運動能力の高いエリートアスリートの体の中には、代謝の健康を助ける“ある秘密”が潜んでいるかもしれません。
仏レンヌ第2大学(University of Rennes 2)の研究チームは最近、エリートアスリートから採取した腸内細菌をマウスに移植する実験を実施。
その結果、マウスはインスリン感受性が高まり、筋肉内のグリコーゲン量も増えることが判明しました。
これは健康にどのようなメリットをもたらすのでしょうか?
研究の詳細は2025年3月27日付で科学雑誌『Cell Reports』に掲載されています。
目次
- アスリートの腸内細菌をマウスに移植したら?
- アスリートの腸内細菌でマウスの健康レベルがUP!
アスリートの腸内細菌をマウスに移植したら?

体内で共生する「腸内細菌」は、私たちの健康と密接に関係しています。
これまでの研究で、腸内細菌は食べ物の消化だけでなく、体のエネルギー代謝にも深く関係していることがわかっています。
さらに高い運動レベルを誇るアスリートほど、体にいい腸内細菌が多く、健康的な代謝を支えている可能性があるとも示唆されてきました。
しかし「腸内細菌が健康を支えている」とは言っても、それがどのくらいの効果を持ち、どのように働いているのかはまだはっきりしていません。
それから例えば、アスリートの腸内細菌を他の人の腸内に移すだけで、アスリートのような健康体に近づくことは可能なのか。そうした点もほとんど調べられていません。
そこで研究者たちは今回、この疑問に答えるために、あるユニークな実験を行いました。
なんとアスリートの便から採取した腸内細菌をマウスに移植し、その効果を直接確かめたのです。
アスリートの腸内細菌でマウスの健康レベルがUP!
研究チームは、運動習慣のない人からエリートサイクリスト、サッカー選手まで、幅広い運動能力を持つ50人の男性の腸内細菌を調査しました。
すべての参加者は標準体重で、食事内容もなるべく統一されています。
この中から選ばれた高い運動能力を持つアスリートたちの腸内細菌を、抗生物質で腸内細菌を除去したマウスに移植し、マウスの代謝の変化を観察しました。
その結果、エリートアスリート由来の腸内細菌を移植されたマウスでは、インスリン感受性が向上し、筋肉内のグリコーゲン蓄積量も増えていたのです。
これは一体何を意味するのか?
まず、インスリン感受性とは、体がインスリンというホルモンにどれだけ反応しやすいか、という指標です。
インスリンは、血液中のブドウ糖(グルコース)を細胞に取り込ませる働きを持っています。
つまり、インスリン感受性が高い=少量のインスリンでしっかり血糖値を下げられる体ということになります。
逆にインスリン感受性が低いと、インスリンが効きにくくなり、高血糖が慢性化し、糖尿病リスクが高まるのです。
またインスリン感受性が高ければ、余分な糖が脂肪に変換されにくくなり、肥満の予防にもつながります。
加えて、動脈硬化や高血圧など心血管疾患の予防にもなり、効率的にエネルギーを使える体になるため、日常の活力や運動パフォーマンスも向上します。

それからグリコーゲンは、ブドウ糖を一時的に貯蔵しておく“エネルギーの倉庫”のようなものです。
特に筋肉に多く蓄えられています。
筋肉内のグリコーゲン貯蔵量が多いと、運動時にすぐに使えるエネルギー源が豊富で、疲れにくくなります。
また運動後にグリコーゲンを素早く補充できる体は、筋肉の回復や再生もスムーズです。
そして筋肉は代謝が活発な器官なので、グリコーゲンが多く蓄えられる=筋肉が元気で代謝が高い状態を意味します。
このように、インスリン感受性の高さは血糖コントロールと代謝の効率の良さにつながり、筋肉グリコーゲンの豊富さは体力とエネルギー維持の土台になります。
つまり、アスリートの腸内細菌を移植するだけで、代謝レベルがUPし、健康な体になる可能性があるのです。
その一方で、アスリートの腸内細菌を移植したマウスに、持久力の向上は見られませんでした。
さすがに運動能力そのものは、アスリートの腸内細菌を移すだけでは得られないようです。
今回の結果は、腸内細菌の役割を見直すと同時に、健康や運動能力のサポートにおける新たな可能性を示しています。
今後は、アスリートの腸内細菌の移植がヒトにも同様の健康効果をもたらすかどうかを確かめる予定です。
参考文献
Fecal transplants from elite athletes improve metabolic health in mice
https://medicalxpress.com/news/2025-03-fecal-transplants-elite-athletes-metabolic.html
元論文
Atypical gut microbial ecosystem from athletes with very high exercise capacity improves insulin sensitivity and muscle glycogen store in mice
https://doi.org/10.1016/j.celrep.2025.115448
ライター
千野 真吾: 生物学出身のWebライター。普段は読書をするのが趣味で、休みの日には野鳥や動物の写真を撮っています。
編集者
ナゾロジー 編集部