薄毛は多くの男性が抱える悩みです。
抜け毛が気になり始めたら、市販の育毛剤を試してみる人も多いでしょう。
しかし、残念ながら誰もがすぐに効果を実感できるわけではありません。
そんな中、大正製薬株式会社ち近畿大学の研究チームが、従来のミノキシジルよりも迅速な発毛効果が期待できる「ナノ化ミノキシジル」を開発しました。
研究の詳細は、2025年6月2日付で、近畿大学のプレスリリースにて発表されました。
また研究の一部は、2024年12月14日付の『Biological and Pharmaceutical Bulletin』誌に掲載されています。
目次
- 薄毛に効く「ミノキシジル」をナノ化
- ナノ化ミノキシジルは浸透しやすく、マウスの発毛を迅速に促すと判明
薄毛に効く「ミノキシジル」をナノ化

ミノキシジルは、市販の育毛剤にも使われている有効成分で、もともとは血管を拡張して血流を促進する作用を持つ薬剤として開発されました。
毛包(毛を産生する器官。毛根を包む組織)への血流を増加させることで、毛髪を作り出す毛乳頭細胞を活性化し、髪の成長を促進するとされています。
特に男性型脱毛症(AGA)に対しては、高い治療効果を持つことが広く知られています。
しかし、通常のミノキシジル製剤では粒子のサイズが比較的大きいため、薬剤が毛包の深部まで十分に届きにくいという課題がありました。
この課題を解決するために考えられたのが「ナノ化」です。
ナノ化とは、薬剤の粒子サイズをナノメートル単位にまで小さくする技術であり、これによって、粒子が皮膚や毛包の深層部へ効率よく浸透できるようになります。

これまで研究チームは、ミノキシジルを約110ナノメートルという極めて小さい粒子に加工することに成功しています。
さらに新たな工夫として「アラビアガム」という天然由来の物質を加えた製剤を開発しました。
アラビアガムは樹木から採取できる多糖類の一種で、食品や医薬品添加物にも使われる乳化作用のある成分です。
これを配合することで、ナノ粒子の安定性を高め、製剤の粘性を約30分の1まで低下させることに成功。外用剤としての使用感を改良できる可能性を見出しました。
では、この新しいナノ化ミノキシジルは、どのような効果を発揮したのでしょうか。
ナノ化ミノキシジルは浸透しやすく、マウスの発毛を迅速に促すと判明
研究チームは、この新しいナノ化ミノキシジルの効果を確かめるために、マウスを使った実験を行いました。
実験では、マウスの背中に従来のローション剤や、ナノ化ミノキシジルをそれぞれ塗布しました。
その後、ミノキシジルがどのくらい毛包に浸透しているか、また発毛がどの程度促進されるかを観察しました。

その結果、ナノ化ミノキシジルを使用したマウスでは、従来のローション剤と比較して、毛包上部や毛包下部でミノキシジル濃度が増加しており、ナノ化によって薬物送達性が向上することが確認されました。
またナノ化ミノキシジルは、より早期かつ顕著な発毛促進効果をもたらすことも確認できました。
ナノ化ミノキシジルを使用したマウスは、従来の製剤よりも早く、8日目に発毛が確認され、その後も毛髪の成長が明確に促進されました。

塗布開始12日目の写真を見ても、その違いは明らかです。
今後は、このナノ化製剤がヒトにも同様に安全かつ効果的であるかを確認する臨床試験の実施が期待されます。
この画期的な技術が実用化されるなら、多くの人が悩む薄毛問題に、より迅速で確実な解決策を提供できる可能性があります。
参考文献
ナノ化ミノキシジルによる早い発毛効果とそのメカニズムを解明
https://newscast.jp/news/0557396
元論文
Gum Arabic Enhances Hair Follicle-Targeting Drug Delivery of Minoxidil Nanocrystal Dispersions
https://doi.org/10.1248/bpb.b24-00697
ライター
矢黒尚人: ロボットやドローンといった未来技術に強い関心あり。材料工学の観点から新しい可能性を探ることが好きです。趣味は筋トレで、日々のトレーニングを通じて心身のバランスを整えています。
編集者
ナゾロジー 編集部