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内燃機関超基礎講座 | 水平対向エンジンのカムシャフト、直列エンジンとはどのように異なるのか


片側2気筒だから見たことのないくらい短いカムシャフト。水平対向4気筒ならではの特徴だ。FJ型からFB型へ移行するにあたり、スバルは効率と出力を両立するためのさまざまな知恵を盛り込んだ。


TEXT:牧野茂雄(MAKINO Shigeo) PHOTO:瀬谷正弘/牧野茂雄


*本記事は2012年3月に執筆したものです

通常、カムシャフトは鋼(鉄材)を成形して造られる。しかし、富士重工業(現スバル)はEJ型の後期から引っ張り強度400MPa級引き抜き鋼製の中空パイプを使用している。鋳物や鍛造品に比べて軽いからだ。そのパイプに焼結合金製のカム山(カムロブ)を特殊な製法で合体させている。カムシャフトになったときのベース円直径は34mmであり、ほかのエンジンに比べると細い。しかも中身が詰まっていないから軽い。EJ20の最終型はベース円37mm径のカムシャフトだったが、それまでのものに比べて1本当たりで約400グラムも軽く出来たそうだ。

最上段はパイプ材に拡散結合という特殊な方法でカムロブを合体させた状態。2段目はフロントエンドピースを摩擦圧接で合体させた状態。金属組織そのものが混ざり合い、しっかりと結合されている。最下段はエンジンに組み込む完成状態。旋盤加工と研磨が施され、潤滑油をとおすためのオイル穴が開けられている。

FB型エンジンは、EJ型に比べてピストンが往復する距離(ストローク)が長くなった。しかし、エンジンそのものの幅を広げてはいない。水平対向エンジンは横に(クルマの全幅方向に)長いから、エンジン幅が広がるとエンジンルームに収まらなくなる。そこで、ロングストローク化してもエンジン幅が従来と同じになるよう、燃焼室とバルブまわりの設計が工夫された。




また、FB型は燃費と出力性能の高次元での両立を目指したため、バルブのリフト(作動)量がEJ型の10mmに対して11mmと増えている。より多くの空気を取り込み、燃料を残さず燃やすためである。そのため、カム山が直にバルブを押すのではなくシーソーのようなロッカーアームを介して押すタイプに変更された。さらに、燃料を燃やすときに熱を逃がさないよう、燃焼室をコンパクトにする必要から、吸気/排気バルブが向かい合う角度は浅くできている。

カムロブが押すのは、円筒形のローラー部分だ。ローラーロッカーアームと呼ばれ、これを使うとバルブリフト量を稼げる。ちなみに、この部品はバルブの上に「乗っかっている」だけである。もう片方の突起の下にソリッドピボットがある(HLAではない)。

カムシャフトは1本あたり3つのカムキャップでカムシャフトキャリアに固定される。一番前側のこのカムキャップは、吸気側と排気側を中央部分で一体化させた構造となっている。超精密加工されたカムシャフトは、カムシャフトキャリアから素手で取り外すのが難儀なほどぴったりと密着しているが、潤滑油が供給されるときれいにスルスル回る。

こうしたバルブ/燃焼室まわりの要件を満たすため、カムシャフトは細く、軽くする必要があった。選択肢としてはパイプ材が最適だと判断され、EJ型用のパイプ製カムシャフトよりもさらに「攻め」た設計になっている。地味な部品だが、確実に進歩しているのである。




下に示すのは、水平対向エンジン用の歴代カムシャフト構造図。EJ初期型のSOHC仕様では通常の中実(中身が詰まった)鋳鉄製だったが、鋳込むときに中子を使い場所によって肉厚が変わるように鋳造された。EJ型のDOHCは、鋳鉄シャフトにガンドリルで深い穴をあけ、全体の半分以上を中空にしていた。大きく変わったのはEZ型(6気筒)からであり、富士重工業として初めて中空パイプを使用、それをEJ後期型に展開した。その進化版がFB用で、同じパイプでも肉厚を極限まで薄く攻めていることがわかる。

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