「ターボ=パワー」という図式はすでに昔のもの。現代の過給はトルクを補う手段として着目される。エンジンを小さくした分、パワーとトルクは当然のことながら不足してしまう。いかにスムーズに、いかに効率良くその不足分を取り戻すか。過給のトレンドを考えてみよう。
TEXT:世良耕太(SERA Kota)
車両パッケージの制約などから大きなエンジンを積むことができず、ベース車両と同じ排気量のエンジンを積んで過給化。シリンダー内により多くの空気を送り込んで出力を向上させる手段を便宜上「高出力過給」と呼ぶ。一方、ベース車両よりも小さな排気量のエンジンに置き換え、発進から巡航域に達するまでの力を補う手段として過給機を用いる考え方を「ダウンサイジング過給」と呼ぶことにする。現在のトレンドは(ヨーロッパ勢に偏っているが)、ダウンサイジング過給だ。
排気量を小さくすると機械損失が減る。さらに、過給によって低回転域のトルクが太ったぶんを高速走行時の減速比低下に振り向け、エンジン回転数を低く保って走れば、燃費を向上させることができる。機械損失低減と使用回転領域の低回転化による燃費向上が、ダウンサイジング過給の本分だ。
ところが、過給をターボに頼った場合には弱点がある。ターボラグ(応答遅れ)だ。排気が持つ運動エネルギーでタービンの回転数を上昇させ、過給圧を立ち上がらせるには、ライトを点灯するように瞬時にはいかず、相応の時間を必要とする。
その応答遅れを劇的に短くする解決法のひとつが、エンジンの出力の一部を使って駆動するスーパーチャージャーで、フォルクスワーゲンのTSIがそれに該当する。ターボラグが発生する領域では、レスポンスに優れたスーパーチャージャーも稼働させて過給圧を高めるのだ。直噴の吸気冷却効果によって、圧縮比を高く保てる点も忘れてはいけない。
小径タービンを使ってエンジン回転数の低いところから有効な過給圧を発生させたり、気筒間の排気干渉をキャンセルするツインスクロールターボを採用したりしてレスポンスを向上する手段もある。直噴+ツインスクロールターボに可変リフト量&開角制御のバルブトロニックを組み合わせたのが、ヨーロッパの(BMW+PSAの)ダウンサイジング過給だ。バルブトロニックを追加したことにより、熱効率はさらに高まった。
ターボラグはどうかというと、計測データでは存在するが、体感上は消えている。バルブトロニックのおかげかと言えば、そう断じることもできない。なぜなら、バルブトロニックを装備しない直噴+ツインスクロールターボでも、応答遅れは気にならないからだ。制御の進歩だろう。
ミラーサイクルエンジン(吸気バルブ遅閉じ)の各行程をイメージ化した。スペックシート上に「圧縮比13」とある場合、それは膨張比が「13」であって、ミラーサイクルで運転している際の実圧縮比は小さくなる(図では「8」)。吸気行程に対して膨張行程が長くなるので、熱エネルギーを有効にトルクに変換できる道理。実圧縮比が小さくなるのでノッキングを起こしにくくなる。一方、吸入空気量が少なくなってトルクが低下するので、これを補うために過給器で空気を押し込むわけだ。ミラーサイクルは排気量が小さくなったのと同じ効果があるので、同じトルクを出すには部分負荷でのスロットル開度を大きくして吸気管圧力を大気圧に近づける必要がある。その結果、ポンピングロスが減って燃費が良くなる方向に作用するのもメリット。
ダウンサイジングで先行するヨーロッパ勢に対抗できる技術はミラーサイクルかもしれない。吸気行程よりも膨張行程を長くし、吸気行程=膨張行程の際に捨てていた熱エネルギーを有効にトルクに変換できるのが、ミラーサイクルのメリット。吸気行程を短くすることは排気量を小さくすることに他ならず、トルクの低下は避けられない。それを補うのが過給だ。吸気行程<膨張行程のエンジンにインタークーラー付き過給機を組み合わせた仕組みが正式なミラーサイクル。インタークーラーを取り付けるメリットは、過給機で圧縮した空気を冷却できることだ(その結果、ノッキングしにくくなる)。
吸気行程<膨張行程にした結果、足りなくなった低速トルクを補うために過給機を付けるのが元祖ミラーサイクルの発想。一方、日産のHR12DDRは、13の圧縮比ありきで、ノッキングから逃げるためにミラーサイクルにしたという新発想だ。そこから発展し、スーパーチャージャー+ターボチャージャーのツインチャージャーで過渡の応答性と出力を両立させ、ノッキングしそうになったらミラーサイクルで逃げるという使い方もできそう。新世代ミラーサイクルの時代が到来する気配、である。