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【スタンディングデスクもダメ】立ったままのデスクワークも健康に害があると判明


シドニー大学の最新研究によると、長時間の立位作業は健康に悪影響を及ぼす可能性があります。特にスタンディングデスクの使用により、心血管疾患を予防する効果は限定的でむしろ下肢静脈瘤や深部静脈血栓のリスクが増大することが示唆されました。研究では、英国長期大規模追跡調査「UKバイオバンク」から収集したデータを分析し、長時間の座位および立位が健康に及ぼす影響を調査しました。従来の座りっぱなしの生活が健康に害を及ぼすという知見に加え、立ちっぱなしも同様の健康リスクを伴う可能性が明らかに。最適なアプローチとしては、1日の中で定期的に動くことが推奨されています。中程度の運動を1日に30〜40分行うことで、健康リスクを低減することができるとしています。

現代人はネットの発達やデスクワークの浸透により「座りっぱなし」の生活を余儀なくされています。

長時間座り続けることが体に様々な害悪を及ぼすのは十分に知られていることです。

そこで昨今は座りっぱなしの弊害を避けるために、立ったまま仕事を続けられるスタンディングデスクが広まっています。

ところが豪シドニー大学(University of Sydney)の最新研究で、立ちっぱなしも健康に良くないことが示されたのです。

研究によると、立ちっぱなしは心不全や脳卒中などの心血管疾患の予防には寄与せず、逆に下肢静脈瘤(かしじょうみゃくりゅう)や深部静脈血栓などのリスクを高めることが示唆されました。

研究の詳細は2024年10月16日付で医学雑誌『International Journal of Epidemiology』に掲載されています。

目次

  • 立ちっぱなしも体に悪いのか?
  • 立ちっぱなしが長いほど、循環器疾患リスクが高まる!
  • では一体どうしろと言うのか?

立ちっぱなしも体に悪いのか?

1日の座位時間が長いほど、健康に害悪を及ぼすことは数多くの研究で証明されています。

座りっぱなしの生活を続けている人は腰痛や肥満、首の痛み、不全や脳卒中といった心血管疾患、糖尿病、早期死亡などのリスクが高まるのです。

特に1日に6〜8時間以上座り続けているとこれらの病気のリスクが高まると指摘されています。

しかしデスクワークやネットが浸透した現代社会では、多くの人がどうしても座りっぱなしにならざるを得ません。

そこで近年、健康的に仕事を続けられるよう広まりつつあるのがスタンディングデスクです。

スタンディングデスクは机の高さを腰やお腹の位置まで高めることで、立ったまま作業ができる便利な代物。

「健康を気にかけてスタンディングデスクで作業するようにしている」という方も多いかもしれません。

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Credit: canva

一方で、立ちっぱなしにもデメリットがあり、立ったままの姿勢が足腰や背中、関節にストレスをかけて、姿勢が悪くなったり、浮腫みやすくなったりすることが知られています。

これらを踏まえて、シドニー大学の研究チームは「立ちっぱなしの生活が体の循環器系の健康にどのような影響を及ぼすのか」をより詳しく明らかにしようと考えました。

立ちっぱなしが長いほど、循環器疾患リスクが高まる!

研究チームは今回、立ちっぱなしがどのような健康利益をもたらすかを明らかにすべく、英国在住の8万3013名(平均年齢61.3歳)のデータを調査対象としました。

この大規模データは英国の長期大規模追跡調査「UKバイオバンク」に登録されている人々から収集しています。

これらの被験者は研究開始時には何らの循環器疾患を有していません。

そして手首に1日の座位時間や立位時間、運動量などを追跡記録できるデバイスを装着しました。

その後、座位時間や立位時間の長さごとにグループ分けして、各種の疾患リスクがどのように異なるかを比較。

すると非常に興味深い結果が示されたのです。

まず従来の研究どおり、1日の座位時間が長い人ほど循環器疾患のリスクが高く、特に1日10時間も座っている人では心血管疾患および起立性疾患の発症リスクが増大していることが確認されました。

起立性疾患とは座った状態から立ち上がったときの血圧の変化で立ちくらみがするような症状のことをいいます。

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Credit: canva

ところが最も興味深かったのは、立ちっぱなしの時間も長くなるほど健康へのデメリットが大きくなっていることでした。

特に1日2時間以上立ちっぱなしの生活が続いている人では、立位による脳卒中や心不全といった心血管疾患の発症リスク予防にはつながっていなかったのです。

逆にこれらの人は立ちっぱなしが1日2時間未満の人に比べて、下肢静脈瘤(かしじょうみゃくりゅう)や深部静脈血栓などの循環器疾患の発症リスクが11%も高くなっていました。

