現代のディーゼルエンジンで多く用いられるVGターボ。その採用の理由と仕組みを考える。
TEXT:牧野茂雄(MAKINO Shigeo)
ターボチャージャーの欠点は、エンジン回転数が低い領域では排ガス流量が少なく、アクセルペダルを踏み込んでから過給圧が上昇するまでの時間差、いわゆるターボラグ(過給遅れ)が発生することである。そこで、過給遅れをなくすためにタービンホイールを小さくして慣性モーメントを減らす(体積×密度半径2=長さの5乗だから慣性モーメントは径の5乗で効く)という手段が使われるが、径を小さくしてしまうとエンジン回転数が高く排気エネルギーが大きい領域で排気圧が高くなりすぎる。径の大きなターボを使うと、高回転側は良いが低回転域で過給遅れが目立ってしまう。この二律背反を解消するため、VG=バリアブル・ジオメトリー方式のターボチャージャーが開発された。
タービンホイールに排気を導くためのベーンが可動式になっていて、エンジン回転数が低いときにはベーンの角度を浅く(ベーンとベーンの間のスキ間を狭く)し、燃焼ガスの流速を高めて(燃焼ガスの圧力を速度に変換する)タービンの回転上昇を助ける。エンジン回転数が高いときにはベーンの角度を深く(ベーン間のスキ間を大きく)し、燃焼ガスの流速を落とす。運転状態に応じて排気エネルギーを制御し、つねに最適な過給圧を得る仕組みだ。
ベーンの角度を変える仕組みはリンク機構である。ベーンの根元は台座に開けられた穴に入っている。そこからウデ(リンク)を伸ばし、台座を囲む外側のリングに取り付けられたベーンと同数のピンとを結ぶ。外側のリングをまわすと、そのウデの長さが追従できる範囲で外側リング上のピンとベーン根元との相対位置が変わり、それがベーン角度を回転させる動きになる。簡単なリンク機構である。
通常、VGターボはウェイストゲートを備えていない。エンジンの最高回転域でベーン開度を全開(ベーン間のスキ間をもっとも大きく)にしたときにタービンホイールが回収できるエネルギーを最大値に設計するためだ。しかし、低速域での過給遅れをさらに追求しタービンホイール径を小さくし、同時にエンジンを高回転まで回すとなれば、VGでもウェイストゲートが必要になる。このあたりの設計要件は、通常のターボチャージャーとなんら変わらない。