歴史に名を残す王の中でも最も有名な人物の一人、アレクサンダー大王。
その父であるピリッポス2世が埋葬されていると長年考えられていた墓が今回、ギリシャ国立科学研究センター・デモクリトス(NCSR Demokritos)のチームによって新たに調査されました。
その結果、実際に埋葬されていたのはピリッポス2世ではなく、まったく別の男性だったのです。
墓に埋葬されていたのは一体誰だったのでしょうか?
研究の詳細は2025年4月24日付で学術誌『Journal of Archaeological Science』に掲載されています。
目次
- 埋葬されていたのは別人だった
- 埋葬されていた「男女の正体」とは?
埋葬されていたのは別人だった
1977年、ギリシャ北部ヴェルギナの「大墳丘(Great Tumulus)」で、古代マケドニア王家の墓とされる4つの地下墓(Tomb I~IV)が発見されました。
マケドニア王国とは、紀元前7世紀に古代ギリシア人によって建国された歴史上の国家であり、アレクサンダー大王(アレクサンドロス3世、紀元前356〜紀元前323年)が統治したことでも有名です。

発見された発見された地下墓の中でもTomb Iは、内部の壁画「ペルセポネの略奪」で有名になり、「アレクサンダー大王の父ピリッポス2世が埋葬されている」と長年考えられてきました。
しかし今回の研究で、その仮説が覆されています。

研究チームはTomb Iから発見された人骨・歯・動物骨を対象に、放射性炭素年代測定や古代DNA解析、ストロンチウム・安定同位体分析など、最新の科学的手法を駆使しました。
その結果、Tomb Iに埋葬されていたのは推定25~35歳の男性で、死亡時期は紀元前388~356年と判明したのです。
ピリッポス2世は紀元前336年に46歳で暗殺されているため、Tomb Iの男性とは一致しません。
加えて、この男性と同年代の紀元前388年から紀元前356年の間に生きていたと見られる女性の遺骨も一緒に埋葬されていたことが判明しています。
一体彼らは何者なのでしょうか?
埋葬されていた「男女の正体」とは?
チームの発見は多くの疑問を残しています。なかでも研究者たちは「この墓に埋葬されていた男性と女性は誰なのか?」という疑問を抱きました。
そのため、チームは骨と歯の遺物に対してストロンチウムと安定炭素の同位体分析を実施しました。
この分析により、その人物が子どもの頃にどの地域で暮らし、どのような食生活を送っていたのかがわかります。
同位体分析の結果、この男性はマケドニア王国の首都ペラ(ヴェルギナの北東約32キロメートル)の外で幼少期を過ごしていた可能性が高いことが示されました。
一方、解剖学的分析によると18歳から25歳で亡くなったと推定される女性は、ペラまたはその周辺で子ども時代を過ごしていたと考えられます。
2人の具体的な身元はわかっていませんが、この墓の豪華さから上流階級の人物だったと考えられます。
「我々はこの男性がフィリッポス2世の暗殺より数十年前に統治し死亡したマケドニア王であった可能性があると推測しています」と研究主任の一人であるヤニス・マニアティス氏は述べました。
どの王だったのかは特定できていませんが、候補としてアレクサンドロス2世(紀元前370~368年頃在位)やペルディッカス3世(紀元前365~359年在位)が挙げられるとチームは報告しています。
彼らは2人とも、ピリッポス2世の兄として知られます。
どちらの王もマケドニア王国内部の戦争や内紛に苦しんだ波乱の治世でした。

マニアティス氏によれば、チームは現在、ピリッポス2世の本当の墓がどこにあるのか確信を持っていません。
多くの学者は、ヴェルギナのトゥーム2(Tomb II)がピリッポス2世の火葬遺骨を収めていると考えていますが、まだ確かな証拠は得られていません。
これに加えて、アレクサンダー大王の墓の場所もまだ特定されていない状況です。
さて、歴史上有名な王族たちの遺骨はどこに眠っているのでしょうか?
今後の調査に注目が集まります。
参考文献
Famous tomb said to hold Alexander the Great’s father actually contains younger man, a woman and 6 babies, study finds
https://www.livescience.com/archaeology/famous-tomb-said-to-hold-alexander-the-greats-father-actually-contains-younger-man-a-woman-and-6-babies-study-finds
元論文
New scientific evidence for the history and occupants of Tomb I (“Tomb of Persephone”) in the Great Tumulus at Vergina
https://doi.org/10.1016/j.jas.2025.106234
ライター
千野 真吾: 生物学に興味のあるWebライター。普段は読書をするのが趣味で、休みの日には野鳥や動物の写真を撮っています。
編集者
ナゾロジー 編集部