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メカニズムに目新しさは感じられないし、正直言って乗り味に驚きや感動はなかった。とはいえ、BMWにとって第4のスクーターとして開発されたC400GT/Xは、ライバル勢とは一線を画する、絶妙なバランスを備えていたのだ。
REPORT●中村友彦(NAKAMURA Tomohiko)
PHOTO●佐藤恭央(YASUO Sato)
BMW・C400GT・・・92万7000円(グレーメタリックはプラス6000円)
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近年になってとてつもない勢いで、ラインアップを拡大しているBMW。その象徴と言えるのが、2012年から本格的な展開が始まったスクーター、アーバンモビリティのCシリーズだ。何と言っても20世紀のBMWにとって、スクーターはまったく無縁のジャンルだったのだから。もっともそういう見方をするなら、サーキットでの速さを徹追及したスーパースポーツのS1000RRや、ストレート6ならではのシルキーさが満喫できるK1600シリーズ、ミドルパラレルツインのFシリーズだって、かつての同社の頑固一徹な姿勢を考えれば(1990年代のBMWのエンジンは、フラットツイン、縦置き4気筒、単気筒の3種のみ)、相当に縁遠いジャンルだったのだが。
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1980年代以降のBMWは、車名の最初の英字でエンジン形式を表すことが通例。大昔から不変のR=フラットツインに加えて、K=並列6気筒、S=並列4気筒、F=並列2気筒、G=単気筒、という図式が最近では定着しているものの、Cシリーズだけは他とは異なる命名を選択。650は並列2気筒、400は単気筒、エボリューションは電動モーターを搭載しているし、車体構成も各車各様なのだ。他のシリーズの整然とした構成を考えると、この事実はBMW製スクーターの王道が、まだ明確に定まっていないことの証明なのかもしれない。
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BMW製スクーターの原点となった2000~2002年型C1(エンジンは125/175cc単気筒)が、ヘルメット無しでの走行を前提にして、ライダーを保護する独創的なアルミ製パッセンジャーセルを導入していたこと、2012年に登場したC600GT/Sport(2016年から650となる)が、メガスクーター初の270度クランクや倒立式フォーク、片持ち式スイングアームなどを採用していたことなどを考えると、2018年から発売が始まったC400GT/Xは、誤解を恐れずに言うなら、ごく普通のスクーター……?という印象である。
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と言うのも、C400GT/Xのパワーユニット+後輪駆動はスクーター界の定番であるユニットスイング式で、フレームにも特に目新しさは感じられないし、正立フォークの支持はアンダーブラケットのみ、リアはオーソドックスなツインショックなのだ。
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もっとも、不快な振動を抑制するディカップリグシステムや、デビュー時はクラス初の機構だったラジアルマウント式フロントキャリパー、日本仕様では標準装備となるグリップ/シートヒーター、シート下の収納スペース容量が可変するフレックスケース、オプション設定のTFTフルカラーディスプレイなど、目新しい要素はいろいろと存在するものの他のBMWで頻繁に感じる革新的な要素がこのモデルは希薄なのである。
さて、ここまで文章を振り返ると、何だか盛り上がりに欠ける展開になってしまったけれど、今回の試乗で久しぶりにC400GTを体感した僕の第一印象は、こりゃいいなあ……だった。兄貴分のC650と比べれば格段に軽くて親しみやすく、それでいて250cc以下のスクーターを比較対象とするなら、圧倒的に速くて車体が安定しているC400GTが、この日の僕にはバランスが絶妙で、すごくいいところを突いている!と思えたのだ。
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もちろんその印象は、排気量と車格だけが原因ではない。このモデルはまずライディングポジションが秀逸で、市街地の移動がイージーなだけではなく、ツーリングとスポーツライディングの両方が楽しめそうだし、車体は大前提として抜群の安定性を備えながらも、ここぞという場面での動きは予想以上にキビキビ。
エンジンに関しては、右手の操作に対する応答遅れがほとんどないこと、振動が少ないことが好感触で、その背景にはCVTとディカップリングシステムの緻密なセッティングがあるようだ。
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現在の日本市場でC400GT/Xのライバルに相当する車両は、スズキ・バーグマン400、SYMマキシム400くらいしか存在しないものの、海外ではホンダ・フォルツァ350、ヤマハXMAX400などが、好敵手として認知されている。そしてそれらに排気量が異なる兄弟車が存在するのに対して、C400GT/Xはすべてが専用設計。もちろん、兄弟車が存在するのは決して悪いことではないけれど、今回の試乗を通して僕が感じたバランスの絶妙さは、専用設計だからこそ得られたのかもしれない。
