VRと言えばまず頭にかぶるゴーグルが思い浮かびますね。視覚的な効果は非常に大事というのは言うまでもないですが、聴覚による効果は軽視されがちです。
今回のセッションで音声技術・製作の専門家によるVRに応用する音声・音楽の進化や特徴を語り合われました。
登壇者は業界著名の5名:(下記写真左より)
Thomas Bärtschi(Audiokinect社 プロダクト・エキスパート)
Alfredo Fernandez Franco(Ossic社 ソフトウェア・エンジニア・ディレクター)
Olivier JT(Synthesis Universe社 創立者)
Sally Kellaway(Zero Latency社 テクニカル・サウンド・デザイナー)
Olivier Derivière(フリーランサー 作曲家)
3D音声製作の業界専門家5名
Thomas(MC):Alfredo、どのようなヘッドフォン技術を開発されていますか?
Alfredo:我々の耳には音の立体的な情報を集める機能があります。しかし、耳にヘッドフォンを被れれば耳に音はそのまま入り、耳にある音の立体的な情報を集める能力が機能しにくくなります。我々の技術を簡単に言いますと、その音声の立体感が感じれるように常に校正することです。
校正を行うために多くのセンサーをヘッドフォンに搭載し、耳たぶの形、両耳間の距離、頭の回転などの情報を受け取りながら校正を行います。
Thomas(MC):Olivier D、ゲーム開発者から音声製作を依頼されたら、どのように取り組まれますか?
Olivier D:音声・音楽の機能性を大まかにいうと、感情体験の強化であると思います。ゲームにおいての音声・音楽はゲーム性をサポートする存在だと私は思います。それはそのゲームがプレイヤーにもたらしたい感情であったり、そのゲームの中にあるそれぞれのステージを目指すことであったりします。
近年、ソフトウェアの発展のおかげで音声製作者はよりゲームの核心部分に合致した音声や音楽を提供できるようになってきました。
パネルリストたちは熱い議論を繰り広げます
一つの例として、VRではなく一般なゲームでも音声の「臨場感」が大事です。それが音声技術の進歩により、2Dスクリーンでゲームを遊んでいても高い臨場感をもたらすことができ、敵がどこから来ているかを音声情報で判断することができるようになりました。
では、VRにおける音声や音楽はどうでしょう。
新しい音声ソフトウェアツールが開発される前だと、音声製作者は音声や音楽のリズム、音調、強度を調整することはできますが、リアルタイムに調整する(プレイヤーがVRの世界で移動すると瞬時瞬時音声を調整すること)ことはできませんでした。
しかし、現在のツールだと、その調整がリアルタイムにできます。つまり、ゲームの中でプレイヤーの移動や移動スピードによって周りに設置された音源からの音声や音楽のリズム、音調、強度が随時調整されるようになります。
この「随時調整される」ことによってプレイヤーは真実の世界にいるような音声や音楽が耳に入ります。
これで「臨場感」がより一層高まります。このような「臨場感」のもたらせる音声技術はVRにも応用できると思います。
Thomas(MC):Sally、音声はただの音ではなく、人々の心に反応を起こすためのものだと我々は理解しているが、あなたの心理専門家兼音声製作専門家の立場から見ると、クライアントとVR音声の製作にどうのように取り組まれますか?
Sally:VR音声の製作に取り組む時にまず知らなければいけないのは「プレイヤーはそのステージで何をやるか?」と「どんな音声・音楽であればプレイヤーはそのゲームやそのステージを最大限楽しめるか?」です。
例えば、ゾンビーゲームがあるとします。VRのゾンビゲームの中で音声は色んな方向から来ます。もし後ろにいるゾンビから音を聞こえずに噛まれて死んでしまうとプレイヤーにとってはいい体験にならないでしょう。
なので、音声は音だけではなく、情報であり、アイテムであり、ゲーム開発者にとって非常に強力なツールなのです。
しかし、それ以上に重要なのは私や我々がただこれらを理論として語るのではなく、我々も実際にゴーグルとヘッドフォンをかぶり、銃を持ってゲームをやることです。何回も違うやり方でやってみてその音声の違い、効果、影響を確認することです。複数のプレイヤーにプレイしてもらい、音声がどのような機能をしているかをよく観察することが大切です。
Thomas(MC):音声に関してゲーム開発チームとどのくらいコミュニケーションを取られますか?
Sally:我々は小さなチームでメンバー全員同じ場所で働いています。音声製作担当なので、ヘッドフォンをかぶって仕事するのはもちろん。しかし、ヘッドフォンを外すとチームメンバーがゲームデザインやゲーム構造の話をしているのが聞こえます。
その話を聞く度に自分は音声製作専門家の立場からどのようにそのゲーム性に貢献できるかを考えるチャンスがもらえます。私もよく彼らの会話に入り、一緒に議論します。このような環境で自分の音声製作が深くゲーム開発にかかわることができるのは非常にうれしいことです。
Synthesis Universe社のデモビデオ
Thomas(MC):Olivier JT、あなたは過去の4年間3D音声の製作に携わってきました。その経験を教えてくれませんか?
Olivier JT:この4年間で色んな技術が進歩しましたね。Unreal Engine、Oculusが出てきました。私も最近新しいツールに触ることができ、それで以前と全然違う音声効果を作ることができました。
その音声効果は単にプレイヤーの位置変化によるものではなく、それは音声の中である音が消えていき、ある音が出てくるように生み出された3D音声効果です。
私の会社は個人会社ですが、ミュージシャンと一緒に音声効果を開発しています。音楽の創作にはある程度センスが必要ですので、協力してもらった方がより高い成果が期待できるからです。
もちろん、期待した音声効果や音楽を手に入れるのは一回の製作だけではなく、何回も作り直して何回もテストする必要があります。そのため、ミュージシャンと緊密な連携が必要になってきます。
こんな音声効果や音楽の製作方法はゲーム製作と一緒に効率的に進められるかはまだ不明ですが、今後すり合わせていく必要がありますね。
Ossic社のヘッドフォン技術の説明ビデオ(英文のみ)
Alfredoさんにも質問したいのですが、御社が開発された3Dヘッドフォンの精度はどれほどですか?
Alfredo:それは音源に関係しますね。レベル(Order)6であればそれぞれ場所が異なるスピーカー200個から音を聞くようなレベルになります。
一般消費者はもちろんスピーカーを200個も持つ可能性がほとんどないので、我々の技術を持つヘッドフォンであればそのような3D立体音声を聞くことができます。
今年の8月に音声製作者のみに試作品を発送する予定で、今年の年末に公開発売する予定です。
Thomas(MC):ここまでのディスカッション内容が非常に面白いですね。このセッションはVR音声ですが、音声効果や音楽は特にVRのためだけではなく、色んな場面と様々なコンテンツでユーザーやプレヤーの体験や感覚を強化するためのものですね。
音声製作者の私がいうのもあれですが、恐らく多くのゲーム開発者は音声や音楽がプレヤーに与えられる体験強化のレベルを理解していないじゃないかと思います。
しかし、今は技術も開発手法も驚くほど進んでいますので、これからより強くゲーム開発者に音声音楽の重要性を理解してもらうように呼び掛けるべきです。
今回のセッションはわずか45分しかないので、あくまでも一つのきっかけにすぎません。できればもっともっと交流し、経験を共有してもっと素晴らしいものを作り出していければいいですね。
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VRには視覚だけでなく、聴覚に関する技術も考え方もすごく進化しています。
今後より一層飛躍したVR体験が期待できそうです。
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