ガソリンエンジンが発明されてから100有余年。「予混合気を圧縮し、火花で点火する」という基本原理はまったく変わっていないが、要素技術はさまざまに進化してきた。今回は後者の要となるスパークプラグのお話をしよう。
TEXT;安藤 眞(ANDO Makoto)
現在のようなスパークプラグの構造が確立されたのは、1902年。独ロバート・ボッシュ社のエンジニアだったゴットロープ=ホノルトよるものとされている。
かつて自動車エンジン用のスパークプラグは、丸形断面の中心電極と、長方形断面の接地電極を持っていたが、20世紀の後半になると、電極の形状にさまざまな工夫が見られるようになってきた。例えばNGKは、中心電極にV字型の溝を切り、電極外側でのスパークを促すことで、火炎核の成長を促進。デンソーは逆に、接地電極側にU字溝を設け、狭いエアギャップによる要求電圧低減効果と溝空間による火炎核成長促進効果を狙っていた(両者とも現役だ)。
一部整備好きの間で流行ったのが、斜め電極への改造。中心電極を斜めに削り、それと平行になるよう接地電極も曲げることで、火炎核を燃焼室の中心に向かって成長させようというのが狙いだ(当時は2バルブが主流だったので、スパークプラグは燃焼室の中心にはなかった)。
僕も雑誌に掲載された記事を真似して自作してみたことがある。効果のほどは忘れたが、「ならば電極の向きを合わせる必要があるのでは?」「接地電極をエアロダイナミクス形状に削って、流動を妨げないようにしたらどうなる?」などと考え、いろいろ試したものだ。
形状工夫の次に訪れたのが、材質改良の時代。電極素材に白金やイリジウム、ルテニウムなどの高耐熱性レアメタルを採用して細径化を行い、着火性と火炎核の成長性を向上させたものだ。細径化すれば電界強度が高まって要求電圧が低くなり、低ボリューム化によって冷却損失が少なくなる、という理屈である。
こうしたプラグは、かつては交換用のスペシャルプラグとしてのみ販売されていた。それ故、「そんなに効果があるなら、量産メーカーが採用しないわけがない」などと疑念を持つ向きもあったが、今やほとんどすべてのメーカーが、なにがしかのレアメタルを使用した細径電極式のスパークプラグを採用している。理由は排ガス規制の強化と、その性能を8万kmまで維持しなければならないという法規の改正で、今やその効果を疑う者は、ほとんどいない。法規対応か費用対効果が見合わなければ、効果があっても量産メーカーはなかなか採用しないものなのだ。
そうしたレアメタル採用プラグの中で、僕が数年前から使用しているのが、NGKのプレミアムRX。白金の丸形チップを接地電極に溶接した“両針タイプ”に較べ、角形チップを接地電極から横に突き出すように溶接しているのが特徴だ。こうすることで接地電極が短くなり、火炎核の成長阻害要因が少なくなるのに加え、ヒートボリュームも小さくなって、吸熱による失火も抑制できる。
この話を初めて聞いたのは09年、スバル・レガシィのフルモデルチェンジを取材したときのことだ。エンジニア氏によると、「コールドスタート時のHC低減に効果があり、火焔伝播速度が上がってノッキングに強くなるため、暖機後も点火進角が数度、稼げる」という話だった。
さっそく自分でも試してみようと思ったのだが、当時はスバルへの純正供給が開始されたばかりで、汎用品が発売されるまで、2年ほど待たなければならなかった。そこで発売を待ち、当時、乗っていたJB23型ジムニー(K6Aエンジン)に装着してみたら、効果がはっきりと実感できた。JB23は7型以降、シリンダーヘッドが刷新されて低速の粘りが良くなったのだが、プレミアムRXプラグを付けたところ、平地なら2速発進が普通にできるようになったのだ。走り出した後も、実用になる回転域が、低速側に広がっていることが実感できた。
そんな経験があったため、最近、プラグが交換時期を迎えたルノー・カングー(H5F型エンジン)にも装着してみようと思ったのだが、残念なことに、NGKの適合表にはH5F型エンジンは載っていない。そこで自己の責任において、寸法と熱価が合い抵抗入りのもの(LKAR7ARX-11P)を選んで装着してみたのだが、ジムニーの時と同じ効果が実感できた。さすがに2速発進するのは無理があるが、過給圧が上がらない領域でのトルクが増し、シフトダウンインジケーターが点灯した状態から加速できる領域が広がった(DCT車で体感できるほどの効果があるかどうかはわからないし、ルノーもNGKも適合を保証していないので、やってみようという人は自己責任で)。
なんだかNGKの宣伝みたいになってしまったが、既述のように、たまたま縁があったのがプレミアムRXだっただけの話。以前、乗っていた日産エクストレイル(QR20DEエンジン)には、デンソーのVKプラグを使用して、なかなか良いフィーリングを得ていた。