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装備重量296kg、市街地では重いけれど高速道路は……【ヤマハ・FJR1300AS試乗】


日本での人気はいまひとつ盛り上がらないものの、欧米では確固たる地位を確立し、これまでに10万台以上のセールスを記録したFJR1300。デビューから約20年が経過した今、孤高の存在としてスポーツツアラー界に君臨し続ける、このモデルの魅力をじっくり考えてみたい。


※試乗車は2019年モデルのマットシルバー




REPORT●中村友彦(NAKAMURA Tomohiko)


PHOTO&EDIT●佐藤恭央(SATO Yasuo)

FJR1300AS・・・1,870,000円

FJR1300A・・・1,540,000円

 1984~1997年に販売されたFJ1100/1200の後継車として、2001年にデビューしたFJR1300は、いろいろな意味で異例のモデルだった。まず当時の日本車では、スポーツアラー/スポーツGTと呼ばれる車両を、ゼロから新規開発することが異例だったし、同時代のリッタースーパースポーツに匹敵する143.4psの最高出力も、2000年代初頭の2輪業界の基準では異例。そして初代から現行モデルに至るまで、並列4気筒エンジン+アルミ製ダイヤモンドフレームの基本構成が変わっていないことも、近年の常識で考えれば異例と言っていいだろう。

 約20年に及んだ生産期間の中で、FJR1300は数限りない改良を行ったものの、大雑把に分類するなら、2016年から発売が始まった現行モデルは第4世代になる。


 もっとも第4世代の主な特徴は、ミッションの5→6速化、灯火類のフルLED化、バンク角に応じて照射方向が変わるコーナリングランプの採用(上級仕様のASのみ)などで、クラッチ操作が不要となるYCC-Sを導入した第2世代(2006~2012年)や、ライドバイワイヤやライディングモード、トラコン、電子調整式サス(ASのみ)など、イッキにハイテク化を図った第3世代(2013~2015年)ほどのインパクトはない。もっともその事実は、すでにFJR1300が熟成の極みに達していることの証明なのだろう。

 こんなに重くて大きかったっけ……。それが、数年ぶりに対面したFJR1300ASで、市街地を走り始めた僕の第一印象だ。装備重量296kg、軸間距離1545mmという数値を考えれば、そう感じるのは当然かもしれない。でもこのバイクは、さらに巨体なクルーザーやアドベンチャーツアラーより、手強そうなのである。


 おそらくその印象の原因は、クルーザーほど車高が低くなく、アドベンチャーツアラーほどハンドルが高くないことだが、もちろん車高を下げて大アップハンドルを採用したら、FJRではなくなってしまう。何だか微妙なひっかかりを抱えたまま、今回の試乗はスタートすることになった。

 もっとも、高速道路に乗り入れて10分ほど経過した段階で、微妙なひっかかりはどこかに消え失せ、そうそうそう!……という気分に僕はなっていた。改めて言うのも気が引ける話だが、このバイクは高速巡航が素晴らしく快適なのだ。


 もちろん、今どきの大排気量クルーザーやアドベンチャーツアラーでは、快適な高速巡航はごく普通になっているけれど、並列4気筒では珍しい2軸バランサーを採用したエンジンのジェントルなフィーリング、空気を切り裂きながら矢のように突き進んでいく直進安定性は、やっぱりFJRならでは。逆に言うならこのバイクで高速道路を走っても、特に気分は高揚しないのだが、そういう特性だからこそ、心身の疲労をほとんど感じることなく、長距離を淡々と走り続けられるのだろう。

 そして次に向かったワインディングロードで、僕はまたしても、そうそうそう……とつぶやきながら、ニンマリすることとなった。さまざまなカーブが続く道をFJRで走って、何とも嬉しくなったのは、コーナリング中の安定&安心感だ。具体的な話をするなら、まずコーナー進入時のフロントの舵角の付き方とバンクの仕方は、早すぎず遅すぎずの絶妙な設定で、その気になれば任意の角度で止めることも容易。


 もちろん旋回中の車体に不安な気配は一切ないし、適度な車高の高さが功を奏しているようで、向き替えは至ってスムーズ。しかも立ち上がりでアクセルを開ければ、狙ったラインにきちんと乗りながら、滑らかにして豪快な加速が堪能できるのだ。




 ただしYZF-RシリーズやMTシリーズ、あるいは、トレーサー900やテネレ700など、近年のヤマハ車に慣れ親しんだライダーの中には、刺激が少ないFJRのハンドリングに、物足りなさを感じる人がいるかもしれない。とはいえ僕自身は、他のモデルとは一線を画する穏やかで優しいFJRの乗り味に、ヤマハの懐の深さを感じた。

 さて、基本的な素性の話がメインになってしまったが、第3世代から追加されたライディングモードやトラコン、ASの特徴であるYCC-Sや電子調整式サスなども、現代のFJRを語るうえでは欠かせない要素で、いずれもロングツーリングでは有効な武器になる。そのあたりを認識した僕は、前述したように、FJRが熟成の極みに達していることを実感したのだが、一方で車体の重さと大きさを考えると、このバイクの本当の魅力は、年に数回以上のペースで、1000km以上の長旅に出かける人じゃないと、理解できないのかもしれない……感じたのだった。

