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ヴェルシスXの存在を気にしつつ、スズキ・Vストローム250 ABSに乗ってみた。


1050と650を兄貴に持つVストローム3兄弟の末弟がこの250。実は「アーバンアスリート」としてリリースされているGSX250Rと実質的な兄弟車なのだが、ご覧の通りまるで異なるモデルに仕上げられている。ネーミングに相応しい堂々のフォルムとツアラーとしての機能性には改めて興味津々である。




REPORT●近田 茂(CHIKATA Shigeru)


PHOTO●山田俊輔(YAMADA Shunsuke)


取材協力●株式会社 スズキ

スズキ・Vストローム250 ABS.......613,800円

パールネブラーブラック/ソリッドダズリンクールイエロー

パールネブラーブラック
トリトンブルーメタリックNo.2
パールネブラーブラック/ハイテックシルバーメタリック

 2017年7月に登場したVストローム250は街でも良く見かける安定した人気を誇っている。同社のアドベンチャーカテゴリーに属すVストロームシリーズに投入した販売戦略の巧みさも侮れないが、純正オプションのトップケース(23L)やサイドケース(片側20L)の品揃えも魅力的。


 ずばりライバルはカワサキ・VERSYS-X 250 TOURERだ。こちらもアドベンチャーツアラーとしての作り込みにはかなりのこだわりを披露し、サイドケース(ボルトオン固定式)は標準装備化されている。


 Vストロームではオプション装備扱いだが脱着性に優れた専用ブラケット・ベースが標準設備されている点が見逃せない。250ccクラスの中で、ツアラーとして欠かせないこの様な本格機能を搭載したモデルは初めて。


 さらに毎年販売促進キャンペーンが実施されており、現在(9月30日迄)実施中のキャンペーンでは、バイクと同時にスリーケースセットを注文すると、総額9万4,600円が、6万6,220円で買うことができる。バイクと合わせると68万と20円也。ライバルの70万4,000円と比較するとVストロームのお買い得感がさらに際立つのである。




 カウル付きロードスポーツのGSX250Rと兄弟車であることは冒頭に記した通りだが、前後ホイールサイズやホイールベースはほぼ同等。車体寸法はVストロームの方が流石に大柄な仕上がり。ただしフロントに19インチホイールを履くヴェルシスX 250 TOURERよりは少しコンパクトに仕上げられている。


 目立ったポイントを拾うと、車幅はヴェルシスの940mmに対してVストロームは880mm 。ホイールベースも25mm短く、ロードクリアランスもヴェルシスより20mm低い160mmでしかないのである。


 それでいて、なかなかどうして立派で堂々たるフォルムを誇る。250ccというクラスを超えたボリューム感が引き出されたデザインセンスは印象的。車両重量もヴェルシスより6kg重い189kgある。




 搭載エンジンは水冷SOHCの2気筒。気筒当たり2バルブでクランクは180度タイプ。至ってオーソドックス。ボア・ストロークは53.5×55.2mmというロングストロークタイプの248cc。


 低張力のピストンリングやローラーロッカーアームを採用する等、フリクションロスの低減化が徹底されているが、バルブ形式からもわかる通り、高回転高出力を追求したタイプではない。


 主要諸元を見比べるとツインカム4バルブのショートストローク・エンジンを搭載するヴェルシスは最高出力も回転の伸びも圧倒的に優勢。33ps/11,000rpmを発揮する。対するVストロームは24ps/8,000rpmだ。


 しかし最大トルクに注目すると、ヴェルシスの21Nm/10,000rpmに対して、Vストロームは22Nmのピークトルクを6,500rpmで発揮しているのである。


 


 ちなみにこのエンジンは1次減速比と6速ミッションのレシオ共にGSX250Rと共通。ドリブンスプロケットのみ、46~47丁へ低くセッティング変更されている。しかしヴェルシスと比較すると6速トップクルージング時の総減速比はVストロームの方が3%ほど高めのセッティングが成されている。


