2017年11月22日、ユニティ・テクノロジーズ・ジャパンによるセミナー「Unity道場 課金ノウハウとアプリ市場を基礎から学び直すセミナー」が開催された。
テーマはスマートフォンゲームにおける課金システムについて。3名の登壇者を招き、ユーザーの課金を促すために押さえておきたいポイントや、海外と日本の課金システムの違いなど、マネタイズのノウハウについて語られた。
なぜ国内型のスマホゲームのARPUは高く、そして海外で通用しないのか?
岩崎 啓眞 氏(I Got Games Inc. Lead Game Designer)
80年代後半からゲームデザイナーに従事し、現在は国内外のスマートフォンゲームに携わっている岩崎氏は、日本と海外の課金システムの違いについて解説。
昨今の日本のスマホゲームには莫大な製作費がかかっていることを前置きし、ソーシャルゲームの歴史を踏まえながら丁寧に語った。
日本のゲームが猛烈に売り上げた理由も、海外進出失敗の理由も「ガチャ」にあり
誰もが想像する通り、日本のスマホゲームが驚異的な売り上げを叩き出したのは「ガチャサイクル」にあるという。
このガチャサイクルが出来上がったのは2011年頃。
当時、海外のゲームの主力ジャンルはCity Builder(街づくり)系で課金率は3~4%、ARPPUでは月間2ドル程度。日本のガチャシステムのゲームがARPPU何千円と売り上げていることを考えると、その差がよくわかる。
では、このガチャシステムを海外へ持ち込めば成功するのかというと、そう上手くはいかなかった。失敗の理由は、ガチャサイクルの必要要件にある。
まず第1に大量のデータがサーバーから都度ダウンロードされること。海外では通信環境が日本より悪いところが多く、回すたびに通信するガチャは相性が悪かった。
もう1つは大量のデータがハードウェア上に置かれること。ガチャは回すたびにアイテムやキャラ、すなわちデータが増えて容量を圧迫する。
所持している機種のバラつきが多く、数年前の古い機種が大きな割合を占めている海外では、ガチャをまともに遊ぶことができなかった。
海外はコストを抑えた「海外型ガチャ許容ゲームサイクル」を確立
日本のゲームにおけるガチャの売り上げ構成比は、現在70~80%が普通という状態になっている。
ガラケー時代のソーシャルゲームは数回ポチポチとボタンを押せば1サイクルが完了。BP(レイドバトルに必要なポイント)回復やアイテム消費で、1分の間で数百円~数千円を消費しうるシステムだった。
しかしスマホゲームではシステムがリッチになったためにサイクルが大幅に延長。時間当たりのスタミナやBPの回復に対する課金が減少し、ガチャの売り上げ構成比は上昇。
そのためイベントの運営に対するコストも上がり、売り上げが1億円ぐらいにならないと勝負できない状態になっているという。
その点、海外のゲームは運営チームが小さく、10名以下で回しているところが多い。
では、海外のゲームの売り上げが日本より少ないかというとそうでもない。アプリストアの売り上げランキングには、『アズールレーン』『サマナーズウォー』『ガーデンスケイプ』など、海外タイトルが多数ランクイン。低コストで高い収益化ができるようになっている。
海外のゲームは、ガチャの要素をうまく取り入れ、独自の「海外型ガチャ許容ゲームサイクル」を構築した。
まず通常のゲームサイクルの中で、ガチャで入手できるキャラクターをドロップするようにした。相対的にガチャの価値は下がり、通常のゲームを回すようになるためスタミナ課金が機能する。
また、コンティニューするたびに値段が上がっていく「サンクコスト課金(岩崎氏の造語)」も特徴的。
このように日本のガチャ要素も取り入れつつ、スタミナ・時短・コンティニューなど、複数に課金要素を分散させ、海外のゲームは収益を確保することに成功したと。
印象的だったのがこの売り上げグラフ。
上段、マッチ3パズルの『ホームスケイプ』。中段、中国発の『アズールレーン』。下段、日本のあるゲーム。
