1999年4月に発売され2009年に生産を終了したホンダのFRピュアスポーツオープンカー「S2000」の発売20周年を記念し、同社の純正用品を開発・販売するホンダアクセスは“20年目のマイナーモデルチェンジ”をコンセプトとして新たなカスタマイズパーツを開発。S2000の現役当時に販売されていた純正アクセサリーの復刻と合わせ、2月20日より1年間の期間限定受注生産で販売を開始した。
今回、1999年式の2.0L初期型(AP1-100)にそれら用品のほか、2020年の東京オートサロンおよび大阪オートメッセでの展示用に作られたワンオフパーツを数多く装着する、ホンダアクセス所有のテスト車両に、ワインディング、高速道路、市街地で試乗。筆者が所有する2003年式の2.0L中期型(AP1-120)と、オーナー視点で細部にわたり比較した。
REPORT●遠藤正賢(ENDO Masakatsu)
PHOTO●遠藤正賢、本田技研工業、ホンダアクセス
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S2000は、デビュー当初は特に、タイプRの赤バッジが付いていないのが不思議なほどスパルタンなスポーツカーだった。
クローズドボディのクーペと同等以上のボディ剛性をもたらすハイXボーンフレーム構造、9000rpmを許容しリッター125psもの高出力を実現したF20C型2.0L直列4気筒DOHC VTECエンジン、シフトストローク36mmのクロス&ローレシオ6速MT、分離加圧式ダンパーを用いた前後ダブルウィッシュボーン式サスペンションなど、ほぼすべてが専用開発されている。
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その結果、生まれながらにしてタイプRを凌ぐ加速性能と官能的なサウンド・レスポンス、シフトフィール、前後重量配分が50:50でバランスが良く切れ味鋭いハンドリングと高次元の旋回性能を備えていた。が、その代償として低回転域でのトルクは細く、乗り心地は相応にハードで、かつ限界域での挙動はシビア、内外装の質感も338万円という価格にしては高いとは言えないものだった。
だが、その後のマイナーチェンジなどで、徐々に乗り味はマイルドで扱いやすくなり、内外装の質感も引き上げられていく。
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2000年7月に追加された「タイプV」では、VGS(Variable Gear ratio Steering。車速応動可変ギヤレシオステアリング)によってクイック化されたステアリングに合わせてダンパーとスタビライザー、LSDのセッティングがマイルドな方向に見直された。
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2001年9月には、標準仕様も同様にサスペンションのセッティングを変更。同時に外装色が13色、内装色が5種類、リヤウィンドウがビニールから熱線入りガラスに変更された幌も黒と青から選べるようになり、内外装各部の質感と使い勝手も向上している。
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2002年10月には、ダークカーディナルレッド・パールまたはローヤルネイビーブルー・パールのボディカラーにゴールドピンストライプ、クロームメッキドアミラー、ゴールドのBBS製鍛造アルミホイール、キルティング加工入りタン本革内装で高級感をアップした特別仕様車「ジオーレ」を設定した。
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2003年10月のフェイスリフトでは内外装の質感と使い勝手が劇的にアップ。走りについてもタイヤがフロント215/45R17、リア245/40R17に変更されたのに伴いボディ剛性が高められ、サスペンションのセッティングもよりマイルドになった。同時にブレーキパッドの耐フェード性が高められたほか、6速MTにカーボンシンクロナイザーが採用されている。
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2005年11月には、エンジンを2.2LのF22C型に変更し、レブリミットを8000rpmに、最高出力を242ps/7800rpmに下げる一方で、最大トルクを221Nm/6500-7500rpmにアップ。DBW(ドライブ・バイ・ワイヤ)を採用し、5・6速のギヤ比を高めつつ最終減速比を下げることで、低中速域での加速しやすさを大幅に底上げしている。同時にホイールのデザインを変更しシートを改良するなど、内外装の質感と機能も進化した。