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なお兄弟車……と言うより、一卵性双生児として開発されたC400GTとXの主な相違点は、外装一式と灯火類、シートなどで、エンジンや車体の基本構成は共通である。ただし2台を同条件で乗り比べると、しっとりした乗り味のGTはツアラー指向、車重がGTより10kg軽いXはスポーツ指向、と感じる人が多いようだ。
ディテール解説
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灯火類はフルLED。XがGSに通じるデザインを採用するのに対して、左右対称のGTは落ち着きつつも迫力を感じる佇まい。
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ハンドル形状はXと同様だが、カバーは各車専用設計。イグニッションはキーレスエントリー式。スクリーンの高さは、残念ながら調整不可。
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左スイッチボックスの側面に見えるのは、TFTメーターとセットで使用するジョグダイヤル。右にはセル/キルスイッチに加えて、グリップ&シートヒーターの調整ボタンが備わる。
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標準モデルはアナログ式速度計+液晶モニターだが、試乗車はオプション設定となる6.5インチTFTフルカラーメーターを装備。
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ハンドルの下部左右にはグローブボックスを設置。右側には日本仕様で標準装備となるETC2.0ユニットが収まっている。
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スポーティな雰囲気のマフラーは異形断面。リアサスはリンク式やサイドマウント式のモノショックも検討したが、スペースの確保や構造の簡素化などを考慮して、オーソドックスなツインショックを選択。
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フロントフォークはφ35mm正立式で、グローブボックスのスペースを確保するため、車体との締結はアンダーブラケットのみとしている。ブレーキディスクは前後ともφ265mmで、キャリパーは、F:ラジアルマウント式対向4ピストン、R:片押し式1ピストン。
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C650の前後115mmよりは微妙に少ないけれど、110/112mmのサスストロークは、400ccスクーターでは一般的な数値。F:120/70-15、R:150/70-14のタイヤは、ピレリ・エンジェルスクーター。
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■主要諸元
全長×全幅×全高 2,200×780×1435㎜
シート高 775 mm
軸距 1565 mm
キャスター 81 mm
ステアリングヘッド角度 63.6°
車両重量 215 kg
燃料タンク容量 12.8 L (リザーブ 4 L)
エンジン 水冷4ストローク単気筒・横置
ボア x ストローク 80 mm x 69.6 mm
排気量 349 cc
最高出力 25 kW (34 hp) / 7.500 rpm
最大トルク 35 Nm / 6.000 rpm
圧縮比 11.5:1
点火/噴射制御 電子制御エンジンマネージメントシステム(BMS-E2)
燃料消費率 / WMTCモード値 28.57km/L(1名乗車時)
燃料種類 無鉛レギュラーガソリン
オルタネーター 316 W
バッテリー 12 V / 9 Ah、メンテナンスフリー
クラッチ 遠心式乾式クラッチ
ミッション CVT
駆動方式 ギアホイールセット
フレーム スチールパイプフレーム、アルミダイキャストシャーシ
フロントサスペンション テレスコピックフロントフォーク(35 mm径)
リアサスペンション アルミニウムダブルスイングアーム、ダブルスプリングストラット、プリロード調整機能付き
サスペンションストローク(フロント/リア) 110 mm / 112 mm
ホイール アルミキャストホイール
リムサイズ フロント3.50 x 15・リア4.25 x 14
タイヤサイズ フロント120/70 15・リア150/70 14
フロントブレーキ ダブルディスクブレーキ(265 mm)、4ピストンキャリパー
リアブレーキ シングルディスクブレーキ(265 mm)、1ピストンフローティングキャリパー
ABS BMW Motorrad ABS標準搭載
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