新型コロナウイルスの影響で遠出を控える動きが続く中、東京都心での文化交流を作り出そうという取り組みが広がっている。
JR東日本は8月26日、高田馬場駅に「街の交流拠点」と位置づけるブックカフェ「STAND BY bookandbedtokyo」を開業した。山手線の各駅を起点に都市の魅力を引き出そうという同社の取り組み「東京感動線」の一環だ。
「STAND BY bookandbedtokyo」は、本棚の中に泊まれるホステル「BOOK AND BED TOKYO」を全国に展開するアトリエブックアンドベッドとのコラボレーションによって誕生した。この店の目玉は、入り口の横にそびえる天井まで届く大きな本棚だ。約250冊の本が並んでいる。これらは販売用の商品ではなく、「誰もが自由に本を貸し借りできる本」なのだという。店内だけでなく、借り出して自宅などで読むこともできる。
ブックカフェが街の交流拠点?
何故このブックカフェが「街の交流拠点」と位置づけられているのだろうか。このプロジェクトを担当したJR東日本東京支社の星野宏侑さんはこう話す。
「もともと東京感動線では、インフルエンサーの方に焦点を当てた企画を行っていました。調べていると、そうした方々の中には本好きの方が多いということがわかったのです。活字文化は薄れつつありますが、本好きの方は必ずいます。そうした方に対して本がフックになると考えました」
出店地はその時点では未定だった。しかしそのタイミングで、耐震工事が行われていた高田馬場駅に店舗用のスペースが発生。「ブックカフェ構想」はそこを利用して進められることになった。
「高田馬場に決まってからは、街の調査を行いました。高田馬場といえば学生街のイメージですが、掘り下げていくとミャンマー人のコミュニティーがあったり、障害をお持ちの方が多かったりと、様々な面が見えてきたのです。さらに、命の尊厳を作品に描く手塚治虫さんのゆかりの街でもある。ダイバーシティな街だと気づきました」
"本棚で"高田馬場を表現
“この街の人やモノ、文化が交われば、きっと面白い化学反応が生まれる”。そうした考えから、星野さんは高田馬場の街を「カフェの本棚で」表現することを考えた。
本棚のポップにはこう書かれている。
“本棚に並ぶのは、本屋さんが選んだ訳でもなければ、著名なブックセレクターが選んだわけでもなく、その街に住んでいたり、職場や学校があったりする、地域の方々が持ち寄った本。”
「選書を地域の方に協力してもらおうと考えました。最初は以前の高田馬場駅長と繋がりのあった和菓子店の『青柳』さんにお伺いし、そこから数珠つなぎで様々な方を紹介していただきました」
街の人からは「JRがこんなことをやるんだ」と好感触を得られた。「自分も何か地域の役に立てれば」と多くの人が協力してくれた。店内の各書籍の前には、選書者のコメントを掲示。点字の本も並ぶのは、日本点字図書館がある高田馬場の街ならではだ。しかもこの本棚には、利用客が自分のお気に入りの本を持ち込んで並べることもできるという。
[caption id="attachment_179657" align="alignnone" width="900"] ▲インテリアにもこだわった。百貨店の店内装飾なども手掛ける「edenworks」に店内のフラワーコーディネートを依頼。学生の街・高田馬場にふさわしく、感度の高い若者に刺さる内装に仕上げた。[/caption]
「本で地域の繋がりを生み出したい」
[caption id="attachment_179656" align="alignnone" width="900"] ▲JR東日本東京支社 事業部企画・地域供創課 山手線プロジェクト 古田恵美さん(左)、星野宏侑さん[/caption]
「例えば、学生の方もただ高田馬場に通っているだけでは、視覚障害者の方と触れ合う機会はなかなかないと思います。本で点字に触れてみるだけでも理解が生まれる。そうしたちょっとしたことで地域の繋がりを作ることができたらと考えています」と星野さんは話す。さらなる交流創出のため、今後は地域の学校・企業・団体とコラボレーションしたトークショーなどのイベントを計画しているという。
コロナ禍での自粛をめぐるトラブルなど、地域住民同士の相互理解の難しさが浮き彫りになった昨今。本をきっかけに地域の交流が深まり、心豊かな住みよい世の中になっていくことを期待したい。
[caption id="attachment_179670" align="alignnone" width="900"] ▲カフェメニュー。コーヒーはニュージーランド発の「Coffee Supreme」によるもの[/caption]
[caption id="attachment_179671" align="alignnone" width="900"] ▲夜の看板メニューとなるサワーは京都のバー「sour」が手掛けた[/caption]