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デザイン考:2人の新たなスポーツギアの形=ダイハツ・タフト


久しぶりの懐かしい名前で登場したダイハツ新型タフトだが、かつてのクロカン4駆とはコンセプトがまったく異なる、ブランニューなモデルとなる。このタフトが軽自動車となって狙うものは、新たな形のスポーツギアだ。

WakuWakuの見せるベクトルの異なるSUVの形

2019年の東京モーターショーで発表されたコンセプトカーWakuWaku。
リヤフェンダーのプロテクターを延長させたり、ドアハンドルを隠して2ドア風の仕立てとなっている。またルーフサイドの形状でリヤエリアを小さく見せるなど、面白いトライがなされた。
まさに道具箱。ビルトイン型のルーフボックスなど、多くのアイデアが提案された。

 新型タフトのコンセプトをよく知るためには、2019年の東京モーターショーに出品されたコンセプトカー、WakuWaku(ワクワク)を見るとわかりやすい。デザインを造る時には、最初は発想となるアイデアスケッチをどんどん描いていくのだが、コンセプトカーは方向性の見えてきた立体のアイデアスケッチともいえる。それもタフトについては、WakuWakuがすでに実車に近い形で登場したので、タフトの狙いが見えてくる。


 WakuWakuは4ドアなのだが、後席エリアはマルチユーススペースとして、乗ることもできるがさまざまなスポーツギアの積載場所として使いやすいものとなっている。そのアイデアはルーフにも及び、フロント席側は大きなグラスルーフ、リヤ側は一体型のルーフボックスとなっている。後席以降は、人も荷物も心置きなく載せられる自由スペースという考え方だ。

ハイラックスサーフの北米モデル4Runnerは1984年の登場。ベースのピックアップトラックから、全天候型の荷台とするべくFRPでカバーし荷物だけでなくを積める考え方が最初の発想。

 言ってみるならば、コンセプト的には初代のハイラックスサーフ。北米でいう4Runner(フォーランナー)の考え方に近いように思う。


 サーフはピックアップトラックの荷台を樹脂のルーフで覆うイメージから始まっている。ピックアップの利便性をオールウエザー化して、さらに人も乗れるようにしたというものだった。




 WakuWakuはそうした機能を表現するために、デザインも極めて個性的。プロポーションとしては、フロントドア以降のリヤドアやルーフラインも小さく見えるようにして、運転席部分以下にユーティリティ部分を合体したような形となっている。


 あえて荷室部分を小さく見せることで、まったくこれまでに見たこともない、2シーター(に見える)スポーツギアを生み出している。

WakuWakuから生産型・新型タフトが誕生

タフトではリヤドアの存在感を強めるが、リヤウインドウは小さめ。

グラスルーフは標準装備。まるでサンルームだ。

 ここから生まれた新型タフトだが、やはり特徴となるのがリヤウインドウを小さくしていることだ。これによって、フロント席とちょっと違うリヤエリアをイメージさせる。また全車標準装備でグラスルーフを採用するなど、前席はサンルームのような明るさに満たされる。さらにインテリアカラーも前席と後席で分けられていて、後席側の機能が前席とは異なることが主張されている。残念ながら、ビルトイン型のルーフボックスは装備されなかったが、そのぶん頭上空間はたっぷりととられた。

前後でカラーの異なるインテリア。ダイハツでは、前席をクルースペース、後席以降をフレキシブルスペースと表現している。

 ボディは直線基調というだけでは、言葉が足りなそうだ。凝縮したかたまり感を示すのに、インゴット=鋳造からの削り出しという表現が使われることがある。しかし、それともちょっと違う印象だ。むしろ、押出し材のような硬さを感じたりする。そのベースボディに機能部品を組み付けることで仕立て上げられたような形だ。面質は極めてフラットに近いながらも、薄い鉄板のペナっとした感じがなく、しっかりとした厚みが感じられる。




 もはや “車かくあるべし” のデザインではなく、精密機器を持ち運ぶためのPROTEXなどのような、プロテクター・ツールケースに駆動輪を付けたようなイメージに近い。新型タフトはかつてのネイキッドとよく比較されるが、本来の目的や質感などはまったく異なると感じられる。




 コンセプトカーのWakuWakuは、2人乗り +〔2人+使い倒せる荷室〕というイメージ。リヤドアの印象を消すようなコンセプチュアルなスタイルだ。“頭でっかち” なこのままの形で登場すれば、かなり個性的なものとなったはず。新型タフトでは、この後席以降のコンパクト感がなくなり、ある程度明確な4座感も打ち出された。…とは、残念な思いにはなるが、遊びの単位として4人が均等に快適なエリアを確保できるのは、決して悪くない。


