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排便で頭が良くなる:トライアスロン選手に驚くべき認知機能アップを確認


台湾の台北市立大学による研究で、エリートトライアスリートを対象に、排便が認知力に与える影響を調査しました。実験の結果、排便後にはパフォーマンスが向上し、特に酸化マグネシウムを用いて便通を促した場合、その効果が顕著に表れました。この実験から、腸が認知機能に与える影響が強く示唆され、排便によって注意力や反応速度が高まる可能性が示されています。この発見は、スポーツや日常生活でのパフォーマンス向上に繋がる新たな視点を提供します。本研究は腸と脳の密接な関係を明らかにし、今後の研究や健康へのアプローチに影響を与える可能性があります。

便秘が続くと集中力が落ちたり気持ちが沈んだりする──そんな経験を抱えている人は少なくないかもしれません。

近年、脳だけでなく腸の神経系が高度な情報処理に関わっている可能性が指摘され、“腸は第2の脳”とも呼ばれています。

こうした背景を踏まえ、台湾の台北市立大学(UT)で行われた研究によって、エリートトライアスリートを対象に「排便の有無や方法が認知力にどう影響するのか」を調べた実験が行われました。

結果、排便後にパフォーマンスが有意に向上し、特に酸化マグネシウムを摂取して便通を促したときに顕著な効果が確認されたのです。

いったい、お腹と頭はどれほど密接につながっているのでしょうか?

研究内容の詳細は『Sports Medicine and Health Science』にて発表されました。

目次

  • 古今東西が認める下腹部パワー:丹田、ハラ、そして“第2の脳”
  • 排便が変える脳のキレ──あなたの集中力、腸が握ってる?
  • 排便を整えれば人生が変わる? 腸内環境と脳の未来像

古今東西が認める下腹部パワー:丹田、ハラ、そして“第2の脳”

古今東西が認める下腹部パワー:丹田、ハラ、そして“第2の脳”
古今東西が認める下腹部パワー:丹田、ハラ、そして“第2の脳” / Credit:Canva

便秘が続くと頭が働きにくい気がする──そんな感覚に思い当たる人は少なくないでしょう。

実は、古くから「腹の底から湧き上がる直感」や「腸は第2の脳」といった言い回しが各地に伝わり、東洋医学には「丹田」、日本文化には「ハラ」、インド哲学には「仙骨チャクラ」など、下腹部に特別な意義を与える概念が数多く存在します。

さらに近年の神経科学では、脳に負けず劣らず大量の神経細胞が“腸”に存在していることや、便秘と認知症・うつ状態の関連が示唆される研究も増えてきました。

こうした背景が、「腸と脳」の連動は予想以上に強いのではないかという新たな視点をもたらしています。

実際、脳だけでなく下腹部にも高いブドウ糖消費を示す領域が見つかっており、ある研究では、全身を撮影するPETスキャン画像において、脳と同じくらい“輝く”エリアが肛門付近の下腹部に観察されました。

この部分は伝統的にも要所と見なされてきた場所と重なるため、まるで古来の知恵が現代科学に再び光を当てられたかのようです。

アスリートのなかには「レース直前に排便すると集中力や動きが向上する」と実体験を語るケースがあり、実際に別の研究では、排便後のサイクリングパフォーマンスが高まったというデータも報告されています。

こうした事例や仮説を踏まえると、「便秘を解消したら本当に頭が冴えるのか?」という疑問は、単なる民間的な言い伝えや偶然の体感にとどまらない可能性が出てきます。

加えて、脳が生物進化の過程で比較的あとから発達してきた一方、腸の神経系はより原初的な学習・判断機能を宿していたとする見解もあり、脳と腸の役割をめぐる解明は今まさに新しい局面を迎えつつあります。

たとえば脳を持たない粘菌やクラゲといった生物でも学習や意思決定のような振る舞いを示す例があり、「そもそも“頭”はどこにあるのか?」という問いが再びクローズアップされ始めました。

一方、トライアスロンのように競技中に高速で判断や意思決定を迫られるスポーツの現場では、身体的なスタミナだけではなく認知的な迅速さが鍵になります。

同様にトライアスリートが「排便したあとの方がレースや練習でのパフォーマンスがいい」と語るエピソードがあり、便秘が続くと集中力や動作のキレが落ちたと感じる選手もいるというのです。

もしこの体験談が科学的に裏づけられるのなら、アスリートに限らず私たち一般人の生活や仕事の効率、さらには健康寿命においても大きな意味を持つはずです。

そこで今回研究者たちは、エリートトライアスリートを対象に「排便の有無と認知力の関係」を徹底的に調べ、特にマグネシウムを利用して排便を促したケースに着目することで、この“下腹部と頭脳”のつながりをよりはっきり示そうと試みることにしました。

排便が変える脳のキレ──あなたの集中力、腸が握ってる?

