エクストリームなコンロッドの例として、高回転化に突き進んでいた自然吸気エンジン時代のF1を取り上げる。自然吸気エンジンとしては高い燃焼圧に耐えながら、19000rpmを超える回転で発生する慣性力にも耐えなければならない。コストの制約も量産とは比較にならず、ゆえに量産品では真似のできない独特なスペックとなっている。
TEXT:世良耕太(Kota SERA) PHOTO:折原弘之(Hiroyuki ORIHARA)
原理原則を究めれば、量産もF 1も基本は同じ
量産コンロッドのキャップの合わせは「かち割り」だが、08年のF1コンロッドは「ウェイビー」。第3期(00年~08年)初期はノックピンを使用していたが、途中から切り換えた。結果、コンロッドキャップ組み付け時の位置ずれ精度が一気に良くなったという。ワイヤー放電加工によって処理。量産ピストンのクーリングチャンネルはトップランドとリング溝を守るのが主目的だが、第3期F1のピストンは天井中央が弱点だった。オイルジェットを複雑に進化させて冷やす努力と並行して、入れたオイルがすぐに出てこないような構造にもトライした。F1~量産~F1と経験したエンジニア氏は量産とF1について、「基本は同じ」だと語る。「原理原則を究めてしまえば、差異があるわけではない」と。
2003年実戦投入仕様 V10/2003
上は中空断面形状のボックスコンロッド。SP700チタン合金を拡散接合して製作。05年に接合構造が禁止されたため、以後はI型形状に。右上は第3期最終年にあたる08年のコンロッド。棹部中央にある隆起の内部には、クランクピン側からピストンピン側に供給するオイルの通路(放電加工で製作)が設けてある。これを機能させるためにはメタルにも穴を開ける必要があるが、その結果、メタルの信頼性が犠牲になってはいけない。常時適用していたわけではなく、適用できる構造にしておいた。