日本のゲームはガチャに依存しているため、イベント・ガチャ更新に左右されて山がいくつもできている。しかし、アズールレーンはパズルゲームのように動きがなだらか。コストを抑え、バランスよく運営ができていることがわかる。
スマートフォンゲームでお金を稼ぐときにやっておくべきいくつかのこと
鎌田 泰行 氏( ユニティ・テクノロジーズ・ジャパン合同会社 )
鎌田氏はスマートフォンゲームの課金を促すために押さえておきたい基本と、それを実現するためにUnityを使ってできることについて語った。
「Remote Settings」でセグメント毎に適した施策を実施
課金アイテム・価格・プロモーション・広告、4つの項目に関して、課金システムを考える上での基本がまず最初に解説された。共通して言えるのは、ユーザーの属性を見極めて、それぞれに適切な展開していくことが大切だということ。
これらを踏まえ、鎌田氏はUnity Analyticsの機能「Remote Settings」を紹介。これはゲーム内で使うパラメータをクラウド上に保存。Unity Analyticsでセグメント化されたユーザーそれぞれに、そのパラメータを設定できるというもの。
例えば、30日以上ゲームを続けている人にレビューをお願いする、一定額以上課金したユーザーには広告を出さない、などの個別設定を可能にする。
「IAP Promo」で課金アイテムのPRを簡単に
ゲームで成功を収めるためには、課金アイテムを複数用意する、定期的なアップデートと販促が必要と冒頭で説明された。しかし、アイテムを宣伝する仕組みをアプリに組み込むのは少々面倒。
そこで鎌田氏が紹介したのが、2018年に公開予定の「IAP Promo」。Catalogデータと宣伝用の画像データがあれば、Unity Adsの仕組みを使って簡単に課金アイテムの宣伝ができる。期間の指定や、国の指定、出現頻度なども細かく設定可能とのこと。
セミナーで公開された鎌田氏のスライドはこちらで閲覧可能。
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成功タイトルから見た休眠復帰の施策事例と、効果の徹底分析
岡田 雄伸 氏( フラー株式会社 )
岡田氏はフラーが提供するスマートフォンアプリ市場データ分析サービス「App Ape」が出した分析結果を紹介。興味深いデータを元に、運営は何をすべきかが語られた。
人気タイトルの7割が昨年以前リリースのタイトル
冒頭では2017年1月から10月までのMAUランキング・売上ランキングを提示。
ここから見てとれるのは、ユーザー数が多いタイトルも売上が多いタイトルも、顔ぶれはほぼ同じであるということ。
また、『リネージュ2 レボリューション』『マギアレコード 魔法少女まどかマギカ外伝』など2017年リリースの大型タイトルはいくつか入っているが、2017年10月時点では7割は昨年以前のタイトルである。
休眠復帰は「周年イベント」が重要なカギ
長期リリースしているタイトルはユーザーの休眠が問題となる。「App Ape」がはじき出した、各タイトルの休眠ユーザー数を会場で公開をした。
各社とも休眠ユーザーが一定数存在し、それは大きなポテンシャルだと岡田氏は説明。
今回は2017年に休眠率の減り方が著しかった『モンスターストライク』『白猫プロジェクト』の調査データを元に、各社の休眠施策を分析した。
『モンスターストライク』は7月、10月の休眠復帰が好調だったことが「App Ape」のデータから判明。7月は「鋼の錬金術師コラボ」、10月は「モンスト4周年イベント」が開催されていた。
一方『白猫プロジェクト』は7月の休眠復帰が好調。こちらも7月に「3周年大感謝祭」が開催されていた。
つまり「周年イベント」は大きな休眠復帰が起こるタイミング。各社のイベントを調査しインスパイアして、効率的な施策に取り組むことが大切だと締めくくられた。