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2007年10月には、前後の大型スポイラーおよびストレーキで揚力を抑えた空力ボディを前提として、サスペンションを強化し低中速域の旋回性能を高めた「タイプS」を追加。また全車にVSA(横滑り防止装置)とサテライトスピーカーを標準装備し、ホイールも5本スポークの力強いデザインとなっている。
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そして今回、“20年目のマイナーモデルチェンジ”をコンセプトとしてホンダアクセスが新たに開発した走りのアイテムは、「フロントエアロバンパー」(9万6800円)と、10mm車高が下がるスプリングとフロントに5段階の減衰力調整機構付きダンパーを組み合わせた「スポーツサスペンション」(17万500円)の2種類。
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このほか、20周年記念ロゴ入りの「オーディオリッド」(8800円)と「フロアカーペットマット」(3万800円)、「ボディーカバー ハーフタイプ」(1万8700円)、ドア開閉・スモールランプに連動する「フットライト(LEDホワイトイルミネーション)」(1万3200円)を新規開発。また「トランクスポイラー ダックテールタイプ」(4万6200円)と「リアストレーキ」(3万3000円)を復刻生産している。
これらに加え、20周年記念ロゴのエンボス加工入りシート、2.2L最終モデル(AP2-110)の5本スポーク17インチアルミホイール、市販品のナビなども装着したテスト車両は、“20年目のマイナーモデルチェンジ”というコンセプトに違わぬモダンさを備えており、「S2000が今も現役だったら…」という郷愁に思わず駆られてしまう。
ただし欲を言えば、「フロントバンパー開口部周辺はもっと要素が少なくシンプルなデザインでも良かったのでは?」と感じたのも事実。カスタマイズパーツとしては、このくらい変化感があった方が好まれるとは思うのだが。
では、これらのアイテムを装着したS2000、1999年式・2.0L初期型(AP1-100)(以下、20周年仕様)の走りはどうなのか。テストした時点での走行距離は約5万7000km、天気は晴れ、外気温は30℃超。装着タイヤはフロント215/45R17 91Y/リヤ245/40R17 91Yのブリヂストン・ポテンザS007Aだった。
筆者が現在所有するのは2003年式・2.0L中期型(AP1-120)の「ジオーレ」で、これにホンダアクセスの「フロントアンダースポイラー」、今回復刻されたものと同じ「リアストレーキ」と「トランクスポイラー ダックテールタイプ」、無限の「ブレーキパッド タイプコンペティション」、フロント205/55R16 91V/リヤ225/50R16 92Vのダンロップ・ディレッツァZ3を装着している。テスト時点の走行距離は約5万5000kmだった。
また以前には、2005年式の2.0L後期型(AP1-200。130の鈴鹿生産モデル)を新車で購入し、約6年半所有していたため、こちらとも折に触れて比較したい。
まずは幌を閉じ、フロントダンパーの減衰力は最もハードな「5」の状態で、ホンダアクセスの本社がある埼玉県新座市周辺の一般道を走行する。その瞬間に感じるのは、穏やかながらスッキリしたハンドリングと、路面の細かな凹凸をキレイにいなし車体をフラットに保つしなやかな乗り心地だ。
ノーマルはAP1-120、130とボディ・シャシーが改良されるごとに旋回時の挙動は穏やかかつリニアになり、乗り心地もしなやかになっていったが、今回の20周年仕様はAP1-130よりもさらに数段レベルアップした印象。具体的には、筆者が現在所有するAP1-120は意外にロールスピードが早く、その分ステアリングを丁寧に操作する必要があるのだが、20周年仕様はゆっくりロール角が深まっていくため、より安心してコーナーに進入できる。
その一方で、大きな凹凸を乗り越えると、特にリヤから強烈な突き上げに見舞われるため、出来る限り避けて通りたいというのが偽らざる本音だろう。
そして、和光ICから東京外環自動車道に入り、首都高速道路へ進んでいくと、速度が上がるにつれてフロント側が沈み始め、直進性が高まっていくのが見えてくる。20周年仕様のタイヤはウェット路にも配慮したグランドツーリングタイヤのため、ハイグリップタイヤを装着した筆者のAP1-120よりも直進性の面で不利なはずだが、「フロントエアロバンパー」がそれを補って余りある効果を発揮していることが体感できた。
「フロントエアロバンパー」には、コンプリートカー「モデューロX」各車の開発を通じて培われた、四輪の接地性を空力によって高める“実効空力”デバイスが採用されている。
下部中央の凹凸:
車体の下側中央に速い空気の流れを生み、直進性を高める「エアロスロープ」
下部左右の細かなスリット:
ホイールハウス内の空気の流れを整えて内圧を低減する「エアロボトムフィン」
左右両端のカナード形状:
ホイールハウスから発生する乱流を抑え、旋回性を高める「エアロフィン」