 この違いに、両車が棲み分ける乗り味の違いが存在しているのではないだろうか。

全てブラックアウトされたパワーユニット。オーソドックスな水冷SOHC2バルブのツイン・エンジン。

旅バイクとしての割り切りに潔さと魅力が感じられる。

 試乗車を目の当たりにすると、とても立派なバイクに見える。昔の感覚で物を言えば、到底250ccとは思えない程、車体のスケールは大きく、取り回す時の手応えもズッシリとした重さが感じられた。それでもヴェルシスのサイズ感よりは親しみやすい。 


 シート高はそれほど高くはなく、身長168cmの筆者にとっても足つき性は問題ない。鋭く立ち上げられたパイプバー式のアップハンドルに手を添えると、ライディングポジションは意外とスマートに決まる。少なくともアドベンチャーマシンのそれでは無く、普通に楽な姿勢で乗れる感じ。


 ボリュームのある17Lタンクを始め、ナックルガードやスクリーンの装備が、ツアラーに相応しいキャラクターデザインを象徴している感じである。


 背筋を伸ばした姿勢でも目線は本格派アドベンチャーモデル程は高くなく、ある種古き時代のごく普通のロードスポーツ車に乗る様な雰囲気。スクリーンの装備とナックルガードも含めてウインドプロテクションが程良く効く走りは、どこか長閑で快適だ。


 メーター左脇には12Vのアクセサリー電源ソケットが標準装備されているが、走行中ではなんと36Wという高出力を誇る。いわゆるシガーライター用ソケットが採用されている点も含めて活用範囲は広い。


 丸形のヘッドランプやスクリーンはフレームマウントで操舵系にその重さが乗っていないデザインも特徴。扱いやすさに難の無いメインスタンドの装備もありがたい。


  


 エンジンを始動し発進すると、決してパワフルではないし、吹き上がりもおっとりとした感覚。しかし不思議とそんな出力特性が不満には感じられなかった。むしろ穏やかで優しいスロットルレスポンスがツアラーとしての心地よさに絶妙なマッチングを魅せている。


 データ勝負の走りの性能を追求するのではなく、あくまで“乗り味”を重視した性能追求。感覚的な程良い心地よさが大切に考えられたように見て取れたのである。


 パワーを欲張っていないロングストロークエンジン特有のゆったりした出力特性は、市街地の渋滞路や住宅街の低速走行でも粘り強く、柔軟で扱いやすい。


 あまり回転を上げずに早め早めのタイミングでシフトアップしてもトルクが太く、加速力も不足は感じられないのである。


 ライディングポジションや、重さ感覚、そしてエンジンの出力特性が絶妙に揃っており、それは旅(移動)道具としてベストな機能を果たしているように感じられたのが印象的だった。


 唯一5,500rpm前後でハンドルにくすぐったい微振動の発生が気になったが、市街地の実用域よりは上の領域にあるので、実用上気になる事は少ないだろう。


 ちなみにローギヤでエンジンを5,000rpm回した時の速度は22km/h。6速トップギヤで50㎞/hクルージングする時のエンジン回転数は3,750rpmだった。つまり100km/hクルージングなら7,500rpmになる。残念ながら今回、高速道路では未試乗。


 レッドゾーンは10,500rpmからだが、吹き上がりの上昇スピードが緩慢になるので、あまり回す気にはならない。しかしそれがパワー不足かというと、全体のキャラクターとして十分に頼れるポテンシャルを伴うゆとりある乗り味を発揮してくれるから大して不満は感じられないのである。


 


 アドベンチャースタイルは採用されているが、サスペンション性能や、36度しかないハンドル切れ角を考えると、本気で林道ランを楽しめるタイプでない事は明白。


 メインはあくまでオンロードだが、旅道具としての機能的魅力は侮れない。ソフトなシートに腰を落ち着け、スリーケース装備でロングツーリングを試してみたい。そんな気にさせてくれるバイクであった。

足つき性チェック(モデル:大屋雄一 175cm/64kg)

