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VWのもっとも小さくもっとも新しいSUVが、ニューモデルのT-Cross(ティークロス)だ。ポロ派生のSUVのT-Cross。なりは小さいが存在感は小さくない。モータリングライターの世良耕太が試乗した。
TEXT&PHOTO◎世良耕太(SERA Kota)
「まさかティグアンじゃないよね」
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「まさかティグアンじゃないよね」と一瞬戸惑うくらい、初対面のフォルクスワーゲン(VW)T-Cross(ティークロス)は立派に見えた。フロントマスクにボリューム(とくにバンパーまわり)があるし、SUVなので当然だが背が高く、プレスラインの入れ方による効果なのか、サイドビューはキリッとして存在感がある。
後ろに回り込んでT-CROSSのロゴを確認しつつ、横にゴルフを並べてみてやっと、「やっぱり小さいんだ」と納得した。寸法は以下のとおりである。
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T-Cross TSI 1st Plus(339.9万円)
全長×全幅×全高4115×1760×1580mm ホイールベース2550mm 車重1270kg
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Polo TSI Highline(278.8万円)
全長×全幅×全高4060×1750×1450mm ホイールベース2550mm 車重1180kg
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Golf TSI Highline Meister(374万円)
全長×全幅×全高4265×1800×1480mm ホイールベース2635mm 車重1320kg
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Tiguan TSI Highline(471.9万円)
全長×全幅×全高4500×1840×1675mm ホイールベース2675mm 車重1540kg
寸法を並べてみると、T-Crossはポロの派生であることが想像できる(実際そうだ)。ホイールベースは同一で、ゴルフより85mm短い。後輪を輪留めにあてた状態で見比べてみると、T-Crossはゴルフより短いのがはっきりわかる。とくに、リヤオーバーハングの短さが際立つ。しかし、存在感は負けていない。
(ちなみにトヨタ・ヤリスクロスのボディサイズは全長×全幅×全高mm:4180mm×1765mm×1560mm ホイールベース:2560mmで、T-Crossとほぼ同じだ)
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前後のドアやバックドア(手動開閉式だ)を閉める際の音はまるっきりゴルフと同等で、ということは世界トップクラスで、惚れ惚れするほどに重厚な音がする。ゴルフからポロへの乗り換えだとひとランクダウンするような感覚を覚えそうだが、T-Crossを選択する場合は逆に、ひとクラス上のクルマに乗り換える感覚を味わうことができそうだ。外観から受ける印象やドアを開け閉めした際の音だけでなく、車内に乗り込んだ際も同様である。
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ダッシュボードやドアトリム、ドアグリップは、そこだけ注視するとコストを意識した材料を使っているのが明白に伝わってくるが、随所に配したクロームメッキのパーツや差し色に意識が向かうため、普段どおり過ごす限り、チープな印象は一切受けない。過度にきらびやかだと落ち着きがなくなるし、ダークなトーンばかりでも味気ないが、T-Crossは乗り込む人に適度な高揚感を味わわせる絶妙なムードを漂わせている(内装色のカラーを選択できる1st Plusはなおさらだ)。
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運転席に収まった状態で目に入る表示系もひと世代前、あるいは現行モデルでも最新ではないVW車に乗っている人なら、フレッシュなビジュアルに「いいね!」となるはずだ。運転席前のメーターとセンターのインフォテインメントシステムは基本的にポロと共通で、8インチタッチスクリーンが映し出す画像は高精細で見やすい。ゴルフやティグアン、パサートなどが搭載する最新インフォテインメントシステムは、大画面(9.2インチ)なのはありがたいが、ナビの拡大/縮小ダイヤルがなくなり、「MEDIA」や「CAR(車両機能/情報)」のボタンが消えて、使い勝手が悪くなった。個人的にはポロ/T-Crossが搭載するシステムのほうが使い勝手に優れると感じている。8インチあれば画面サイズも充分だ。
