現時点におけるXR技術の中でMRは、VR/ARに比べ、一般への浸透率はまだまだ低い。
しかし、MRは応用次第で、教育、医療、防災などといった社会生活の各局面を劇的に変化させるポテンシャルを持っている。
それはMR技術が「リアルとバーチャルを深く融合させる」ことを可能にするからだ。
そこで本記事では、MR用HMDの代表としてマイクロソフトの「HoloLens」を取り上げて、「融合」の具体的事例を分野ごとに概観していく。MR技術によってどのような社会的変化が起こり得るのか、その未来像を僅かでも掴んでいただけたら幸いだ。
「MR」の概要
MRとは?
まずは「そもそもMRって一体何なの?」という最も基本的な話から確認していこう。既に知っているという方はこの節は読み飛ばして先を読み進めてほしい。
MRは「複合現実(Mixed Reality)」。MRの特徴は、VRとAR両方の性質を合わせもっている点にある。
簡単に言えばMRを使えばVR空間で体験するようなコンテンツを、ARのように現実世界にオーバーラップさせて体験することが可能となる。ただし、単にオーバーラップさせるだけではない。ARと比較すると、MRは現実世界をデジタルコンテンツとより高度に相互作用させるのだ。
動画が伝えるMRの現在
言葉だけでは抽象的でわかりにくいので、動画を見てもらうのが一番だ。上記の動画は2016年3月にマイクロソフトが公開した動画だ。この動画では、実際のMRの活用事例が分かりやすく整理されている。
動画では、台所に置く冷蔵庫などを実際に配置した様子をMRでシミュレートできるショッピングサービスや、脳のホログラム映像が導入された大学の解剖学の講義、そして「つまむ」動作でバーチャルの建物を現実の模型図の上に配置したりする様子が描かれている。
このようにMRはVRやARよりも、ユーザーのいる現実世界から仮想世界に対して、より柔軟に影響力を行使しやすい。この意味で、MRはリアルとバーチャルをより深く融合させることが出来るのだ。
「教育」×HoloLens
先の動画で紹介されていた以外にも、既にHololensは様々な分野で活用されている。以下ではテーマごとに、HoloLensの活用事例を取り上げていこう。
まずは「教育」。
解剖学の講義で実践されていたが、生徒の理解を深めるために視覚的な方法を授業に取り入れることが重要なのは言うまでもない。その点でHoloLensを教育現場に導入することには十分な意義がある。
国内では通信制高校「N高」が入学式でHoloLensを使用したとして話題になった。ここで紹介しているのはいずれも海外の事例だが、いずれ日本でも同様の試みが広がっていくだろう。
Hololensで「天体」を学ぶ
ノルウェーの小学生は、太陽系の授業でHoloLensを使用した。
動画では授業内で生徒たちがHoloLensを使って惑星の位置を確認している様子が確認できる。
MRで再現された真っ赤に燃える太陽を中心に、公転している各惑星の周りを生徒が楽しそうに歩き回っている姿も印象的だ。
HoloLensを着用した生徒の視界は、他の生徒もプロジェクターで確認することが出来るようだ。
アメリカでの試験的運用
「Lifeliqe」はMRなどを活用したビジュアルラーニングを提供するプラットフォーム。
アメリカの6年生から12年生まで(12~18歳)の生徒を対象に、Hololensを使用した学校教育のプログラムを試験的に運用している。
動画の中では肺や気管などの呼吸器系や、赤血球などがMRで映し出され、生徒がHololensを着用して学んでいる様子が確認できる。
Lifeliqeは今後、アメリカでの参加校を増やしていく予定だという。
「医療」×HoloLens
続いては「医療」。その社会的な重要性ゆえに、今後ますますの発展が期待される分野だ。
MRを通じたオペのシミュレーション……といった活用法はすぐに思いつく。だがこの他にも「頭痛を視覚化する」などのユニークな取り組みが多数存在している。
HoloLensでエコー検査の練習
VimedixARは、HoloLensを活用したエコー検査の練習を可能にするシステムだ。
医療用マネキンに検査器具を当てることで、各臓器に応じたエコー画像がシミュレートされ生成される。この機能によって、学習者がどの部位にあてればどのようにエコー画像が生成されるのかを視覚的、直観的に理解することをサポートする。
ちなみにVimedixARでは、循環器系など特定の諸器官だけを取り上げて詳細に観察することも可能である。
医療従事者ならば広範な学習用途に応用することができそうだ。
MRで手術室の「レイアウト」を整える
医療機器メーカーStrykerの活用事例。
オペを始める前に、HoloLensを着用した医療関係者の間で手術イメージを共有することで、「手術室のどこにどの機器を配置するか」をスムーズに決定することが出来る。
視覚的なイメージを共有してレイアウトを決定するので、言葉のみで相談し合うよりも、ディスコミュニケーションが発生する可能性を低く抑えることが出来るという。
「建築」×HoloLens
最後に「建築」。
2Dの設計図面をベースに、建築物の完成予想図をホログラムとして投影するシステムがあれば、設計者にとっても、また顧客にとっても非常に便利なものとなる。
建つ前から新居内部を確認!
不動産業者を仲介した内覧サービス自体は以前から存在している。ただし設計図の段階から新居を「内覧」することが出来るサービスは今のところ珍しい。
VeriConが開発したHoloLensアプリを使えば、設計図段階の住居をMRオブジェクトとしてシミュレートすることが出来る。
動画にあるようにただ空き地を歩くだけで、家の内側も外側も体験することができる。さらには建屋だけではなく、ベットやキッチンカウンターなどといった家具もMRオブジェクトとして配置されているようだ。
建築現場を強力にサポート
VeriConのアプリが消費者のためのものだったのに対して、GyroEye Holoは建築現場の作業を支援するツールだ。
建築作業場で、2次元図面のデータをMRとしてシミュレートすることで、実際の作業状況を図面に基づいて検証することが可能となる。
GyroEye Holoを採用すれば「墨出し」といった作業工程を省略することが可能となる。
また建築事務所と現場の間で、クラウドを通じたデータ共有が可能となっているので、連絡ミスなどから発生する作業の遅延を防ぐ効果も期待できる。
[参考記事]
・Hololensxサングラスで屋外利用も可能に!MR支援ツール「GyroEye Holo」が東大にて実証実験を実施
新しい「情報との相互作用」のカタチ
冒頭で述べたが、MRはリアルとバーチャルを深く融合させる技術だ。MRは可視化された情報、バーチャルなオブジェクトに対して、人間が能動的に働きかけることを可能とする。
しかし単にオブジェクトを操作することができるだけではない。ここまで見てきた多くの事例がそうであったように、HoloLensを使用するシステムやアプリは仲間と情報を共有することが可能だ。このためHoloLensの活用は、新しいコミュニケーションのあり方を生み出すことにも繋がるかもしれない。
しかし問題は、MRが今後ARやVRと同じくらいの規模を持つ市場を形成できるのかという点にある。HoloLensはそもそも一般消費者向けに提供されているわけではないのだが、現状ではあまりに高価と言えるだろう。
DIYタイプのMRヘッドセットも登場しているが、こうした価格設定を含めて今後の展開に注目だ。
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