ロッカーアームにピンを抜き差ししてリフト量の多寡を得るホンダの可変バルブリフト機構・VTEC。焼鳥屋で発案したというのは有名な話である。ここではi-VTECの構造とねらいを紹介しよう。
TEXT:高橋一平(TAKAHASHI Ippey)
隣接するふたつのロッカーアームにピンによる連結機構を設けることで、それぞれが受け持つふたつのカムを使い分ける2ステップ切替式の可変リフト機構がホンダのi-VTEC。初期状態(システム非作動状態)では大リフト側のカムを受け持つロッカーアームはフリーの状態となっており、大リフト側カムの動きはバルブに伝達されず、小リフト側カムによってバルブを駆動。システムが作動、ふたつのロッカーアームが連結されると、小リフト側も含めたロッカーアーム全体の動きを大リフト側カムが支配する。
大リフト側カムのリフト量は全ての作用角で小リフト側カムを上回るよう(ベースサークル部分は同径)に設定されているため、ロッカーアームが連結されると、小リフト側のスリッパー部分はカムから浮いた状態となる。小リフトカムをゼロリフトとし、同様の連結機構のみを用いた気筒休止システムやバルブ休止システム(1気筒あたり2本の吸気バルブのうち1本を休止)もバリエーションとして存在している。
「畑村耕一博士の寸評」
現在のVTECの原型は、1983年に二輪用エンジンを、2弁⇔4弁に切り替える機構として実用化されたREVと呼ぶ機構だ。信頼性要件が厳しい4輪には無理だろうと多くの動弁機構専門家の予想を裏切り、1989年に高出力の吸排気VTECとして実用化された後、片弁停止によるスワール生成VTEC-E、3ステージVTEC、気筒休止(可変排気量、ハイブリッド)VTEC、ミラーサイクルi-VTECなどに発展している。
現在はホンダの4輪車のほとんどがVTECを装着しており、世界的にも大ヒット技術のひとつである。ひとつの技術が大成功をおさめると、その後の技術進歩を阻害することが多いが、連続可変リフト機構の導入遅れ(i-VTECの採用)、過給ダウンサイジングの導入遅れ(可変排気量の採用)、クラッチなしハイブリッドの採用(気筒停止の採用)などを考えると、VTECもその例に陥っているように見えるのが残念だ。