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見た目どおりでシートは張りが強い印象だが、尻や腰を面でしっかりサポートしてくれるので、長時間座り続けても疲れ知らずだ。シートバックの角度調整はVWの伝統でダイヤル式である。乗り味も張りが強めだが、ヒョコヒョコと細かな上下動が続いて落ち着かない感じはないし、ロール方向に強い入力があったときに頭が急に振られる、いわゆるヘッドトスに悩まされることもない。ロールやピッチの動きをうまくいなしつつ、「しっかりしたクルマ感」を上手に演出している。
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試乗車は受け取った際の走行距離が3300km弱だった。ゴルフを2世代乗り継いだ経験から推察するに、もう少し走り込むと硬さがとれて、いい感じのしなやかさになる。「そういえば、いまのゴルフも新車のときはこんな感じだったかな」と思いながらドライブした。トレーリングアーム式のリヤサスペンション(フロントはストラット式)を覗き込んだところ、ダンパーにはザックスブランドを傘下に収めるZFのロゴがあった。
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リヤシートは充分に広い。背の高さを生かしてアップライトに座らせるからだろう。現行ゴルフの後席より膝前のスペースに余裕がある。ヘッドクリアランスも申し分ない(ついでに触れておくと、ゴルフに比べれば狭いけれども、荷室容量も充分)。前席でも感じたことだが、T-Crossの車内はものすごく静かだ。静粛性に定評のあるゴルフ7から乗り換えた直後に「なんて静かなクルマなんだ」と感心したほどである。内装のデザインや仕立て、表示系に加え、静粛性の高さも、T-Crossの「いいクルマ感」を引き上げる大きな要素になっている。
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エンジンはポロと共通の1.0ℓ3気筒直噴ターボを搭載。これに乾式クラッチの7速DCTを組み合わせる。最高出力/最大トルクは116ps(85kW)/200Nmだ。1600rpmを超えるあたり、例えば7速70km/hで走っているときに負荷を高めるような走り(上り坂に差しか掛かったような場合)をすると、こもり音と振動(ステアリングに伝わる)が顔を出すが、目くじらを立てるほどのことでもない。力は必要にして充分だ。料金所ダッシュでは、(法定速度に達するまで)なかなか鋭い加速を披露する。
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100km/h走行時のエンジン回転数は約2300rpmで、最近のクルマにしては高めだが、平均燃費を表示させながらドライブを続けていると、「ゴルフより燃費いいかも」という気がしてきた。比較対象は1.2ℓ直4直噴ターボを積むTSI Trendline系(77kW/175Nm)である。気になったので小田厚燃費(小田原西IC~厚木IC間の約32kmを、左側車線を基本に走行)を計測してみたところ、ガソリンエンジン車としては相当優秀な部類に入るゴルフの23.7km/ℓに対し、T-Crossは24.2km/ℓを記録した。
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新しいだけのことはある、と言ってしまっては元も子もないが、(見た目は立派だが)小さいからといってT-Crossのことを軽く考えてはいけない。高い実用性を備えながら(今回のレポートでは触れていないが、先進安全装備は充実しているし、ただ「付いている」だけでなく優秀である)、新しさが感じられ、「いい買い物をした」うれしさが味わえるクルマだ。
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VW T-クロス 1st Plus
全長×全幅×全高:4115mm×1760mm×1580mm
ホイールベース:2550mm
車重:1270kg
サスペンション:Fマクファーソンストラット式 Rトレーリングアーム式
エンジン形式:直列3気筒DOHCターボ
エンジン型式:EA211
排気量:999cc
ボア×ストローク:74.5mm×76.4mm
圧縮比:10.5
最高出力:116ps(85kW)/5000-5500rpm
最大トルク:200Nm/2000-3500rpm
過給機:ターボチャージャー
使用燃料:プレミアム
燃料タンク容量:40ℓ
WLTCモード燃費:16.9km/ℓ
市街地モード 13.2km/ℓ
郊外モード 17.1km/ℓ
高速道路モード10.1km/ℓ
車両価格○339万9000円