ご覧の通り、膝にも余裕を持って両足はベッタリと地面を捉えることができる。シート高はちょうど800mm。身長168cmの筆者でも足つき性に難はない。

ディテール解説

ノーズの出たデザインが特徴的。丸型ヘッドランプには12V60/55WのH4バルブが使われている。ウインカーは12V10Wのオレンジ球だ。

17インチホイールには、タイのIRC製110/80扁平RX-01F(ROAD WINNER)を履く。2ピストンピンスライド式油圧キャリパーはNISSIN製だ。

前傾直(並)列2気筒エンジンはセンターカムチェーン方式の水冷SOHC。気筒当たり2バルブのシンプルなデザインだ。

車体中心近くにセットされたリヤサスペンションのモノショック。クランプレンチを使用して回すと、プリロードが7段調節できる。3番が標準設定だ。

少しアップしてフィニッシュする右出しの1本マフラー。リヤブレーキはシングルピストンのピンスライド式。メインスタンドも標準装備されている。

アドベンチャーシーンへ旅心がくすぐられるアップハンドルまわり。黒と黄色のコンストラストがよく映える。メーター左脇には12V36(アイドリング時は12)Wまで使えるアクセサリーソケットが装備されている。

下から順に咄嗟の時に押しやすいホーン、プッシュキャンセル式ウインカー、光軸のハイローを切り換えるディマースイッチ。向こう側に少し見えている黄色いのは人差し指で操作するパッシングスイッチ、右の赤いのはハザードスイッチだ。
ハンドル右側のスイッチは至ってシンプル。上にある赤いのはエンジンキルスイッチ。下の黒いのが始動用スタータースイッチだ。
燃費計や時計、レブインジケーターも装備された液晶デジタルメーター。燃料計は5ブロック表示式、ブロックがひとつで、燃料警告灯が点滅すると残量は約4.7L。残量が約1.7Lになるとブロックも点滅する。

少し段差のある前後一体式のダブルシート。後方には堅牢なアルミキャリアが標準装備。トップケースやサイドパニア装着にも対応している。
シートは、テールカウル左脇にあるロックキーを解錠し、シート後部を持ち上げ、後方に引くことで脱着できる。車載工具や書類が収納できる。
クリアレンズのウインカーは12V10Wのオレンジ電球式。赤いテール&ストップランプには面発光LEDが採用されている。

Vストロームシリーズの末弟ながら、そのフォルムは堂々と立派。

⬛️主要諸元⬛️

型式:2BK-DS11A


全長 / 全幅 / 全高:2,150mm / 880mm / 1,295mm


軸間距離 / 最低地上高:1,425mm / 160mm


シート高:800mm


装備重量:189kg


燃料消費率:39.0km/L (60km/h)2名乗車時


WMTCモード値:31.6km/L 1名乗車時


最小回転半径:2.7m


エンジン型式 / 弁方式:J517 ・ 水冷 ・ 4サイクル ・ 2気筒 / SOHC ・ 2バルブ


総排気量:248㎤


内径×行程:53.5mm × 55.2mm


圧縮比: 11.5


最高出力 :18kW 〈24PS〉 / 8,000rpm


最大トルク :22N・m 〈2.2kgf・m〉 / 6,500rpm


燃料供給装置:フューエルインジェクションシステム


始動方式:セルフ式


点火方式:フルトランジスタ式


潤滑方式:ウェットサンプ式


潤滑油容量:2.4L


燃料タンク容量:17L


クラッチ形式:湿式多板コイルスプリング


変速機形式:常時噛合式6段リターン


変速比:


 1速 2.416


 2速 1.529


 3速 1.181


 4速 1.043


 5速 0.909


 6速 0.807


減速比(1次 / 2次):3.238 / 3.357


フレーム形式:セミダブルクレードル


キャスター / トレール:25°10' / 100mm


ブレーキ形式(前 / 後):油圧式シングルディスク[ABS] / 油圧式シングルディスク[ABS]


タイヤサイズ(前 / 後):110/80-17M/C 57H / 140/70-17M/C 66H


舵取り角左右:36°


乗車定員:2名




製造国:中国

⚫️試乗後の一言!

これに乗るなら、純正スリーケースセットも欲しくなる。トコトコと遠くまで旅してみたくなるから。

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