはいえ、『Ghost of Tsushima』や『SEKIRO: SHADOWS DIE TWICE(隻狼)』といった作品ほど、タイミングがシビアなわけではない。体力ゲージも十分な量があるため、ザコ敵や中ボス相手であれば回避を使わず力押しでもなんとかなるレベル。なので、格闘もののベルトスクロールアクションゲームの感覚でプレイしても通用するだろう。

本作のアクションは、「真剣勝負のスリル」を「それなりの難易度」でお手軽に味わえるという点でよくできていると感じた。

闇にきらめく白刃! 圧倒的な映像美

ここまでは本作のアクションについて紹介してきたが、本作ならではの魅力といえるのはアクションよりもビジュアルだろう。画面にバーンと大きく表示される文字やモノトーンの色彩など、黒澤作品へのオマージュと言えそうな点が目を引くが、ただその領域に留まっているクオリティではない。

本作は、カメラアングルひとつとっても周到に計算されている。ベルトスクロールアクションであるため、本作の戦闘シーンはサイドビューにならざるを得ないのだが、単純な構図にはなっていない。たとえば、村の民家に隠れ隙間から主人公の戦いを覗く……といったシチュエーションであったり、つり橋に対し大きな滝を配置し、縦と横のラインを上手に取り入れたり……と、いずれのシーンも構図的なカッコよさを工夫しているのだ。

このため、戦っているだけの映像が非常にカッコいい。回避などを華麗に決めて勝てるとますますカッコいい。例えるならチャンバラ映画の主人公になったような高揚感を味わえるのだ。

また、モノトーンの色彩も、単純に「色数を落としてモノトーンにしただけ」ではない。周到に計算されている。

時代劇でモノトーンを使う場合、「白」が表現するものの代表格は「刀」と「光」だ。これに対して、「黒」が担うのは「血」や「影」といったもの。これを踏まえた上で時代劇におけるかっこいいシーンを考えると、たとえば、「闇の中で白刃がきらめくシーン」や「障子の向こうで人間のシルエットが斬り合うシーン」なんてものが思い浮かぶ。

本作はこうした「時代劇でモノトーンを使うなら、こういうシーンがカッコいいよね!?」というツボを的確に突いてくる。先ほども書いたが、単にオマージュしているわけではなく、技法のツボをインプットし、的確にアウトプットしてくるのだ。だから、たまらなくカッコいい!

日本神話をベースに描かれる怪談・伝奇的テイストの物語

筆者が魅力として感じたのはビジュアルだけではない。ストーリーも強い魅力を放っている。

本作のストーリー冒頭は、村を襲撃した野武士たちに対し、主人公・大輝とその師である三十郎が立ち向かう……というもの。集落が襲撃されるという展開は『Ghost of Tsushima』と同様だが、元寇のあった鎌倉時代中期が舞台だった『Ghost of Tsushima』と違い、本作で描かれる集落の様子は江戸時代に近いものに見える。このため、チャンバラ映画感は本作の方が強い。

また個人的には、『七人の侍』を思わせる「野武士に襲撃される村」というシチュエーションや、『椿三十郎』を連想させる三十郎というネーミングなど、端々に込められたオマージュも魅力的だ。

ただこうしたストレートなチャンバラ表現は、第三章からやや神話的なものへ姿を変えていく。というのも、タイトルである『黄泉への旅路』が示す通り、本作のベースは死んだ妻・イザナミを追ってイザナギが黄泉の国を訪問するという日本神話。

主人公・大輝もまた、亡くした妻を追って死者の国でこの世ならぬ者と戦うことになるのだ。

つまりややファンタジーの要素が入ってくるわけだが、筆者的にはそこが気に入った。黒澤テイストとはややズレるとは思う。だが、『魔界転生』や『里見八犬伝』、『忠臣蔵外伝 四谷怪談』など、時代劇は伝奇ものや怪談との相性がいい。三章以降の雰囲気にはおどろおどろしいテイストがあり、これがホラー好きな筆者の嗜好に突き刺さった。

少年・少女時代の日常が蘇る? アラフィフが感じるもう一つの価値

本作はビジュアルとストーリー性、どちらかに興味が持てれば買って損のないタイトルだと思う。というのも、本作の価格は2000円強。映画館で新作映画1本を観るのと大きく変わらない価格でプレイできてしまう。筆者のように必ずパンフレットとグッズとジュースとポップコーンを買うユーザーからすると、むしろ映画より安いと感じられる。

ところで、筆者と同じアラフィフ世代は、本作からさらなる価値を感じるのではないだろうか。それは「懐かしさ」だ。

最近のテレビ番組からはまったく想像できないだろうが、筆者が子どものころは時代劇の再放送が一日の多くを占めていた。『水戸黄門』や『三匹が斬る』、『暴れん坊将軍』といったテレビ時代劇だ。

特に筆者の印象に残っているのは『大岡越前』。マンガやプラモデルのほか、アーケードゲームの筐体をいくつか備えた大きめの駄菓子屋が近所にあり、夕方になるとその駄菓子屋の店主が『大岡越前』の再放送を必ず観ていたから、オープニングテーマが脳裏に焼き付いているのだ。

レジ前に座って店の駄菓子をほおばりつつ、『大岡越前』を観ている駄菓子屋店主。その横で、購入した駄菓子を食べながら1回30円のアーケードゲームを遊ぶ子どもたち。

本作の持つ時代劇の雰囲気から、そんな記憶がよみがえってしまった。筆者と同世代であれば、同じように記憶の引き出しが開く人も多いのではないかと思う。

テレビ時代劇について触れたが、本作の雰囲気はこの記事で触れたとおり、あくまで「映画」的。本作は多くのテレビ時代劇のような、江戸で起きた小さな事件を解決する……というスケールの作品ではない。

なので、テレビ時代劇を期待してプレイすると違和感をおぼえるだろう。ただ、筆者のようにテレビ時代劇世代であれば、端々から懐かしさを感じるだろうという話なので誤解なく。

ちなみに筆者が本作から連想する時代劇作品は、『子連れ狼』。萬屋錦之介のテレビ版もさることながら、若山富三郎が演じていた劇場版の方を連想してしまった。

アラフィフに限らず、時代劇を鑑賞した経験を持っているプレイヤーであれば、こんな風に本作から様々な時代劇のテイストを見出すのも楽しさのひとつではないかと思う。

文/田中一広

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