吾輩はスズキ・ジムニーである。1986年の生まれで、型式はM-JA71Cだ。金属のルーフもエアコンもない、切替え式のパートタイムの四輪駆動車である。錆も進み、あちこちがへこんでいるので、ゆっくりと余生を送ろうとしていたが、週に1回、旅に出ることとなる。今回は、「足湯」を湧かすことにする。
TEXT &PHOTO◎伊倉道男(IKURA Michio)
吾輩のパートタイム4輪駆動の先祖はWILLYS QUADと呼ばれるモデルであるが、有名なのはWILLYS MBだ。第二次世界大戦に世界中で活躍したジープである。第二次世界大戦が終りを告げた頃、各国はジープの性能を自国で作りたいと考えた。そのひとつが英国のランドローバーである。
本国に帰った米兵はジープの素晴らしさを忘れられず、アメリカでの4輪駆動の人気は現在に至るまで続いている。開拓の国の精神は、ジープにより加速度を増したはずだ。
何十年も前にはなるが、横田基地の司令官から聞いた話によると、ウエッポンキャリアと呼ばれるトラックの荷台にシートを敷き、水を入れる。ジープのエンジンからラジエーターへ続くホースを外して、同じ径のホースを用意して、トラックの荷台のプールへと入れる。インとアウト両方だ。そしてジープのエンジンを掛けると、水はジープのエンジンで温められてプールへ入り、エンジンに戻る。水は循環して徐々にお湯になりプールはお風呂となる。
温かい食事と安らげる簡易ベッド。そして身を清潔に保てる環境がどれだけ米兵を勇気付けただろう。流行のサバイバルで必要なものは、シェルター、フード、水、そして火。その上に身を清められたら生きていく力も湧いてくる。
吾輩もホースを外してやってできないことはないとは思うが、第二の血液の冷却水を抜かれて、真水を入れられるのは勘弁して欲しい。錆が進行してしまう。冷却水は処理も大変だし、温泉の素など入れられてはたまらない。
そこでアウトドアシーンである物を利用して、なるべく荷物は増やさずに済ます方法を考える。足湯がよい。小さなバスタブを目指す。クーラーボックスを利用しても良いし、地面に穴を掘り、そこにシートを敷いても良いだろう。焚き火を楽しみながら、水が循環してお湯になる。冷えた足を温めながら風景を楽しみ、ビールを飲み、そして適当に寝る。それは至福の時間に違いない。
今回使うパーツは「ジョイフル本田」で探してみた。少し前まではホームセンターは色々な物はあるけれど、買う人の知識が必要であった。ところが最近は精通した担当者がかなり多い。「こんな物を作りたい!」と相談すると、適切なアドバイスをしてくれるのでアイデアが実現しやすくなる。ただし、改造となると、職務上言えないことも多いらしい。
実際にお湯が沸くのには1時間20分ほどかかった。できれば30分ぐらいで沸くシステムにグレードアップしていきたいと思うのだ。
最後に温泉の素は使わないことにした。人が生きていく上で自然を壊すことは多々あるが、そこは少しでもローインパクトでありたい。来た時よりも美しく。
ー吾輩はスズキ・ジムニーである。型式はM-JA71C。名前はまだないー