 ちなみにハイラックスサーフも2代目以降は、ルーフもスチールの一体型となり、ドアも4ドアとなっている。それでもサーフとしての立ち位置を明確にし続けている。

語りかけるハスラー、道具箱に徹したタフト

スズキ・ジムニー(左)とスズキ・ハスラー(右)

 ところで、競合といってすぐに思い出すのはスズキ・ハスラーだろう。ハスラーは、ライトSUV的存在として市場を大きく変えるほどの影響力を持つモデルだ。さらに、スズキの軽自動車にはオフロード界でも一目置かれるジムニーもある。


 ダイハツとしては、軽自動車としてハスラーやジムニーなどのようなSUVカテゴリーがなく、よりごついモデルが欲しいところだ。そんな視点でいうと、ポジション的にはジムニーとハスラーの間くらいのモデルがタフトだといえそうだが、前述の通り前席より後ろはマルチスペースという考え方がある時点で、大きく異なる位置にいる。

初代パジェロミニ。ジムニーほどではないが十分な堅牢さと、ミニカの扱いやすさを兼ね備えた。

 では、この3車にどんなデザインの違いがあるのだろうか。


 ジムニーは仕事に必須とされるニーズもあるなど、プロユースに応えられることも必須。つまりは徹底した機能からデザインされ、いかにも整然としたモデルでもある。そこからの徹底した直線基調が、朴訥(ぼくとつ)なジムニーらしさの説得力となっている。


 ハスラーは初代より、フレンドリーなSUVスタイルを持った。ジムニーほどの本格機能は必要ないが、そこそこのラフロード性能とジムニーよりももっと広い居住空間、荷室空間は欲しい。


 ここに至る時の思い出されるのが、スズキが持つジムニーでの過去の苦い思い出だ。それは、90年代に三菱から発売されたパジェロ・ミニの人気ぶりだ。ジムニーの踏破力には及ばないものの、当時、北国のナースはパジェロ・ミニを選ぶといわれたほど。ラダーフレームを持つジムニーは、堅牢性では突出するがフロアは高く運転にもある程度の緊張感を伴った。対するパジェロ・ミニはモノコックボディの恩恵からフロアが低めで、乗降性が良い。運転感覚もミニカ・プラスアルファくらいの意識で乗ることができた。それらのこともあって、大きなヒットを得たのだった。


 SUVの裾野を広げるには、プロユースとは違うレジャーユースに向くイージドライブの魅力を持っているべきとの思いが、このハスラーにつながるコンセプトを温め続けたのではないだろうか。

初代ハスラー。扱いやすくフレンドリーな存在感は、ジムニーの取りこぼした裾野の広いレジャーユースに向く。

 それゆえに初代ハスラーは、自動車業界の禁を破るようなやや笑顔のモデルとして生まれた。誰でも迎え入れる、包容力が感じられる。四角いながらも面は柔らかく、広さと優しさを兼ね備えた形だった。続く2代目は当然ながら初代の大人気を受けて、キープコンセプトとなる。しかしさらに室内の広さや使い勝手のよさをアピールするように、より四角いスタイルへ。




 さらに、サイドウインドウの後方のリヤピラーにもう一つ窓を持つ、6ライトとした。より広く日常的に使える荷室をアピールすることとともに、後方視界の改善をも図った。


 先代から香らせていたノスタルジックな要素をさらに加味し、ツートーンのルーフの塗り分けをリヤピラー部分にまで拡大。かつてのジムニーの幌仕様のイメージも織り込んだ。一緒に遊びに行こう、と語りかけているような雄弁さを感じる。

道具としてガンガン使うのが似合う新型タフト

機能性が重視された新型タフトのインテリア。主要なスイッチのを大きく設置し、操作性を高める。適度なメカっぽさも楽しい。

 ここまで読み進めていただければ、だんだんタフトの立ち位置が見えてくるのではないだろうか。


 実際のところ、ハスラーとはフォルムや構成要素の扱いなどにも似ている点が結構あったりする。


 前後フェンダーカバーの黒い樹脂が、前後に回り込む造形は同じ考え方だ。しかしそんなことがあっても、印象はまったく異なる。


 それは、元々の発想の起点が異なるからだが、造形イメージもタフトは大切なものを守るプロテクター・ツールケースという道具箱に徹したものに感じられるからかもしれない。モノに徹した、頼れるギアという印象だ。


 かつてのタフトは、完全なクロカン4駆だった。コンパクトでありながら行動範囲の広さが魅力だった。そんなヘビーさを、新型タフトは現代的にストリートダウンして見せた。新型にはそんな解釈もできる。




 さらにわかりやすくいうならば、ハスラーは週末に家族で洗ってあげるのも似合う、新たなファミリーカー。そしてタフトは、キズも勲章になるような、ガンガン使い倒すヘビーツール、というところかもしれない。

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