S2000用「フロントエアロバンパー」ではさらに、全長を24mm延長することでスラントノーズ化。これが、直進時に進路が乱れにくく、かつ旋回時には路面のRやバンク角に沿って、ドライバーの意思を先読みするかのように自然に曲がっていく、雑味がなくスッキリした独特の走行フィールをもたらしてくれるのだが、それはこのS2000 20周年仕様にも受け継がれていた。
しかしながら、「リアストレーキ」と「トランクスポイラー ダックテールタイプ」よりもこの「フロントエアロバンパー」の効果が勝っているのか、速度が上がるにつれて沈み始めるフロント側と反比例するように、リヤ側がリフトしてくる。しかも今回の20周年仕様はブレーキがノーマルのままで、制動バランスがフロント寄りだ。
その上さらに、ダンパー減衰力の高さと“実効空力”に安心しきって、高速の下りコーナーにブレーキングしながら素早い操舵で進入すれば、フロントに荷重が集中した状態でヨーとロールが発生するため、リヤタイヤの接地性が一気に失われる危険性をはらんでいる。そうした予兆は幌クローズかつフロントダンパー減衰力「5」の状態で頻繁に感じ取れるため、フルノーマルの車両以上にブレーキを残しすぎず、丁寧に操舵する必要があるだろう。こうした傾向は、控えめな「フロントアンダースポイラー」を装着する筆者のAP1-120では見られないものだ。
試しにフロント減衰力を最も柔らかい「1」にして東名高速道路を走ってみたが、基本的にこの傾向は変わらず。ただし、ヨーとロールの出方が筆者のAP1-120に近くなり、必然的に慎重なステアリング操作を要求されるため、急激なリヤの接地性変化を起こしにくくなるように感じられる。
また幌をオープンにすると、リヤのリフトが少なからず抑えられ、前後の空力バランスが良くなる印象。リヤサスペンションからの突き上げも逃げるため、この20周年記念車も多くのオープンカーがそうであるように「オープンカーはオープンで走ってこそベスト」と思わずにはいられなかった。
果たして箱根のワインディングを走ると、こうした印象はどう変わるか。結論から言えば、「スポーツサスペンション」と「フロントエアロバンパー」のマイナス面が顕在化しにくく、むしろプラスの部分の恩恵を最も強く受けることができた。
例え速度域の高い下りのワインディングでも、高速道路よりはコーナーがタイトになるため、前述の空力バランスの悪さから来る急激なリヤの接地性変化は起きにくい。その一方でフロント減衰力を「5」にすればターンイン時のロールスピードが抑えられるうえ、旋回中に大きなギャップに遭遇しても素早く姿勢変化を収束させるため、より安心してコーナーに飛び込める。
なお、幌の開閉による影響は、空力の要素が減る分、ノーマルと同様になる。端的に言えばクローズ時の方がリヤからの突き上げが強く、ターンイン・立ち上がりともオーバーステアが出やすくなる。ワインディングもやはり、オープンで走るのがベストだった。
では、S2000のユーザーは、今回の20周年記念純正アクセサリーを、どのように選ぶべきだろうか?
まず「スポーツサスペンション」は、フロント減衰力を高めに設定するほどターンイン時の挙動が穏やかになり、それでいて乗り心地がほとんど悪化しないため、どの仕様のオーナーであっても積極的に装着すべきだろう。だが限定500セットの予約枠はすでに埋まっており、キャンセルが発生しない限りは購入できない。ホンダアクセスには是非とも増産してほしいところだ。
一方「フロントエアロバンパー」に関しては、単体装着はもちろん、「リアストレーキ」と「トランクスポイラー ダックテールタイプ」を同時装着してもなお空力バランスがフロント寄りになるため、率直に言って無条件では薦めにくい。だが、ウィングタイプのトランクスポイラーが復刻されるかすでに装着されている、あるいはディフューザー形状のリヤバンパーが新規開発されるならば、高速道路や国際規格のサーキットを走る機会が多いユーザーでも安心して走れるようになるだろう。
S2000はデビューからすでに21年が経過しており、入手困難な純正部品が今後ますます増えていくのはほぼ確実。だからこそ、S2000オーナーがいつまでも乗り続けられるよう、ホンダアクセスがこれからもS2000を進化させるカスタマイズパーツを開発・販売し続けてくれることを、願わずにはいられない。
■ホンダS2000 20周年記念純正アクセサリー装着車(1999年式)
全長×全幅×全高:4159×1750×1275mm
ホイールベース:2400mm
車両重量:1250kg
エンジン形式:直列4気筒DOHC
総排気量:1997cc
最高出力:184kW(250ps)/8300rpm
最大トルク:218Nm/7500rpm
トランスミッション:6速MT
サスペンション形式 前後:ダブルウィッシュボーン
ブレーキ 前/後:ベンチレーテッドディスク/ディスク
タイヤサイズ 前/後:215/45R17 91Y/245/40R17 91Y
乗車定員:2名
10・15モード燃費:12.0km/L