排便が変える脳のキレ──あなたの集中力、腸が握ってる?
排便が変える脳のキレ──あなたの集中力、腸が握ってる? / Credit:Canva

疑問に迫るため、研究チームは大学生年代のエリートトライアスリート13名を被験者に選びました。

過酷なトライアスロンでは身体の持久力だけでなく、予想外の事態に瞬時に対処する判断力が求められるからです。

実験は、以下の3つの状態を用意して、それぞれの直後に認知テストを行うという方法で進められました。

1つめは排便しない状態、2つ目は自主的に排便した状態、3つ目は酸化マグネシウムを摂取して排便を促した状態です。

またテストには“ストループテスト”が用いられました。

これは、文字と印刷された色が一致しない場合でも正しい色を即座に言い当てる認知課題で、注意力と判断力が試されます。

通常、脳の前頭部にセンサーを装着して血流や酸素消費を測ることは一般的ですが、本研究のユニークな点は、下腹部(臍下付近)にも近赤外線分光法(NIRS)を取り付け、脳以外の部位が認知テスト中にどのように活動しているかをリアルタイムで追跡したことです。

先に行ったPETスキャンで、直腸近くの下腹部が脳と同程度にブドウ糖を消費している可能性が示唆されたため、このような大胆な計測が試みられました。

結果は非常に明確でした。

排便しない状態でのストループテスト平均完了時間は約27.1±1.1秒でしたが、自主的に排便した状態では約24.4±0.9秒、酸化マグネシウムで排便を促した状態ではさらに短縮して約23.4±0.8秒。

いずれも有意に差があると報告され、「排便することで認知作業が速くなる」ことが統計的にも裏付けられたのです。

特に酸化マグネシウムを用いた場合は、ほぼ全員が成績向上を示し、「排便の質」を高めることがパフォーマンスをさらに押し上げる可能性が示唆されました。

また、NIRSで計測したところ、テスト中の酸素飽和度は脳より下腹部の方で顕著に低下(=それだけ酸素を消費)しており、下腹部の神経系が“積極的に考えている”かのような興味深いデータが得られました。

一般的にスポーツパフォーマンス向上の議論は筋力や心肺機能にフォーカスされがちです。

しかし、実際には「決定的な瞬間に素早く正しい判断を下す」ことも勝敗を左右します。

そうした認知機能が、“排便”や“腸内活動”と密接につながっているらしいという発見は、非常に衝撃的といえます。

加えて、酸化マグネシウムで便通を促す方法が有意な効果を示した点も注目です。

医療現場では便秘薬として広く使われますが、うつ症状や認知機能へのポジティブな影響を示唆する研究とも合わせると、腸と脳を結ぶ未知のメカニズムが動いているのかもしれません。

さらに、本研究ではPETスキャンとNIRSという2種類の画像計測技術を組み合わせ、「脳以外の部位が思考作業中に活発になる」現象をリアルタイムで示しました。

このアプローチは、脳科学・腸内研究・スポーツ医学の交差点で新たな視点を切り開くものであり、今後ますます注目されるでしょう。

排便を整えれば人生が変わる? 腸内環境と脳の未来像

排便を整えれば人生が変わる? 腸内環境と脳の未来像
排便を整えれば人生が変わる? 腸内環境と脳の未来像 / Credit:Canva

今回の成果は、「お腹の神経系」が思考や判断と深く関わる可能性を強く示唆します。

排便によって注意力や反応スピードが高まるならば、腸内環境の改善はスポーツの世界だけでなく、仕事や勉強、創造的な場面でも応用できるかもしれません。

ただし、酸化マグネシウムの過剰摂取は下痢を招く恐れもあるため、医師や薬剤師への相談や適切な使用が望まれます。

また、今回の実験はエリートトライアスリートという限られた集団を対象としており、サンプル数も多くはありません。

今後は一般の人や高齢者、健康状態がさまざまな集団を含めた大規模な研究で、より客観的なデータを積み重ねる必要があります。

腸内細菌叢(マイクロバイオーム)との関連や食事タイミング、水分補給との組み合わせを検討することで、腸と脳の連携のメカニズムがさらに明らかになることが期待されます。

「頭が冴えないときはお腹をチェックしてみる」──近い将来、こうした考え方が当たり前になるかもしれません。

腸と脳は想像以上に密接につながっており、排便をきっかけに脳のパフォーマンスが変わるという発想は、私たちの健康観や生き方を大きく変えていく可能性を秘めています。

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参考文献

Defecation and cognitive function: A surprising link discovered in elite triathletes
https://www.psypost.org/defecation-and-cognitive-function-a-surprising-link-discovered-in-elite-triathletes/

元論文

Defecation after magnesium supplementation enhances cognitive performance in triathletes
https://doi.org/10.1016/j.smhs.2024.04.001

ライター

川勝康弘: ナゾロジー副編集長。 大学で研究生活を送ること10年と少し。 小説家としての活動履歴あり。 専門は生物学ですが、量子力学・社会学・医学・薬学なども担当します。 日々の記事作成は可能な限り、一次資料たる論文を元にするよう心がけています。 夢は最新科学をまとめて小学生用に本にすること。

編集者

ナゾロジー 編集部

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