世界中のクルマで一般的な横置きのV6エンジン。4気筒のスペースに6気筒を収めることに対して、トヨタはDOHC4バルブ化を敢行、世界初の事例となった。
80年代半ば、2ℓ超級エンジンを仕立てる手段としては直列6気筒が常套だったところ、FF車にも「6気筒」の記号性が強く求められるようになる。しかし直6を横置きするにはいかにも難しく、そのため各社は横置きV型6気筒の開発を進める。
トヨタも他にもれずFF用のV6である1VZ-GE型を仕立て、当時のカローラ店フラッグシップ車であるカムリに搭載した。ちなみに兄弟車であるビスタに搭載されなかったのは、ビスタ店にはすでに6気筒を積むクレスタがあり、食い合いを危惧されたからと言われる。
『モーターファン』の取材に際して、開発担当者であった真弓和久氏は以下のように答えている。
「カムリという車種は、カローラ店における最上級車であるわけですが、やはりユーザーからは、6気筒車の持っている静かさとか、貫禄のようなものが欲しい、という声があるようなのです。ほかの系列では、マークII、クレスタ、チェイサーという6気筒の上級小型車がありますから、ディーラーからは『FFのマークIIをつくってくれないか』といった要求すら出てきていたんですね」
直6とV6の振動特性は大きく異なるのは読者諸兄ならご存じだろう。なんとも微笑ましいエピソードではあるが、当時は多気筒と大排気量へのステータスが強く、そのニーズを受けての開発だった。
すでに他社からは横置きV6エンジンが登場を果たしていたが、トヨタはただ単にあとを追うことを良しとしなかった。盛り込んでいたのは伝家の宝刀「ハイメカツインカム」である。吸排気それぞれのカムシャフト(つまりDOHC)について、ベルトで駆動するのは片側だけとし、もう片方は駆動カムシャフトの中間部に備わるヘリカルギヤによって被駆動するというメカニズムで、両駆動方式に比べてカムシャフト間距離を縮められ、結果バルブ挟み角を小さくすることができるという技術である。なお、ハイメカツインカムは先に4気筒の3S-FEで登場を果たしているが、開発としては本機が先であった。
駆動/被駆動のシザースギヤ構造は苦肉の策だったと真弓氏は語っている。
「はじめは、チェーンも使ってみたのですが、片側3気筒で、そのカム軸にチェーンをかけた場合、リンクの数がすくないので伸びが敏感に効いてしまうんです。それに3気筒(片側のバンク)というのは、想像以上にトルク変動が大きいために、なかなか滑らかに回転してくれません。テンショナーもいろいろ工夫して見たのですが、バランスの問題が出たりして、それならギヤで回そうということになり、結果的にはスペース的にも回転バランスの面でも、うまく行きましたが、なかなか難産だったことは事実ですね」
V6エンジンをFF車のエンジンルームに収めるためには、吸排気管の取り回しが非常に難しくなる。見込む性能を優先させて設計すると入らない。パッケージングを優先させるために径と長さだけを確保した扁平形状で試作してみたが、望む特性が得られない。そこで採用されたのが可変吸気機構だった。
Acoustic Control Induction Systemの接頭語であるACISと称するその機構の構造は、両バンクごとに分かれているサージタンクの仕切り末端部にバタフライバルブを設け、運転状況によってそれを開閉させて吸気管の容積可変させるというもの。動作は3段階で、スロットル開度が60度以下の低回転時ではバルブを閉じてサージタンクとして使用、スロットル開度60度以上かつ4000rpm以下の中低速域ではバルブを閉じて共鳴過給効果を得、60度以上4000rpmの高速域ではバルブを開き慣性過給効果を狙うという仕組みである。
高級である6気筒の演出のために、振動騒音にも多くの意が払われた。シリンダーブロックは平面部を排して曲面構成とし、振動特性を抑える構造とした。ベアリングキャップはラダー構造の一体部品。クランクシャフトはクランクピン径は48mmとこのクラスにしては通常の値ながら、メインジャーナル径は64mmと破格の数字にし、高剛性とした。さらにメインプーリにねじり振動ダンパー/曲げ振動ダンパーの二種を備え、振動抑制に努めている。
■ 1VZ-FE
シリンダー配列 V型6気筒
排気量 1992cc
内径×行程 78.0×69.5mm
圧縮比 9.6
最高出力 140PS/6000rpm
最大トルク 17.7kgm/4600rpm
給気方式 自然吸気
カム配置 DOHC
ブロック材 鋳鉄
吸気弁/排気弁数 2/2
バルブ駆動方式 直打
燃料噴射方式 PFI
VVT/VVL ×/×
(MY87 カムリ プロミネント)