東海道新幹線の新型車両N700Sが7月1日に満を持してデビューした。2007年に登場したN700系以来、13年ぶりの「フルモデルチェンジ車両」と位置付けられているが、一見した限りでは従来のN700A(N700系のマイナーチェンジ版)と代り映えしないように感じる。同社の金子慎代表取締役社長が「すべての面において最高の性能を有した新幹線」とアピールするこのN700Sは、従来型N700Aから具体的にどのような進化を遂げたのか、両形式を比較しながら見ていきたい。
車両外観
▲左がN700A「エアロダブルウィング型」、右がN700S「デュアルスプリームウィング型」
まずは新幹線のシンボルといえる先頭車の形状。従来型のN700Aシリーズは鳥が羽を広げたような形で「エアロダブルウィング型」と呼ばれるが、N700Sもそれを踏襲。左右両サイドにエッジを立てた形状に進化し、「デュアルスプリームウィング型」と名付けられている。走行風の乱れを改善することにより、走行抵抗やトンネル突入時の騒音、車両の揺れが低減した。空力性能が向上したことで、省エネルギー効果もあるという。
▲奥がN700A、手前がN700S。前照灯の面積が大きくなっていることがわかるだろうか
前照灯には新幹線として初めてLEDライトを採用。従来採用していたHID(高輝度放電)ランプに比べ、更なる省エネルギー化・照度向上・長寿命化を実現した。視認性も向上している。
▲上がN700A、下がN700S。N700Sは乗務員扉付近から3本目の帯が伸びている
白地に青帯という配色は変わらないが、N700Sの先頭部を見ると、これまでなかった3本目の青帯が伸びている。この3本の帯で、N700Sの「S」を表現しているという。
▲上がN700A、下がN700Sのシンボルマーク。外観で最もわかりやすい相違点はここだろう
奇数号車に描かれたシンボルマーク。従来型は横帯に合わせた青色ベースのデザインだったが、N700Sは「S」の由来である“Supreme”の文字を金色であしらった。高級感や上質感のある最高の新幹線であることを表現しているという。
普通車車内
▲N700A普通車
▲N700S普通車。天井のデザインが変わり、印象が大きく異なる
続いて車内を見ていこう。総座席数は普通車1,123席、グリーン車200席の計1,323席。東海道新幹線の過去の車両と同様に座席数と座席配置が統一され、共通運用に対応している。
まずは普通車客室。内装の基本的な配色は同じだが、床やシートモケットのデザインが異なる。特に大きな変化は側面パネルだ。従来型では独立している空調吹出口を側面パネルと一体化させて広げたことで、室内温度が均一化されるという。また、室内照度も均一化されるよう天井形状も変化している。また、停車駅に近づいた際には荷棚の照度が上昇するようになっており、荷棚の忘れ物防止のため注意を促す。実はこの荷棚の素材には、引退した700系やN700系の廃材が再利用されている。
▲上がN700A、下がN700S。号車表示や禁煙マークもテロップ内に表示されるようになった
デッキとの仕切り扉上部にある車内テロップにはフルカラー液晶が採用され、視認性が向上。サイズは1.5倍に拡大し、走行位置や各駅の乗り換え案内などの情報も表示できるようになった。
▲左がN700A、右がN700S。座ってみると見た目以上に座り心地が変わっている
写真ではわかりづらいが、N700Sのシートは背もたれと座面が連動して傾くようになっており、リクライニングすると腰の部分が沈み込む。これによって座り心地が向上している。
▲乗客にとって最も嬉しい変更点
さらに、N700SはJR東海の新幹線として初めて、全座席にコンセントが設置された。従来の車両では、コンセントがあるのは窓側座席または各号車の車端部のみ。「通路側に座りたいが電源も確保したい」という人の悩みも、N700Sの登場によって解消される。
このほか、座席背面部に荷物用のフックが新たに取り付けられたり、窓下の小物置きが大型化してペットボトルを置いてもシェードを閉まるようになっていたりと、痒いところに手が届く改良点もあるので注目してほしい。
グリーン車車内
▲N700Aグリーン車(JR東海提供)
▲N700Sグリーン車
こちらは8・9・10号車のグリーン車。普通車と同様に、シートモケットや照明、側面パネルに変化が見られる。各窓ごとに側面パネルを分割し、荷棚と一体化させることで、プライベート感のある空間を演出しているという。
グリーン車のシートも、背もたれを倒すと座面が連動して深く沈み込む。リクライニング時の太もも裏側への圧迫感を低減するなど快適性が向上し、疲れにくい座席になった。足元スペースは15%、フットレスト幅は25%拡大している。
床下にはポンプの力で車体の揺れを打ち消す「フルアクティブ制振制御装置」を搭載。これによって大幅に横揺れが低減され、乗り心地が向上している。この装置はグリーン車のほか、両先頭車(1・16号車)とパンタグラフ搭載車(5・12号車)にも搭載されている。
見えない部分の進化
最後に、普通に乗車しているときは気付かないであろう、異常時対応力の進化にも少し触れる。
N700Sでは床下機器の小型・軽量化によって、新たにリチウムイオンバッテリーを搭載できるようになった。通常走行時に架線からの電力で充電し、自然災害等による停電時にはバッテリーの電力で安全な場所まで自力走行できる。これは高速鉄道では世界初のシステムだ。また、これまでは停電時にはトイレが使用できなかったが、バッテリーの搭載によって一部の号車で使用可能になっている。
▲N700Sの自走用リチウムイオンバッテリー
この他にも、消費電力量の削減やブレーキ性能の向上、摩耗部品の長寿命化など、見えない部分でも様々な進化しているN700S。2020年度にまず12編成、その後2022年度までに計40編成が投入される。運用状況はTwitterの東海道新幹線運行情報アカウントで運転日の前日に発表されるので要チェックだ。
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