技術が進化するに連れて、エンジンはどんどん薄味になりつつある。しかし、佐野弘宗さんの"推しエンジン"は、どれも乗り手のハートに濃厚な余韻を残すものばかり。内燃機関が淘汰される前に、ぜひ自分の舌で味わっておきたいものだ。
TEXT●佐野弘宗(SANO Hiromune)
1台目:フィアット500&パンダ【エンジン:312A2|TwinAir】
フィアットの500やパンダに搭載されるツインエアは、その名のとおりの2気筒である。2気筒といえば若者には「バイク用か!?」としか思ないだろうし、私のような中高年だと「そういえば昔の軽自動車は2気筒だったっけ」と思ったりもする。
ツインエアはバランスシャフトを備えているが、低回転での振動はやはり“ブルンブルン”と3気筒の比ではないくらい大きい。しかし、3000rpmくらいから上はいよいよツブがそろって、震動もおさまって、ビィーンという独特のビート音に変わっていく。こうなるとターボも本格稼働。6000rpmまでどんどんパワフルに勢いよく吹け上がっていく。
最近は電動モーターのように全域フラットで滑らかなエンジンが増えた。それはそれで内燃機関の理想的な進化ではあるが、さすがに2気筒になると、いかなる技術をもってしても振動は抑えきれない。しかし、マニア的な視点でいえば、これほど「美味しい領域」がハッキリしていて、回転上昇に応じてドラマを演じるエンジンは今どきめずらしい。
FCAは新世代“ファイアフライ”として1.0リッター3気筒と1.3リッター4気筒のモジュラーエンジンを登場させているので、ツインエアも遠からず主力機種の座から降りる可能性もある。味わうなら今のうち?
2台目:メルセデスAMG A 45 S 4マチック+【エンジン:M139】
いかにターボとはいえ、2.0リッターで最高出力421ps、最大トルク500Nm。素直に考えて5.0リッター級。とんでもない数字というほかない。ひと昔前の市販2リッターターボだと、いかに高性能とはいえ300ps前後まで...が相場だったが、直噴技術が普及した最近は300ps超もめずらしくなくなった。それにしても、421psとは素直にハンパない。
さすがにここまでの性能となると、最新技術をもってしても、音も振動も不気味なほどの迫力をたたえる。アイドリング中から不穏な身震いが止まらず、アクセルを踏んだ瞬間に、エンジン回転計が飛び跳ねるように吹ける。6000〜7000rpmのトップエンド領域では、いかにも限界まで空気を吸い込んだような、まさに絞り出すようなヒステリックな爆音ととなる。
同社の最新2.0リッターターボにはA35などが搭載する306psのM260型も用意されるが、この421psのM139型はない部分品だけでなく、吸排気レイアウトも逆配置となるヘッドも、シリンダーブロックも別物。さらに真正AMGらしく、ひとりの担当職人が1基ずつ最初から最後までハンドメイドする。
3台目:ポルシェ911 GT3 RS【エンジン:PGG】
最近の高性能エンジンはほぼ例外なく過給されている印象があるが、911GT3 RSのリヤエンドに鎮座するPGG型は例外的な自然吸気(NA)となる。しかも旧世代の改良版ではなく、ブロックから新世代の設計だ。
排気量4リッターで520ps。NAながら排気量1リッターあたりの比出力はなんと約130ps! 許容回転数は9000rpm!! 低中回転はマジモノのチューンドエンジンらしい粗野な振動を伝えながらも、5000rpmあたりからヒステリックな金属音を響かせるのは、同社フラットシックス伝統といっていい。
ただ、最後の1000rpm(8000〜9000rpm)は、まるで振動のツブがすべて溶け合ってしまったかのような、クリーミーな感触になるのは意外な驚きである(もちろん、実際の音質や音量、加速Gは暴力的だけど)。こんな感触を味わうのは個人的には生まれて初めて。ポルシェフラットシックスの9000rpmはこういう世界なんだな...と素直に感動する。
【近況報告】
こういう時節だからこそ経済を回さなければ……という口実で、5年ぶりにクルマを買いました。自慢じゃないですが、新車です。えへへ。お盆明けの8月下旬には納車予定。
【プロフィール】
カー・マガジンやオート・エクスプレスなどの専門誌編集記者を経て独立し、自動車系ウェブサイトや専門誌、週刊誌などのクルマ記事で活動。自家用車はルノーを3台連続で乗り継ぎ中。