ディテール解説

セパレートタイプのハンドルは3段階の前後位置調整が可能。フロントフォークは、AS:倒立式、A:正立式を採用する。標準装備のグリップヒーターは温度調整機能付き。

電装調整式スクリーンの移動範囲は上下130mm。独創的な曲線2本レールを採用しているため、動きはスムーズにしてスピーディ。なおスクリーン下部には、快適性に貢献するセンターエアダクトを装備。

メーターはアナログ式回転計+液晶ディスプレイ×2。4代目では各部のデザインを変更すると同時に、レンズの表面をシボ加工することで、照り返しや写り込みを最小限に抑えている。

インナーカウル左側に備わる小物入れは、メインキーと連動しているため、キーをオフにすれば自動的にロックされる。内部にはシガーソケットタイプの12VDC電源を設置。

左側スイッチボックスは機能満載だから、慣れないうちは操作に迷いそう。左手でギアチェンジが行えるパドルシフトは、ダウンを親指、アップを人差し指で操作。パドルシフトを導入しているものの、一般的なシフトペダルも装備される。なおゴー&ストップのわずらわしさを解消するため、FJRは停止時に自動的に1速になる、ストップモードを導入している。

フィット感抜群のガソリンタンクは、25Lの大容量を確保。ツーリングにおける燃費は20km/L前後だから、その気になれば無給油で500kmを走れなくはない?

シートは前後分割式で、メイン座面の高さは805mm/825mm。ボディと同色でペイントされた、純正アクセサリーパーツのサイドケースは、ワンタッチで脱着することが可能。

2軸バランサーを採用する並列4気筒エンジンの基本構成は、初代から不変。5→6速化が行われた4代目のミッションは、セパレートドッグ構造とヘリカル式ギアを採用している。

フロントがφ292mmディスク+対向式4ピストン、リヤがφ282mmディスク+片押し式1ピストンのブレーキは前後連動式。フロント→リアだけではなく、状況に応じて、リア→フロントへの伝達も行う。

マフラーは左右出し。後輪駆動はシャフト+ギア式で、ファイナルケースはフローティングされていないものの、リアまわりの挙動に違和感は皆無。専用設計のタイヤはBT-023。

主要諸元

FJR1300AS ※【 】内はFJR1300A




認定型式/原動機打刻型式 2BL-RP27J/P518E


全長/全幅/全高 2,230mm/750mm/1,325mm


軸間距離 1,545mm


最低地上高 125mm【130mm】


シート高 805mm(低い位置・出荷時)/825mm(高い位置)


車両重量 296kg【289kg】


燃料消費率


定地燃費値24.6km/L(60km/h) 2名乗車時


WMTCモード値 16.6km/L 1名乗車時


原動機種類 水冷・4ストローク・DOHC・4バルブ


気筒数配列 直列, 4気筒


総排気量 1297cm3


内径×行程 79.0mm×66.2mm


圧縮比 10.8:1


最高出力 108kW(147PS)/8,000r/min


最大トルク 138N・m(14.1kgf・m)/7,000r/min


始動方式 セルフ式


潤滑方式 ウェットサンプ


エンジンオイル容量 4.90L


燃料タンク容量 25L(無鉛レギュラーガソリン指定)


吸気・燃料装置/燃料供給方式 フューエルインジェクション


点火方式 TCI(トランジスタ式)


バッテリー容量/型式 12V, 12.0Ah(10HR)/GT14B-4


1次減速比/2次減速比 1.562/2.693


クラッチ形式 湿式, 多板


変速装置/変速方式 常時噛合式6速/リターン式


変速比 1速:2.500 2速:1.722 3速:1.350 4速:1.111 5速:0.962 6速:0.846


フレーム形式 ダイヤモンド


キャスター/トレール 26°00′/109mm


タイヤサイズ(前/後) 120/70ZR17M/C (58W) (チューブレス)/180/55ZR17M/C (73W) (チューブレス)


制動装置形式(前/後) 油圧式ダブルディスクブレーキ/油圧式シングルディスクブレーキ


懸架方式(前/後) テレスコピック/スイングアーム(リンク式)


ヘッドランプバルブ種類/ヘッドランプ LED/LED


乗車定員 2名

ライダープロフィール

中村友彦




1996~2003年にバイカーズステーション誌に在籍し、以後はフリーランスとして活動中。1900年代初頭の旧車から最新スーパースポーツまで、ありとあらゆるバイクが興味の対象で、メカいじりやレースも大好き。バイク関連で最も好きなことはツーリングで、どんなに仕事が忙しくても月に1度以上は必ず、愛車でロングランに出かけている。




現在の所有車は、1974年型モトグッツィV850GT、2006年型H-D XL883、1985年型ヤマハTZR250など。

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