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なぜ4/5ナンバー車の全幅は1695mmなのか マイナス5mmという不可解の背景


クルマのカタログを見ていて不思議に思うのは、全幅1700mm以下という規定がある5ナンバー乗用車と4ナンバー商用車は、その寸法上限は車種もメーカーも問わず1695mmという表記で一致していることだ。軽自動車の全幅はすべてのモデルが1475mm。なぜだ? 1700mm以下であれば1699mmでもいいはずだ。なのにすべて「寸法枠マイナス5mm」でカタログも車検証も統一されている。いったい、その理由な何なのか。

なぜ「マイナス5mm」なのか? そこには摩訶不思議な日本流が

1989年(平成元年)に物品税が廃止され消費税が導入されたとき、自動車税の仕組みも変わり、税額区分はエンジン排気量だけになった。それまでは車両寸法も税額を左右していた。5ナンバー寸法枠(全長470cm以下/全幅170cm以下/全高200cm以下)を超えるとエンジン排気量3.0ℓ以下のクルマは年間の自動車税額が8万1500円だった。5ナンバー枠におさまっていれば、エンジン排気量2.0ℓ以下は3万9500円だったが、たとえエンジン排気量が2.0ℓ以下でも車体寸法が5ナンバー枠を超えると一気に8万1500円だった。いま思えば重税である。

この税区分については海外から相当な圧力があり、消費税導入のタイミングで車両寸法規程が廃止され、自動車税区分はエンジン排気量1本に絞られた。しかし5mm刻みは変わらなかった。当時、筆者は運輸省記者クラブ詰めの新聞記者だったので、5mm刻みの件について省内外を取材した。以下は当時の取材メモからの書き起こしである。

車両寸法は道路運送車両法施行規則第2条に定められている。ここではメートル表記なので小型車は長さ4.70m以下、幅1.70m以下、高さ2.00m以下と書かれている。長さ4.70m以下というのだから4.699mでもいいはずだ。4.70mにほんのわずかでも届いていなければいい。世の中の解釈はこれで通るだろう。




しかし、かつての運輸省の時代でも現在でも、車両寸法の規定としての1.70m以下というのは1.695m以下でなければならない。その理由は、運輸省の外郭団体だった交通公害研究所(現在は独立行政法人自動車技術総合機構・交通安全環境研究所)が新型車審査を行なうときに用いる審査基準には「設計値において、施行規則に対し5mm以上の余裕があること」と書かれているためだ。この5mmの件は、道路運送車両法にも、その運用方法を定めた「道路運送車両の保安基準」にも書かれていない。「審査基準」のなかに、初めて明記されている。

このクルマを製造・販売してもよいかどうかの判断は、国土交通省が実施する「新型車審査」で下される。OKならば型式指定または型式認定をもらえる。しかし、試験を行なうのは前述の独立行政法人自動車技術総合機構・交通安全環境研究所であり、ここでの試験に「審査基準」が適用される。




整理すると、道路運送車両法には自動車の寸法の規定はない。寸法を定めているのは道路運送車両法施行規則であり、これは法律ではなく「規則」だ。そして、実際に自動車の販売を許可するために行なう新型車審査では、この規則に定められた寸法について「5mm以上の余裕を持たせなさい」という「審査基準」が用いられる。

なぜ5mmなのか。30年前の回答はこうだった。


「自動車は5mm以下の製造公差では量産できない。5ナンバー車は絶対に幅1.70m以下である必要がある。何百台、何千台と作っても、絶対に1.70mを超えないことを保障するために5mmだ」




しかし、当時の運輸省は「同一型式判定要領」という地域交通局長通達を出していた。地域交通局という部署は、現在の国土交通省では自動車交通局に当たる。通達とは「この法律の運用解釈はこのようにしなさい」というお達しであり、厳守しなければならない。その通達とは「同じ型式の車両はプラスマイナス20mmの製造誤差を認める」というものだ。

審査基準では「5mmマイナスで設計しなさい」とうたっているのに、通達では「プラスマイナス20mmまで認める」になっている。いったいどうするのか? プラス方向に20mmだと完全に幅1.70mを超えてしまう。そうすると法規上の扱いが3ナンバー(普通車)になってしまう。

「折衷案ですよ。1695mmを基準にマイナス20mm、つまり1675mm以上で上限はマイナス5mmの1695mm」




なんだそりゃ……と思ったが、こういう「決まり」で運用されている。ちなみに海外の法規を調べたら、欧州は設計値=認証値だった。アメリカは車両重量3.5トン以下の軽量車(Light Vehicle=ここにはセダン系/SUV/ミニバン/ピックアップトラックが入る)については細かな寸法規定はない。

日本版カタログとドイツ版カタログの表記の違い。アウディのカタログより抜粋。日本式表示は必ず5mm刻みになる。日本のカタログに記載されている数字は赤で示した。

室内寸法の表記は 日本でも1mm刻みである。これは「商品性を争う自動車メーカーを邪魔しない」という考え方がベース。道路運送車両法台46条に「保安基準は自動車の製作または使用に対し不当な制限を課してはならない」との条文があり、室内寸法の1mmは「商品性を競う寸法」であるとも解釈と思われるが、実際にどうなのかは定かでない。

オーバーハング:


前車軸から車両前端までがフロントオーバーハング、後車軸から車両後端までがリヤオーバーハング。日本では車両審査時の測定とカタログへの記載は義務付けられていない。ステアリングを目一杯切った状態で車両前端または後端が描く軌跡、つまり「どれくらいの小さなカーブを低速で曲がれるか」を思い描くときには役に立つ。




室内長:


日本では「計器盤の室内側端から最後部座席の背もたれ(シートバック)後端」までを室内長さとしてカタログに記載している。後部座席の背もたれを後ろに寝かせれば室内長さは長くなる。審査時計測ではなく社内計測。




ヘッドクリアランス:




シートの座面から天井までの距離、いわゆるヘッドクリアランスは座面前端から背もたれ側へ200mmの位置で設計上のトルソアングル(背もたれ後傾角度)と同じ角度で直線を天井まで延ばして計測する。審査基準には「800mm以上を確保すること」と定められている。




室内幅/シート幅:


車両審査時に計測。シート幅は「乗員ひとり当たり400mm以上」との規定があり、座面前端から背もたれ側へ200mmの位置で横幅を測る。室内幅は室内長さの中間(人間が座る場所ではない場合もある)、室内高も中間で測る。座席列ごとの室内有効長を測る欧州とは勝手が違う。




タイヤとホイール:


なぜか世界的に直径はインチ表記、幅方向はミリ表記である。235/50R17の場合、235は標準内圧時の路面接地幅でミリ表記、50はタイヤ幅を100としたときの扁平率でありパーセント表記、17はホイール径でインチ表記である。ひとつのパーツの中でこれだけ表記が混在する例はめずらしい。

税金が変わるような数字でなくても、日本式の寸法表記は末尾が0または5になる。これは二捨三入という考え方で、1886mmと1887mmは1885mmになり1888mmと1889mmは1890mmになる。日本は「自動車やその部品を1mm刻みの正確さで量産することはできない」という考え方に基づいている。




じつは、このような法規の階層構造が海外メーカーからは「わかりにくい」と不評だった。道路運送車両法には「こういうふうにクルマを作りなさい」という規定はほとんどなく、その規定は「道路運送車両の保安基準」という運輸省令(現在は国土交通省令)にあり、しかし細目は定められておらず、どのように試験するかは施行規則である審査基準に書かれており、おおまかな規定は保安基準に書かれており、さらに施行規則の実際の運用は技術基準だとか通達とかいったものに頼る。極めてわかりにくい階層構造である。

ジムニーはバックドアにスペアタイヤを背負っているが、スペアタイヤは全長に含まれないのだ。

ジムニーのカタログを見ると、確かにスペアタイヤ分は全長に含まれていない。

非常に興味深かったのは、スペアタイヤを背負っているクルマである。スズキ・ジムニーや三菱パジェロはバックドアにタイヤを背負っている。しかし、運輸省の審査にはスペアタイヤぶんの出っ張りのことは書かれていない。全長は前部バンパーの前端から後部バンパーの後端までであり、スペアタイヤは全長に含まない。5ナンバー車枠ぎりぎり一杯のボディは「1695mmを基準にマイナス20mm、つまり1675mm以上で、上限はマイナス5mmの1695mm」などと決めているのに、スペアタイヤは問題外なのだ。

ところが、軽トラックの荷台の枠に金具を溶接し、全幅や全長が軽寸法枠を1mmでもはみ出したら、これは改造申請の対象になる。そのままで使うと車検証の記載事項への違反になる。溶接すると半永久的な構造物になる。しかしボルト留めなら構わない。




最近見かける「ヒッチメンバー」と呼ばれるクルマの車体後部に突き出した構造体は、ボルト&ナットで取り付ける場合はスペアタイヤと同じ扱いになる。保安部品という扱いであり、改造申請は不要だ。保安部品の場合は規則の運用に任される。都道府県ごとの自動車検査登録事務所(運輸支局の中で自動車の検査・登録だけを扱う部署。陸運事務所という言い方はとっくの昔に使われなくなった)の判断に委ねられる。ただし、車体に溶接される構造物は「構造変更」となり改造申請が必要になる。

などという、かなり不可解な決まりごとが自動車の世界にはたくさんある。だから諸外国から見るとわかりにくい。しかし、まんざらでもないという部分もある。それは「運用」の柔軟性である。細かく決めていないから、どうするかはケース・バイ・ケース。役所に相談に行けばいい。互いに顔を突き合わせて話し合うと、思いも寄らない「柔軟な運用」になることもある。よきにはからえ、だ。

日本は当局が審査を行なう事前認証、アメリカは事後認証

アメリカでは、FMVSS(Federal Motor Vehicle Safety Standards=連邦自動車安全基準)に「自動車はこういうふうに作りなさい」と書いてある。かなり細かいところまで指定している。規則はこれだけで、FMVSSは絶対である。だから常にFMVSSは最新の自動車技術に合わせて改定される。技術論がすべてである。そして、FMVSSがあるから、アメリカには日本のような新型車の試験というものは存在しない。日本はかならず当局が審査を行なう事前認証であり、アメリカは事後認証である。

事後認証の方法は、市販されているクルマを買ってきてFMVSSに適合しているかどうかを徹底的に調べるというものだ。FMVSSの規定に反していなければ、そのまま製造・販売を続けていい。しかし、違反が見付かれば製造ラインは停止だ。悪質な規定違反は公表され、社会的制裁を受けるのと同時に罰金も課せられる。その罰金額の規定はほぼないに等しく、いわば青天井だ。

アメリカには行政指導も運用規則もない。FMVSSがすべてである。FMVSSの規定を決めるのは、安全性についてはNHTSA(National Highway Traffic Safety Administration=国家道路交通安全局)である。いっぽう、排ガスについてはEPA(Environmental Protection Agency)が決定する。自動車メーカーは、このふたつの組織を敵に回さないよう慎重に振る舞う。日本のように「相談すればなんとかなる」ということはない。




機会均等のアメリカ。結果平等の日本。さて、どちらが自動車には向いているだろうか。

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