藤島知子さんが今回チョイスしてくれた3台は、マクラーレン、マセラティ、プジョーと欧州車が揃った。乗り手の感性を刺激するエンジンづくりという点では、ヨーロッパのメーカーに一日の長があるようだ。
TEXT●藤島知子(FUJISHIMA Tomoko)
地球環境と共存していく上で、いっそう厳しさを増しているクルマの環境規制。モーターを組み合わせる電動化が進んでいく一方で、ピュアエンジンを搭載したクルマは、いつまで新車で購入できるのだろうか?と思う気持ちもあったりする。
1台目:マクラーレン570S スパイダー【エンジン:M838TE】
ここ数年で私が試乗したモデルの中で、特に印象に残ったエンジンを挙げるとすれば、一つめはイギリスメーカーであるマクラーレンの「570Sスパイダー」だ。
マクラーレンといえば、F1などのトップカテゴリーのモータースポーツで輝かしいコンストラクターとして知られてきた一方で、そこで培ってきたノウハウを、一般道で走れるロードカーに惜しげもなく注ぎ込んだクルマ作りを行っている。
なかでも、「570Sスパイダー」は、街中のドライブから気軽に向き合えるオープントップモデルという位置づけだが、ところがどっこい、アクセルを踏み込んで加速しようものなら、理性は一瞬でどこかに吹き飛ばされてしまう。V8 3.8Lのツインターボエンジンは、圧倒するような力強いトラクションとともに地面を蹴り出していく。回転の高まりと同時に抜けるような音色を奏でながら8000回転オーバーまで回っていく様子は、もはや“圧巻”の一言だ。
2台目:マセラティ・レヴァンテ ディーゼル【エンジン:A630】
最近では、欧州車を中心にディーゼルエンジン搭載車が続々とリリースされてきている。私がインパクトを受けたのは、マセラティ初のSUV「レヴァンテ」に搭載されているV6 3のディーゼルターボエンジン。
無論、イタリアの名門であるマセラティとくれば、官能的な音色を聴かせてくれるガソリンエンジンを選ぶ人が圧倒的に多いと思う。ところが、研ぎ澄ませたものが生む“官能性”で多くのファンを魅了してきたマセラティだけに、ディーゼルエンジンも普通ではなかった。
フェラーリのF1エンジンのデザイナーを務めた経歴をもつパワートレーンディレクターがマセラティ専用にあつらえたディーゼルエンジンは、粗さや不快さを感じさせることはなく、ゆったり流したい時には、まるで多気筒のガソリンエンジンであるかのように、大きな力が備わった包容力の高い走りをみせてくれる。ところが、ひとたび走行モードを「SPORT」に切り替えると、その性格が一点。お腹と胸をくすぐるようなドロドロという野太い音色を響かせてくる。エンジン回転が高まりながらピッチが揃って力がまとまっていく感覚は、高性能エンジンさながらであるし、そのうえ、高めの音が織り重なる和音のような音色は、優雅さを忘れず、上品に吠えてみせるあたりがマセラティらしい。
3台目:プジョー208【エンジン:PureTech EB series】
環境性能を高めた新世代のパワーユニットの中にも、魅力的なエンジンが登場している。
日常を彩るカジュアルなフランス車を続々とリリースしているグループPSAだが、Bセグメントのハッチバックモデルとなるプジョーの新型208に搭載されている3気筒の 1.2L直噴ターボエンジンは、退屈な低燃費エンジンになりきらないあたりが素晴らしかった。その回転フィールは3気筒とは思えない滑らかさを感じさせるし、静粛性も高く、加速する際は多段化した8速ATが力を巧く引き出し、小排気量を意識させないパワーフィールを与えてくれていた。
208は100%のピュアEVと今回試乗したエンジン車が選べるが、「退屈な未来はいらない」というプジョーのブランドスローガンにぴったりの操縦する楽しさを満喫させてくれる仕上がりになっていた。今後、このエンジンが他の車種に搭載されていくのが楽しみだ。
【近況報告】
自らハンドルを握って参戦している女性レース『KYOJOカップ』。ステイホーム中は自分とじっくり向き合うことができた貴重な時間となりました。レヴェルアップを目指します!
【プロフィール】
幼い頃からのクルマ好きが高じて、2002年からレースデビューと執筆活動を同時にスタート。走り好きと女性目線の両方向からクルマの魅力をレポートしている。
『気持ち良いエンジンならこの3台』は毎日更新です!
内燃機関は死なず! 世の中の流れは電動化だが、エンジンも絶えず進化を続けており、気持ちの良いエンジンを搭載したクルマを運転した時の快感は、なんとも言えないものだ。そこで本企画では「気持ち良いエンジンならこの3台」と題して、自動車評論家・業界関係者の方々に現行モデルの中から3台を、毎日選んでいただく。明日の更新もお楽しみに。(モーターファン.jp編集部より)