下肢静脈瘤とは、血液が心臓に戻る足の静脈が太くなって瘤(こぶ)のようなものができる症状を指します。

これは静脈の弁が機能障害を起こし、血液を心臓に戻すことが難しくなることで、静脈の一部に血液が溜まりやすくなる症状です。

下肢静脈瘤が直接命に関わることはありませんが、痛みや歩くときの違和感、だるさや重さ、むくみなどの症状が現れます。

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Credit: canva

一方で、深部静脈血栓は体の奥側の静脈、つまり深部静脈に血液の凝固が起きてしまう症状です。

下肢静脈瘤は体の表面の静脈(=表在静脈)に瘤ができるものでしたが、こちらは筋肉の中や骨の近くにある静脈に症状が出ます。

深部静脈血栓になると、脚や腕の腫れが生じたり、血栓による炎症に伴う痛みが起こります。

これらは共に、長時間同じ姿勢を取り続けることで筋肉をあまり使わなくなり、血液を心臓に戻す筋力が弱まることで静脈の機能が阻害されやすくなります。

特に立ちっぱなしになると、重力の影響で血液が足に溜まりやすくなり、静脈内の血圧が高まることで静脈の弁の機能を壊してしまうことがあるのです。

以上の結果から、座りっぱなしだけでなく、立ちっぱなしにも健康への害悪があることが認められました。

しかし、座りっぱなしもダメ、立ちっぱなしもダメだとすれば、どうするのがいいのでしょうか?

では一体どうしろと言うのか?

この結果を受けて、研究主任のエマニュエル・スタマタキス(Emmanuel Stamatakis)氏は「1日の中で定期的に立ち上がって軽い運動を取り入れるのが最も最良の方法である」と話します。

例えば、部屋の中を歩き回る、昇降運動をする、ストレッチやエクササイズを取り入れるなどです。

では具体的に、1日にどれくらいの運動量がいいのでしょうか?

これに関してはノルウェーの研究チームが2020年に報告しています(British Journal of SportsMedicine,2020)。

この調査では、4カ国の合計4万4370人を含む大規模データを対象に分析した結果、中程度以上の運動を1日に約30〜40分間行っていた人は、座りすぎに伴う死亡リスクが有意に減少していたことが判明しました。

中程度以上の運動とは、心拍数や呼吸数が通常よりも増加するものの、まだ会話はできるレベルの身体活動です。

これにはサイクリングや少しスピードを速めたウォーキング、社交ダンスやエアロビクス、水泳などが当てはまります。

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Credit: canva

デスクワークをしているなら、大体1時間ごとに立ち上がって5〜10分ほどの運動を取り入れるといいでしょう。

そうすれば、座りっぱなしと立ちっぱなしの両方の弊害を回避できるはずです。

賢人たちは昔から「極端に偏らず、過不足なく調和の取れたバランス」を意味する「中庸(ちゅうよう)」の大切さを説いてきました。

座りっぱなしがダメだからといって、真逆の立ちっぱなしに振り切るのもやはりダメなようです。

日々のデスクワークでも「〜っぱなし」のような極端な行動はやめて、適度に座り、適度に立ち上がるのが良いのでしょう。

「1週間立ちっぱなし生活」で体にどんな変化が起きるのか?

全ての画像を見る

参考文献

Standing more may not reduce cardiovascular disease risk, could increase circulatory disease
https://www.sydney.edu.au/news-opinion/news/2024/10/17/standing-more-may-not-reduce-cardiovascular-disease-risk--could-.html

Standing desks do not reduce risk of stroke and heart failure, study suggests
https://www.theguardian.com/society/2024/oct/16/standing-desks-may-be-bad-for-your-health-study-suggests

元論文

Device-measured stationary behaviour and cardiovascular and orthostatic circulatory disease incidence
https://doi.org/10.1093/ije/dyae136

ライター

大石航樹: 愛媛県生まれ。大学で福岡に移り、大学院ではフランス哲学を学びました。 他に、生物学や歴史学が好きで、本サイトでは主に、動植物や歴史・考古学系の記事を担当しています。 趣味は映画鑑賞で、月に30〜40本観ることも。

編集者

ナゾロジー 編集部

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